今日は誰も面会に来てくれませんねぇ。
二階堂姉妹か霧島先輩が来る順番だと思ったのになぁ。
今日の平林さんはお腹が痛いのか、とても険しい顔をしていて話し掛けづらいし、何ともヒマな軟禁生活3ヶ月目の某日。
「失礼します。」
噂をすればなんとやら。
ヴァンパイア界のスーパーアイドル、ViPのリーダー、霧島先輩の登場です♪
「田中さん、ここでの生活は本日までとなります。明日からはご実家に帰れます。長らく不自由な生活をさせてしまい申し訳ありませんでした。」
先輩は入ってくるなり、いつも通り事務的に言った。
「え!?そんな突然?」
「はい。昨夜、前金毛種殺害の被疑者が確保されましたので、田中さんの安全は保障された、との上層部の判断です。」
私がここに軟禁されてた理由ってそれだったんかぃ。初めて聞いたし。
精密検査の時と言い、やっぱ先輩は肝心なとこ抜けてるわー。
「そぅなんですか…。」
「何かご心配事でも?」
あまり喜ばない私の反応を見て、先輩は訝しげに首を傾げた。
霧島先輩の動作は1つ1つが本当に美しい。彼女の美しさには、トップアイドルという肩書きが逆に安っぽくて不釣りあいだ。
「いえ、何でもないです。もうサバイバル部も参加しなくて大丈夫なんですか?」
「今後は強制しません。ただ、最近は任務が増えていますので活動は不定期です。」
任務ってアイ活っすよね?と、茶化そうと思ったけど止めた。
「では、明日朝8時にお迎えにきますので。」
敬礼して踵を返す先輩の後を追うように、黒髪が綺麗に流れた。
シャンプーのCMみたいだなぁと、何度見ても思う。
先輩は平林さんに退出の敬礼した後、彼と何かを話し始めた。明日の手続きだろうか。
明日にはこの生活が終わる。やっと待ち望んだ日常に戻れる。
戻ったら、ヴァンパイアであることを隠して、人間として暮らしていこう。先日まで普通以下の女子高生だった私に、ヴァンパイアの世界は厳しすぎる。
この2ヶ月半で嫌というほど思い知ったじゃないか。
「あ、あのっ!先輩!」
「はい…なんでしょう?」
先輩は本当に軍人なのでしょうか。
彫像のようなこの女性の、戦っている姿を想像する方が難しいです。
「わ、私!ブ、ブスだけど…バ、ヴァンパイアでやっていけますか…?」
先輩はキョトンとしていたが、言った私の方がキョトンとしていたと思う。
自分の言っている事が自分でも理解できなかった。
「き、騎士団に入りたいです!」
言ってしまった。
私なんかを歓迎してくれるわけがないって分かりきってるのに。
私が先輩の立場なら、クソの役にも立たない根暗眼鏡の図書委員なんて、即断る。
少し間を置いて先輩の口角が少しだけ上がった。
きっと嘲笑ってる、当たり前の結果だ。
「そう来ると思ってました。」
怖くて見れていなかった先輩の目を見た。
先輩は優しい目で笑っていた。とても綺麗だった。