薄いけどデカくて持ち歩くのに不便なマイ携帯のバイブが鳴った。
日課のストレッチ中だったので、股関節を伸ばすついでに手に取ると、琴美からメッセージが来ていた。
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(((o(*゚▽゚*)o)))起きてる?〉
〈風呂あがりー(*・∀・*)
明日の安達先生の授業休みだって!〉
〈まじ?Σ(o゚д゚oノ)ノ ランチいっとく?|m`)ムフッ
いく|m`)ムフッ〉
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私の通う高校はかなり緩い。
休み時間や授業がない時間なら校外に出てもOK。メイクもOK。髪型も自由。
誰かさんのジャージがピンクだってOK。制服がピンクでもたぶん大丈夫。
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〈先週オープンしたとこ?
もち(*≧∪≦)〉
〈チャイム鳴ったらすぐ行くε=ヾ(;゚ロ゚)ノ
はーい〉
ねるー〉
〈おやすみー
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琴美とのやり取りはいつもあっさりしている。
ずっと一緒だったから細かいことは気にしない。お互い既読放置なんて当たり前だ。
マイ携帯をベッドに放り投げた拍子に、何故かまた霧島先輩の言葉がフラッシュバックした。
聴覚が向上したせいなのか、ヴァンパイア語のせいなのかは分からないけど、断片的ではなく、一語一句正確に思い出せる。
「田中さん、あなたのVマイクロムは規格外の性能を持っています。世襲制ではない金毛種において、その規格外の性能を生み出したのは、あなたの資質に他なりません。しかしながら、今のあなたはまだ未熟です。これからは、自信と自覚をもって自己研鑽に励んでください。あなたの成長のカギは、二階堂姉妹のリアライズ能力にあると思います。」
「それと、今日からこのピアスをつけて生活してください。ピアスを通じてあなたの状態は私の端末にリアルタイムシェアされます。護衛のためにもご協力をお願いします。」
なんであの時、先輩はぬいぐるみを持ってたんだ?…そういえば、端末どこやったっけ?
思い出した!生物のノートに挟んどいたんだった。
端末の在りかを思い出したのと同時に、熱く語る先輩に対して「あ、はい。」としか返事できなかった情けない自分の事もついでに思い出した。
ちなみに先輩から渡された端末は、ペラ男が置いてった下敷きと同じ物だったりする。ペラ男の端末は電池が切れてしまったのか何も表示されなくなってしまったし、ぶっちゃけどうでも良いので、リアルに下敷きとして使わせてもらっている。
先輩から渡された端末をうっかり下敷きに使ってしまわない様に、去年の誕生日に兄がくれた「お買い得」シールを貼って識別しようと思う。
下敷きが突然起動した。シールを貼る際、スイッチに触ってしまったようだ。表示されたのは女神の3Dホログラム。
ホログラムで再現された女神姿の私が下敷きの上に浮かんでいる。
たまにまばたきをする以外、とても無表情だ。先輩はこの無表情な女神を「ブリュンヒルド」と呼んでいた。
北欧か東欧の神話に出てくる女神の名前だったと記憶している。イマイチどんな神様なのかピンと来ないので下敷きタブレットで検索しようと思ったら、操作の仕方が分からない…。
表示されているホログラムを動かしたり触ったりはできるのに、他の機能の呼び出し方が謎。
思い返してみれば、ペラ男の下敷きも初めから資料が表示されたせいで操作していなかった。
操作方法を試行錯誤するよりも、明日先輩に聞いた方が早く解決しそう。
そうだ!せっかくだから「実物観察」しよう。