女が1人。荒涼とした大地に膝をついていた。その姿は祈る聖者を彷彿させる。

 ホームレスのそれと同じ色の手に握られた首飾りが、唇から一時の潤いを得て瞬く。
 吹き荒ぶ風が女の長い髪を撫でた。微かに揺らいだ髪はまるで土色の蝋で固められてしまったよう。
 風すらもこの女を忌避する。そう錯覚させるほど、女は孤独で、不様で、汚れていた。

 突如、耳をつんざく爆音を轟かせ燃え上がり始めた全天に、女は驚くでもなく、煤けた顔を向けた。汚濁した姿とは裏腹に、女は美しい。

 女は1人、燃え盛る天に猛烈な咆哮を突き刺し、轟き止まぬ天の中心へと、大地を蹴って飛び立った。

 女は1人。
 残された大地には誰も居なかった。





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 おしっこ我慢プレイの限界が近づいているのに、何者かに噛み付かれ、ちゅーちゅーと血を吸われている。


『これって…ヴァンパイア?』

 誰かの悪戯だと思いたいけれど現実にいる。
 今まさに私自身が血を吸われているのだから信じるほかない。このまま血を吸われ、私はカラカラのシワシワになって死んでしまうのだろう。
 私はまだ16年しか生きていないのに、命乞いをする間もなく噛み付かれてしまった。

 人は死ぬ間際、これまでの人生が走馬灯のように浮かぶ…と聞いていたけど、死にゆく私の頭は、ある一つの思いで埋め尽くされている。

 それは…



『こいつ、なんで後ろから噛むんだよ!前から来なきゃ顔が見れないじゃん!』


 ヴァンパイアといえば、美形。男女問わず美形。もはやこれは一般常識と言っても過言ではない。
 一般常識と称される美顔を見ながらシワシワになれるなら、地球一周歩分譲って死ぬのも許せる。
 それなのに、このヴァンパイアときたら全く躾がなっていない。「親」の顔が見てみたいものだ。


 そろそろ限界が近くなってきた。今のうちに色々とマトモな事を考えておこう。


 パパ、ママ、お兄ちゃん、おばあちゃん、おじいちゃん…あ、おじいちゃんは去年亡くなったんだっけ。
 先立つ不孝をお許しください。私のせいではありません。この躾のなってないヴァンパイアのせいです。
 お兄ちゃん、ゲームばっかりしてないで、いつか私の仇取ってください。こいつを生け捕りにして、O将の餃子工場で一生働かせる拷問をお願いします。

 せめて一度くらい誰かと付き合ってみたかったな。
 神様、もし次のチャンスがあるなら…素敵な彼氏をお願いします。あ、やっぱ彼氏は「和み系イケメン、ちょいM眼鏡男子(眼鏡なしだと俺様属性に変化)」でお願いします。

 あ、ヤバイ!
 このまま死んでしまったら、引き出しの中に隠してるダークマター満載の黒ノートが見つかるっ!

 あれだけは見られちゃダメだぁぁぁあ!どuにカshiてコnoじょウ況wo……



 そして私は死んだ。

 享年16歳と101日。