腰に違和を覚えて目が覚めた。
背中に床を感じる。天井が高い。
気絶したまま落下してしまったようだ。腰の違和を確認しようと伸ばした右手は動かない。
右手だけでなく全身が麻痺している。
最初に考えたのは、落下による脊髄損傷。心臓を吹っ飛ばされてもへっちゃらなキラちゃん(仮)に修復できないはずがないので、外傷の可能性は消した。
残る可能性は「神経毒」だ。
たぶん気絶中に噛まれた。ラミアが蛇の特性を持っていても不思議ではない。
『脚を動かして。』
私はまだ脚に巻きついているはずのVマイクロムに呼びかけても反応がない。ピクリともしない。神経毒はVマイクロムにも効くのか…。
『キラちゃん?』
あえて、Vマイクロムが「気に入ってない」名前で呼んだのに、反応はなかった。
「やっとお目覚めね。退屈で、退屈で…。とっても美味しそうな髪の毛をお持ちで助かったわ。」
ラミアが上下逆さまに覗き込んで言った。
動かせない視界の上から現れ、彼女に襲いかかった金色の物体は、さらにその背後から現れた黒い影に飲み込まれて消えた。
「もう少しお待ちになって。…そうだわ、ご覧になって。」
勝手に話を進めたラミアは、私の腹部に剣を2本突き刺すと、そのまま剣で私を持ち上げた。
自重で身体が縦に切り裂かれたけど、痛みもなく、剣は胸の位置で止まる。
腹部に刺したのはブラアーマーに剣を引っ掛けるため。痛みを感じないのは、神経毒のせいだと思う。
腰まで伸びているはずの豊かな金髪が1本も見えない。
ラミアは本当に悪趣味だ。
私が見せられたのは、恐らく巨大ムカデのお食事風景。
指一本動かせない私の前で、逃げ惑う金髪が巨大ムカデに飲み込まれる度、叫び声のような音が私の脳に粘っこく絡みつく。
最後の髪が飲み込まれたのは、ラミアのすぐ後ろ、つまり私の顔の前。
叫び声をかき消すように耳いっぱいに広がった、ムカデの通り過ぎる轟音がとても憎らしかった。
何の意味があって、彼女はこの胸糞悪い光景を私に見せつけてきたのか。
「目覚めてくれて本当に良かったわ。…わたくし、眠ったままのお相手じゃ、満足できそうにないもの。」
ラミアは剣を引き抜くと、私を無造作に捨てた。床に転がる際、私は見てしまった。
私のお腹は半分しかない…。
再生していないのは、毒のせいだと思いたい。
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「まだ何もしていないのに14%も減ってしまっているわ…。」
ラミアが残念そうに言った。
彼女は特殊な目でも持っているのか、見つめるだけで私のV濃度が分かるような物言いだった。
「まずはここから…。」
上下正しく私を覗き込んだラミアは、プチトマトに楊枝を刺すような自然な手つきで私の眼球に剣を刺し、引き抜き…、そして食べた。
これを発端に、これは、あれは、と身体を切り取られ、その度に彼女は「私」を美味しそうに食べた。
私は意味が分からないまま、見慣れない形状の剣で切り取られ、食べられる自分を眺めている。
ラミアはクファンジャルを好んで使う。
クジャルファルは、11世紀から19世紀頃まで主に中近東で使われていた、S字に湾曲した刀身を持つ短剣で、名称は「肉切りナイフ」を意味する。その名の示す通り、鋭い切れ味が持ち味ながら刺突性にも優れ、刀身の形状もあって刺突時の殺傷力が非常に高い。ルイズのクファンジャルは、刀身が40センチを超えており、短剣と呼ぶには少し長い。
「これで62%に低下。」
ラミアがスライスしたての私の内腿を飲み込んで言った。
彼女は私の右半身だけを執拗に狙う。眼球の次に頬と唇を切り取られ、顔の右側は皮も含めて綺麗に半分だけ食べられた。
彼女なりの規則性があるようで、脂肪と筋肉を交互に食べる。そのせいで右半身だけ乳房はないし、腕や脚の一部も剣が骨に触るほど深く抉られた。
「そろそろ限界のようね。暴走される前にもう少しだけ頂くわ。」
あくまでも科学的確認のため私の顔を覗き込んだラミアが、彼女の利己的満足のため再び視界から消えた。
どうしようもない状況に、私は、なるようになれ、と諦めるほかなかった。