泣き、悶える私を「オカズ」に、彼女は堂々と身体を弄り始める。
 口の端から唾液を滴らせ、憚かりもなく自慰に耽る彼女を、私は不覚にも美しいと思った。



 彼女はそのまま2回続けて果てた。私の痛覚はもう完全に麻痺してまっていて、痛みも叫びも脳に届かない。あたかも、手足はないのが正常だ、と脳が身体情報を更新してしまったようだった。


「うふふ。女神様だって聞いてたから柄にもなく緊張しちゃってたけど、変身する前は可愛らしい顔してるじゃない。食べちゃいたいくらいよ。」

 可愛らしいなんて初めて言われた。
 嬉しいと思ったのも束の間、彼女は四肢の離れた私に馬乗りになると、すぐにでも果ててしまいそうな恍惚とした表情で私の喉を切り裂いた。


 ひゅー…ひゅー…

 呼吸に合わせて、数秒前まで喉だった部位から不快な音がする。
 傷口から挿った彼女の左中指が、私の喉の奥を卑猥に掻き回し、それから彼女は、私の腹上でビクンビクンと、淫質な躍動を無遠慮に繰り返していた。

 不快な呼吸音は何十秒待っても戻らなかった。

 その後、私はラメ布ごと首から臍まで縦一直線に切り裂かれ、文字通り…いや、文字以上に、身体の隅々まで検査された。
 検査中、彼女は何度も手を止め、いちいち小刻みに痙攣していた。


 検査終了の合図だったのだろうか。

 ガーターベルトから銀色の拳銃を取り出した彼女に、私は頭を撃ち抜かれた。
 銃声と共に今日一番大きな躍動が私の腹を強く打った。





ーーーーーーーーーー
「センシングブレードの切断は有効のようです。安心なさって。あなたは出血がないから壊死しないわ。」

 豹変する前と同じ知的な女医が、拘束を解かれ診察台の上で身体を起こした私に優しく微笑んだ。
 診察台は元の正しいX型に戻っていて、私の手足も正しく生えている。

 再生しなかった切り傷は、彼女が血を数滴、傷口に垂らすとたちまち治癒した。

 

 私の身体に傷跡は一切残っていない。


「切創再生前のV濃度減少率は1%未満。切開時に欠損した分と考えれば正常値だわ。」

 知性溢れる医者の顔でホログラムを見ながら語る今のルイズさんは、本当に先ほどまで私を弄んでいた変態と同一人物なんだろうか。
 淡々と語る彼女から微かに漂ってくる雌の匂いが、私の疑問を消した。


「あなたの身体は先程の様にバラバラになったとしても、繊維が1本でも繋がっていればV濃度の減少はありません。」
「初結合からの経過時間を考えると、摂食による宿主側の栄養補給でVマイクロムを含めた体内循環サイクルが確立されている、と推測されます。」
「現時点の私の結論をお伝えします。あなたに血の欲求が起こる可能性は極めて低い。」
「金毛種はヴァンパイアの中でも比較的長命な種だけれど、あなたは先代の東京金毛種同様、突出して長生きするかも知れないわ。あなたと違って、彼女は大量の血を欲していたみたいだけど…。」
「詳しい検査結果は後日、改めてお知らせします。」


「あなたに血の欲求が起こりうるケースは、分離などによる濃度低下です。これはヤノーシュ大佐の報告とも一致しているわ。」

「…今ここで、女神様になっていただけます?」

 彼女は最後の言葉だけ少し間を置いてから言った。


「はい…。構いませんけど。」

 意識しなくとも先程の拷問が頭をよぎった。私は素直にイエスと言ったつもりだったけど、Vマイクロムはどうだろう。

 私は彼女から十分な距離を取ってから女神姿にオンセットした。
 軟禁されていた1週間、ストレッチとオンセットの練習は欠かさず行なっていた。まだCDドライブくらいだけどディスクを読み込む感じも掴めてきた気がする。
 私にしてはスムーズに変われたと思う。…正直に言うと、この部屋が無駄に広くて助かった。


「うふふ。変身するともっと素敵ね。確認したいから、少しずつ身体を切り取っても構わないかしら?」

『やっぱりそれ目的かぃ!こっちもその方がありがたいってさ!』

 女神姿の私は喋れない。
 私は言葉で伝える代わりに、鎧と同じ色に輝くランスをリアライズして意思を伝えた。理由は分からないが、武器をイメージすると必ずこのランスがリアライズされる。
 ちなみに、右翼のリアライズは、滑空用の薄膜以外、何度挑戦しても失敗だった。


「ずいぶん自信がおありなのね。こう見えても私、結構強いのよ?」

 眼鏡を外したルイズさんが漆黒の光に包まれる。
 彼女の輝きは黒毛種よりも黒く、それでいて、やけに煌びやかだった。