夜中に寝室のドアをノックする音が聞こえて目が覚めた。当時のボクはご多分に漏れずおねしょをしちゃうような、夜はグッスリ系の子どもだった。それなのに目が覚めた。
「ねぇねぇ、開けてよ」
確かに声が聞こえたからドアを開けると、黒縁の眼鏡をかけた、年の頃20代のお兄ちゃんが立っていた。少し笑ってる感じだったから警戒心はなかったかな。
「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」
別に何も考えないで誘われるまま廊下に出た。お兄ちゃんの後をついていくと、表側の誰も使っていない和室に入っていく。
その部屋は誰も使っていない。いや、むしろ昼間でも入るのがはばかられた雰囲気の空き部屋だった。その部屋は昼間とはかなり違っていた。何が違っていたかというと、部屋一面ロウソクが灯っていたんだ。
「これをね、点けたり消したりするのを手伝ってほしいんだ」
お兄ちゃんはこともなげに言う。言われるままにロウソクを消したり、お兄ちゃんの真似をしてロウソクに手をかざして点けたりする。そんなことを夜な夜なやっていた。それに何の意味があるのかはわからないが、ボクは不思議な魅力に取り憑かれたかのようだった。
ある日、ボクのお袋が昔の写真を見せてくれた。自営業の車販売店ならではの、働く男が満載の、ともすればつまらない写真ばかりだ。でもその中の一人の顔に、目が行って動けなくなった。
「どうしたの?」
「ボク、このお兄ちゃん知ってる!」
「……え、なんで?」
「うん……」
子供心に、なんか言ってはいけないような雰囲気がそこにあった。
「そんなわけないよ。この人とアンタは会ったことないよ?」
「え、でも知ってるし、顔も見たことあるし……(一緒に遊んだことあるし)」
「この人は、昔住み込みで働いてた人で、アンタが生まれる前に事故で死んだんだよ」
急に怖くなった。じゃあ、いつもボクの部屋に誘いにくる、あのお兄ちゃんは? 死んでるの?
その日の夜、やっぱりというか当然というか、寝室のドアをお兄ちゃんがノックした。
「こんばんわ、今日も遊ぼうよ!」
答えられるわけがない。この人は誰? なんで来るの? 行ったらどうなっちゃうの? おしっこしたい。
結局、何時間かわからないが、誘いの声を無視する時間が過ぎていった。当然おねしょをしていたが、怖くてトイレには行けなかったのだ。冷たい下半身の感覚と、なんだかわからない寒気に耐えながらいつしか眠っていた。朝起きて、お袋に怒られたのは言うまでもないが、その日を境に夜のお誘いはパッタリなくなった。
あとでわかったことだが、ロウソクを点けたり消したりしていた部屋は、そのお兄ちゃんが生前住んでいた部屋だった。あれから30年以上経った今でも、あの声は忘れられない。あの声と似ているというだけで、親戚の兄さんが嫌いになったほどだ。
雪の降る夜は、昔の不思議なことを思い出す。子どもの頃って、不思議なことがいっぱいあったと思う。
追伸
この出来事をきっかけとして、ボクは霊感が強くなってしまった。これについてはまたあとで触れたいと思う。