宇宙はとても騒がしい。

 耳を澄ますと、地上の何千倍、いや、何万倍もの生命の息吹が聴こえてくる。



『いつか…宇宙人の友達が…できるのかな…。』

 少しずつ凍っていく意識の中で、私はそんなことを考えていた。



「さくらちゃん、おきて…。」

 母の声がした。


『…ママ?』

 起き上がろうとしたが、全身の力が抜けてしまっていた。
 やっとの思いで開けた目に映ったのは床だった。
 綺麗に塗られた真っ赤なフットネイルが見える。
 真っ白なこの空間にとても良く映える、赤だ。


「ごめんなさい。私はあなたのママはじゃないの。」

 声の主は、聞きなれた母の声で、母ではない、と言った。


『…じゃあ、だれ?』

「そうねぇ。私は、あなたのひいおばあちゃん、とでも言っておこうかしら?ふふ。」

 自称ひいおばあちゃんは、悪戯っぽく笑って言葉を続ける。


「さくらちゃん、今どこいるか分かる?」

『…人工衛星。』

 私は当然の如く答える。


「違うわ。さくらちゃんは、さっき死んでしまったの。ここは、どちらでもない狭間の世界。」

 自称ひいおばあちゃんは、サラッと冷酷なことを言う。



『私の計画は失敗したんだ。メガネさんの計画は上手くいってたのに…。』

「そうね…。だけど、今ならまだ私の力で助けてあげられるかも知れないわ。あなたの望みは何?」

 自分の死を聞いても、私は不思議と冷静だった。
 この場所が彼女の言う通り、生と死の狭間の世界で、ご先祖様が死にかけの私を助けに来てくれた、と考えれば辻褄はあう。



『ルサールカを追加オンセットして、冷却するつもりだったのに…キラちゃんが暴走しちゃった…。血液パックを取られないようにしてたら、私…死んじゃった…。』

「大丈夫、きっと上手くいく。そのためにも、まずは生き返らないと…。命はあなたの意志についてくるわ。さくらちゃん、生きたい?」


 私は馬鹿げた計画を実行し、失敗した。


 そして、死んだ。

 


 せっかくみんなが繋いでくれた可能性を、私は自分勝手にぶち壊した。

 

 自分が死ぬことはないと高を括っていた。

 本当にバカだ。

 

 私は、バカで、ブスで、根暗で、どうしようもない奴だ。

 だけど、もう一度チャンスが与えられるのなら、喜んで生き返る。

 

 

 生き返って、みんなの想いを繋ぎたい。

 バカで、ブスで、根暗で、どうしようもない私だけど、私は、私は…



「い…生きたい…!私は、生きる!」

 出せる最大限の力を使って、蚊のように答えた。

 私の答えを聞いた自称ひいおばあちゃんは、想いを歌になさい、と言って横たわる私の左手にキスをした。



「あなたに祝福を与えましょう。」

 これが、私の聞いた彼女の最後の言葉だった。