軟禁生活はそろそろ2ヶ月目が終わります。
平林さんの奥さんと電話で話す仲になった以外、特に変化はないです。奥さんは人間で、旦那さんがヴァンパイアだと知ってます。
平林さん一家は、王国騎士団が管理運営する団員用住宅に住んでいるっぽいことを言ってた。騎士団員が比較的家族にオープンなのは騎士団の後ろ盾があるからで、世の中には素性を隠して人間界に紛れ込んでいるヴァンパイアが結構いるらしい。
素性を隠すのは、やっぱり人間に襲われるから?でも、超人的な力を持ってるヴァンパイアが人間を怖がる必要あるのかね?
「入る。スパーリングするか?」
あ、今日は神河さんの日か。
入るなりスパーリングって…どこまで脳筋。
「じゃあ、ちょっとだけ。審判は爺で良いですか?」
「問題ない。」
応じちゃう私も脳筋?
じゃなくて、他のメンバーは肉弾戦じゃないから練習にならないだけです!
「爺、おはよー!スパーリングの審判やってー。」
《姫様、おはようございます。運動、は、大事、ですが、女子、には、礼儀作法、も、大事、ですぞ。》
「はいはい。教養も大事なんでしょ?」
《先、に、言う、のは、ズル、ですぞ!…では、スパーリング、の、設定、を、して、くだされ。》
相変わらずの返し性能。
AIの無駄遣いです。
「1ラウンド5分。3ラウンド。バイタルスキャンON、ハイスピードカメラON、IRカメラON。RECオール。使用制限ON、SBと致死技。」
《神河様、設定、ありがとうございます。反則行為、には、電撃、ですじゃ。》
神河さんが準備運動しながら設定してくれました。
彼女がたくさん喋る姿はいつ見ても新鮮です!
「設定追加。シンプルアナライザーON。バイタルリンクON。リアルタイムON。」
《かしこまりました。それでは、お2人、とも、こちら、へ、お越し、くだされ。》
モニターに近づくと、壁から照射された七色のレーザーが私たちの身体を上下に何往復かし始める。
爺はなんでもありだな。
《完了、ですじゃ。表示、します、のじゃ。》
6角形のグラフと横長の棒グラフが、モニター横に少し立体的に投影された。…どんなプロジェクターっすか、これ?
「これで状況がわかる。」
「格ゲーみたいですね。」
「…同意。」
神河さんの頬が少し赤くなった気がしたけど、気のせいだと思う。
《神河様、は、また、お強く、なられ、ましたな。姫様、は、絶望的、ですぞ!》
「爺、お黙り!」
神河さんのグラフは生身なのに「キュア」以外、カンスト…。
通称けしからん乳、井伊さんの噂話によると、神河さんは生身でもオンセットした黒毛種と同じくらい強いとか。
神河さんがオンセットすると黒毛種2人分以上の強さなんだって!
一方の私のグラフは…相変わらずゴミのようです。
まあ、まだ生身ですから。ちょっと安心したのは、一般的な人間女子のグラフも私と同じくらいの大きさなんだって。
あと面白いのは、生身の時に怪我すると、怪我した時だけ「キュア」がメッチャ伸びます。
「さくら、オンセットしろ。」
「OK~♪今日こそは、勝っ…」
言い終わるより早く女神モードにオンセットしてみせたら、神河さんがめっちゃ驚いてた!
でも、喋りながら女神モードになると、途中から無口になるのが珠にキズ。
女神モードになった私のグラフは、かなり大きくなります。といっても神河さんには及ばず。
相変わらず「リアライズ」と「キュア」だけは突き抜けてて、簡易グラフだとどこまで伸びてるか分からないです。
他の数値はどれも神河さんの半分未満。
2ヶ月で倍になる神河さんの成長スピード、やばくないっすか!?
《姫様、相変わらず、お美しい。いつも、その、お姿、で、居れば、いいのに。てへぺろりん。》
喋れないので、とりあえずモニターを睨んで、中指立てておきました。
ちなみに、今の女神姿はショートのままです。だけど翼は左しかありません。
右の翼は精密検査でリアライズしたっきり、何度試しても生えてきません。
てへぺろりん♪
《お2人、とも、用意、は、よろしい、ですかな?…それでは、はじめ!》