今日は引越しです!
この度、父が35年ローンで買ったマイホームを手放して、平林さん一家が住む団員用住宅に引っ越すことになりました。
ローン残額は騎士団が立て替えてくれて人間界的には完済になってます。代わりにヴァンパイア界に借金できましたけどね!
騎士団へは月々の家賃にプラスで返していく形らしいです。無利子なので今までよりもずっと早く完済できるって母は喜んでました。
あと、今までの家は売りに出してるから、売れたらそのお金も騎士団への返済に回すんだってさ。
引っ越すことになった理由は、私のカミングアウトが発端です。
家族に隠し通す自信がなかったので、霧島中尉に相談したら告知は自由って言われたので、思い切ってカミングアウトすることにしました。
自由って言われただけで、受け入れてもらえなかった時に家族がどうなるのかは言われなかったけど。
私は家族を本部の軟禁部屋に呼んでもらって、自分が人間でなくなってしまったことを説明しました。
事前に中尉や爺と機密事項に触れないように説明文を練って、何度も説明する練習をしたけど、いざ家族を前にしたら全然練習通りに説明できなくて、説明に詰まった私は女神姿に変身する、という強硬策に出ました。
メディアを賑わせている噂の女神が突然現れた上に、正体が似ても似つかないブサイクな我が子だった訳で、家族の驚き方は腰を抜かすとかのレベルじゃなかったです。
父は119に電話し始める(圏外です)し、母は平林さんにティッシュ配りだすし、兄はブリッジしたまま戻らないし、同席してくれた中尉が家族を落ち着かせようと頑張ってくれた(女神姿の私は喋れないので)けど、プチパニックが収まる気配は全くなかった。
試しに私が歌ってみたら、家族が正気を取り戻す、という中尉の努力を無駄にするパターンになっちゃいました。てへぺろりん。
カミングアウトの結果、なってしまったものは仕方ないってことで、家族は一応の理解は示してくれました。
騎士団と呼ばれる軍隊に入隊したことを伝えた時は、さすがに両親の顔がとてつもなく歪んだけど、中尉から渡された配属部隊についての資料を読んだら、快くOKしてくれました。
私からは見えなかったんだけど、何が書いてあったんすかね?
まぁ、だいたい想像つきますけど!
そんな訳で、今日から家族まとめて王国騎士団のお世話になります!
といっても、家族の生活は学校も仕事も今まで通り、何も変わりません。
違うのは体内に監視用のチップが埋め込まれていることくらい。
このチップを埋め込まれると、位置情報が常に送信されるだけでなく、特定のキーワードを話そうとすると吃って話せなくなる脳波制御もされるそうです。
私の家族には、軟禁部屋に呼んだ時のボディチェックで既に埋め込まれてたっぽい。
そんで、この住宅。遠くからだと15階建てが4棟並んでいるように見えるけど、建物の1~5はショッピングモールになっていて実は全棟繋がっています。
このモールは、地域の人達も実態を知らずに利用してるし、雑誌やテレビでも良く特集されてます。
働いている人も普通の人間のはずです。
ぱっと見は一般的なモールや住宅だけど、セキュリティは凄いです。警備員はもちろん素性を隠した騎士団員だし、モールから居住区に移動するにはいくつもの生体認証をクリアしないとダメな鬼仕様。
まず居住区への最初の自動ドアは顔認証の登録がないと開きません。そう言えば、本部施設で顔認証をあんまり見かけないけど、みんな変身すると顔が変わるせい?
次の手動ドアは、ノブに触ると指先の毛細血管がスキャンされます。
最後の昇降ポッドは虹彩が認証されないと操作できない仕様で、操作は全て音声。つまり声紋認証されます。
凄いのは全てストレスなく実行されるところ。歩いてるだけとか、触っただけとか、普通に行動してるで認証されます。
ちなみに、最初の自動ドアは一度開いたら何人かまとめて通れるけど、手動ドア以降は1人用なので、自動ドアの先には大量の手動ドアが、その先には更にドアの倍くらいポッドが並んでいます。
平林さん曰く、それでも朝晩は並ぶ、らしい。
「ねぇ、爺。ここって何人住んでるの?」
モール内のカフェでお茶しながら聞いてみた。
もちろんイヤホンマイク使ってますよ。公共の場でぬいぐるみに話しかけてたらヤバイ人だと思われそうじゃん?
ヴァンパイア語で話してるけど、金髪モードでマスクしてるから外国人にしか見えないはず。
《この、ネスト、は、250、戸、仕様、ですじゃ。現在、は、103、の、ヴァンパイア、と、その、家族、351、人、が、住んで、います、のじゃ。》
「戸数は多くないんだね。てか、半分以上開いてるじゃん!」
《最低、5LDK、の、広さ、が、売り、ですじゃ!低階層、の、空き部屋、は、騎士団員、の、宿舎、に、利用、されて、います、のじゃ。》
「へぇー。どうりでウチも広いわけだ。」
引っ越しなのにのんびりしてて、すんません。だって、やることないんだもん。
入口が狭いからって、引っ越しは専門業者(たぶん騎士団)が上からヘリコプターで運ぶんです。
ここの屋上は変な電波が出てるみたいで鳥が飛びません。
ドローンも屋上に近づくと操作不能になるって、前にネットニュースで見た気がする。
技術レベルは、ヴァンパイア界>人間界の図式になってるようです。
ちなみに、ヴァンパイア界は独自の通信規格を使ってるので、私のまみぃちゃん(爺)では人間界のキャリアに接続できません。
《姫様、神河少尉、から、お電話、です、じゃ。お受け、に、なり、ますかな?》
「うん。でる。……はい、田中です。少尉、どうしたんですか?」
「准尉、緊急ではないが、中尉から召集が掛かった。すぐ本部に来てくれ。」
「え?今日は引っ越しでオf……」
ツー、ツー、ツー、ツー、…
「切るの早っ!」
有無を言わせない召集命令…。
口下手な神河さんを伝令役にする理由がよく分かりました。