実態調査全国赤線青線地区総覧(復刻版) | お散歩日記

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路地裏、バラック、長屋、昭和の香りがする飲食街、遊郭赤線跡地、廃墟、古い町並み、山奥・・・・そんな場所を訪れては下手糞な写真を撮っております。

遊郭部氏によって新たに復刻を遂げられた「実態調査全国赤線青線地区総覧」「東京の性感帯」復刻版販売:カストリ出版)二冊を此度拝受。鼻息荒く興奮し乍頁を捲り一気に読破す。







今回は「実態調査全国赤線青線地区総覧」のご紹介を。





元となっている資料は昭和二十九年に発行されたカストリ雑誌(娯楽誌)に掲載された特集記事。編者は記紀神話から昭和二十年代に至るまで、我が国の売春史を徹底的に調査した言わば売春博士たる中村三郎氏




「実態調査」と硬派に銘打ってはあるものの、比較的柔軟な紀行文調で綴られており、親しみ易く優しい文体。帝都の赤線地区は勿論、全国の紅灯街で氏曰く「浩然の気」を養い、女の気質、街の風土、料金体系を記している。





興味深いのは、単に助兵衛心やカストリ雑誌読者へのリップサービスのみで女と接するだけに留まらず、各地の赤線組合運営者と積極的に接触している点。売春防止法制定へ向け、政治が動きつつある流れの中、中村三郎氏と業者との間で何らかのビジネス、或は(政治へ向けた?)駆け引きが介在していたのでは、と読み取れる筆跡を多数確認出来る。




そして当世の遊廓赤線愛好家(赤線マニア)諸兄の食指を動かすことになろう統計なども充実。ウェブ上に明らかにされていない地域も網羅。ブラックボックスたる「青線地区」に関する各地の情報も収められている。






最後に、中村三郎氏の著書「日本売春社会史」(昭和三十四年五月十日発行)に記載されている著者紹介を引用してみよう。




明治廿七年東京に生る。早大英文科中退、外語支那語科に学ぶ。日本全土、アジア諸国を巡歴し、その後半生を一途に売春問題研究に費やしたのは、まだ都新聞記者時代に花柳界めぐりをしたことが機縁であった。それが学問として発展したのは、内藤鳴雪、三田村鳶魚、鳥井竜蔵などに師事し、考古学・歴史風俗の研究に導かれたからである。晩年、三十余年の研究資料の整理を志し「日本売春史」三巻を編んだが、「売春取締考」を出版したのみで倒れた。昭和三十三年二月歿、六十四歳、本書「売春社会史」はその三部作の中心をなすものである。





「日本売春社会史」より。晩年の中村三郎氏。






「実態調査全国赤線青線地区総覧」巻末「復刻解説」に於いて、遊郭部氏は中村三郎氏の言葉を引き、「赤線」の語源に関して問題提起を行っている。つまり、現在最も主流とされている「当時の警察が特殊飲食街を指し地図上にて赤い線で囲った云々」という説だ。「赤線」のウィキ情報




中村氏の著書「日本売春史三巻 日本売春取締考」(昭和二十九年八月五日発行)に付録として収められている「日本売春婦異名考」には「赤線の女」とし、次の一文が添えられている。






昭和二十二年の夏頃、私がアメリカの容認娼婦地区レッド・ラインを日本文字に当て赤線地区と書いたのが嚆矢である。当時日本では「指定地区」として赤鉛筆で線を劃していたからである。後に集娼地区を混同して赤線地区と称す。






・・・・・・・・中村氏の著書を紐解き研究を重ねることにより、現在主流とされている「赤線」の語源、乃至は赤線史が覆され、引いては今迄陽の目を見なかった戦後史の一頁が詳らかにされるやも知れない。