千の武功を挙げた強者にだけ贈られる称号…ベオウルフ。
 その強さは、いつの時代でも伝説になっている。

 その伝説が目の前にいる!騎士団員ならばテンションが上がらないわけがない。
 マルセロは人質を放り投げて敬礼をした。


「はっ!自分はマルセロ・モリノ、3等兵であります!現所属はありません!元は第1飛行部隊、であります…。2日前に……お、おヒマを頂戴しました…。」

 最初は威勢良く挨拶していたが、最後は尻窄みになってしまった。
 伝説の人物に恥ずべき経歴を暴露しているのだから当然か。
 マルセロとベオウルフは、ベオウルフの発生させたノイズキャンセルの影響範囲にいるため、その範囲外に頭が出てしまった人質の黒パンティ大尉には、2人が無声映画のように見えている。


「モリノ3等兵…どこかで聞いたな…。おぉ!ジョディの言ってた問題児がお前か!」

 モントリーヴォ少佐の口から出た元上官の名前に、マルセロはドキッとした。
 鬼教官の怒号が蘇ってきて、マルセロは反射的に肩を窄めてしまう。


「ははは。相当厳しくやられてたようだな。ジョディは残念がってたぞ!見込みのある奴が逃げちまったってな。」

「…自分に見込みですか……。」

 少佐の言葉を受けて、マルセロは鬼教官に言われた言葉を思い返してみた。
 残念なことに「お前はすぐ死ぬ!」しか言われた記憶がない。
 敵襲から今まで生き延びているのだから、鬼教官の言葉は誤りだったことになる。


「お前は、生き延びて、人質まで確保した。見込みのある証拠だな!」

 少佐は、そう言ってマルセロの肩を力強く叩くと、人質と一緒についてこい、と言って再び光学迷彩を纏った。
 少佐の言葉に、そういう考え方もあるな、と半分くらい納得したマルセロは、自分の光学迷彩をリブートさせると、透明な手で人質を掴んで少佐の後を追う。



 敵兵が起こす様々なイリュージョンを目の当たりにした人質の黒パンティ大尉は、この戦いに参加した事が間違いだったと、心底後悔している。
 それと同時に、ここまで間近に見てしまった人質を解放する事はないだろう、と自らの末路を覚悟した。





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 なんだか慌ててますね。

 2人は男の人…であってるよね?
 2人のうち1人はフルフェイスヘルメット被ってるけど、体格的に男の人だと思う。あれで女子だったら神河少尉よりデカイ。
 んで、怪我してる、1人だけ制服着てるのが女の人かな?
 もしかしら、こっち見えるのかな?
 試しに手を振ってみよう!


「おーい!聞こえますかー?」

 と、言ってるつもりで手を振る私。
 思念体でも女神モードは喋れませんでした。

 ダメだ。全然気づいてない。

 

 あ、ヘルメットの人がこっち見た。
 女神モードの私、子犬の尻尾並みの勢いで手を振ってみる!

 これで見えてなかったら、かなり恥ずかしい。

 ヘルメットの人がおじさん(少しイケメン)の方に怒られてる。
 なんだ、ゲートを触ろうとしてただけか。

 この状態で向こうからゲート触ったらどうなるんすかね?
 禁忌事項だから怒られたんだろうけど…。てか、結局見えてないのかぃ!


 それよりも、おじさんはさっきから動かない看護師さん達に夢中っすね。
 まさかこの非常事態にエロい事しに来たわけじゃないよね?

 その怪我してる人を助けに来たんだよね!?