※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、２０１８年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。

　なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。

〈前回のお話〉

《第50話　　覚醒のきっかけ》

「あのー、さっきから全然そちらの言っている意味が解らないんですけど」

「鈍いねー。だからミナミだって。『さん』は要らないって」

　じゃあ最初からそう言えば良いのに。

「ふう……」俺は心を落ち着かせて、「ねえミナミ」

「は～い、なんでしょ～？」

　ミナミは両頬に手を当てて、嬉しそうに俺の問いを待つ。

「お金を返してくれない？」

「お金？　それならもう返してるじゃん」

「……いやいや、一銭も受け取ってませんけど」

「えー、ミナミと一緒にご飯食べてるんだよ？　それで1000円もかからずにいられるなんて超ラッキーだよ和泉ン」

　俺はため息を挟んで、

「仮にそうだとしても『一緒に』じゃないですよね。俺は何も食べてませんし」

「あ、ホントだ、アハハ！」

　アハハじゃないよ、まったく。

　……ていうか、このミナミと話してから妙に頭が回るようになってきた気がする。

　それは、これまでにない経験だった。

　ミナミが遠回しに何かを伝えようとするから、それを解読するため脳にエンジンがかかったのかもしれないし、ミナミのような（変な）人と話すのが初めてだからかのかもしれない。

　どちらにしても、悔しいが、ミナミのお陰で俺の頭はアップデートされていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【第51話に続く】　

【第50話】 覚醒のきっかけ