お偉いさん2人の握手で短い会合は幕を閉じた。
官房長官は態度こそ毅然としていたけど、下着は着衣泳をした後みたいになっていたと思う。
見送りを手で制し、足早に部屋を後にした長官の背中に向かって、大将は右手を胸にあてて深々と礼をした。
長官が部屋を出る時、ドアの隣りに立ててあった重厚な団旗がふわっと揺れたのがとても印象的だった。
「申し訳ありませんでしたっ!」
長官の足音が消えるのと同時に叫んだのは霧島先輩だ。
今にも泣き出しそうな顔をしている。どんな顔を切り取っても完璧美少女は私の20億倍以上可愛い。
「霧島くんが謝る必要はない。それよりも、ヤノーシュ…!」
「はっ!」
アウエンミュラー大将に睨まれたペラ男のアゴから血の気が引いていく。彼はアゴで感情を表現できるようだ。
「東方に預けようってんなら、何故俺に言わねぇんだ!」
官房長官が居なくなった今、大将は遠慮なしに全身を光らせている。
これ以上強く光られたら、彼の輝きに免疫のない私は溶けてしまう気がする。
「も、ももも申し訳ありません。か、閣下のお手を煩わせる程の事ではないかと思いまして…云々…」
「バカやろう!金毛種の世代交代だぞ!ころころ変わるキューバならまだしも、今回は京都時代から一度も代わってない日本だ!一大事に決まってる…云々…」
大将の怒号とペラ男の下手くそな言い訳が私の頭上を飛び交う。このままだと、まじで溶ける。
私は意を決して、2人の頬を小指の背で同時に優しく撫でた。
2人の視線を独占した私は、人差し指を口にあてて「しーっ」のポーズをする。
2人は頬を赤らめ、毒気を抜かれた様に言い争うのを止めた。
「霧島くん、ロンドンとハバナには連絡済みか?」
大将はソファにドカッと座り直すと、霧島先輩を指で呼んだ。大将が座った時、私の身体は1秒くらい宙に浮いた気がする。
「はい。中央経由で昨夜の数値と歌声を報告しています。」
「よくやった。しかし驚いたな。順番は少し違っちゃいるが、ここまでフェアリーテイルに似てると不気味だな。」
謀らずも私は、大将達3人の視線を独占した。
照れ笑いしたつもりの女神の顔は相変わらず無表情のままだった、と思う。
むかし、むかしのお話。
片翼を失った女神は、その傷を癒すため、この地に降り立った。
この地に生きる全ての命は、美しい女神の降臨に歓喜した。
女神は感謝し、自らの気持ちを歌にした。
ー安らぎの歌ー