おもしろ誌 第六号② 長岡花柳便り | お散歩日記

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路地裏、バラック、長屋、昭和の香りがする飲食街、遊郭赤線跡地、廃墟、古い町並み、山奥・・・・そんな場所を訪れては下手糞な写真を撮っております。

おもしろ誌 第六号より。







長岡花柳便り、と題されております。ほぼ毎号に亘って、長岡、柏崎、三条地域に於ける娼妓の身の上が赤裸々に綴られております。
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▲米藤より転勤したる三国亭タマ、このほど常盤楼の女中ヨシの出産を見舞わんとてタカ子と連れ立ち大工町の分娩院を訪ねたれど更に分からず、大女総身に智恵がまわりかねてか、タマある家に到りこの辺にブンブン院はありませんかと聞けば、同家のもののみか付近に遊んでおりし子供まで笑う、タマは何を笑うのやらとんと分からずして引き下がる、由来この妓を三国亭ではブンブンさんと呼ぶ。


▲栃尾楼サキ、先月末大野屋のお客といずれへ行ったやら、鐘や太皷でたずねても行方更に不明、数多の関係筋は頗る非常に心配したが、無事に帰ったのでホット一安心。


▲美登利楼静枝は情夫に貢いだとやらで借金だらけで首も廻らぬ仕儀となり、借金整理のため高田へ鞍替えした、本町二丁目辺で泣いた男もあろう。


▲栃尾楼の操は夏向きの別嬪とやらで引手数多のうの裡にも中島の何がしとは特別関係あって鑑札を返上することとなり、新婚旅行を兼ねて松ノ山へ湯治に行くとは目出たし目出たし。


▲丸山屋豊松、新道芸妓では浮む瀬が無いとやらで、写真を振り回し、転勤運動中なるも、余り胴体の大きいので夏向き不要とあって破談となりコボシているげな。


▲小村屋マル、先日常盤楼二階で某紳士に風間君を電話で呼んでくれと依頼され、嬉し涙に咽て二階より降れんとするところを、それは儀八君でなく退三君だよと注意され、マルはそれならばとばかりに逆戻りすれば、一座マルの現金を笑うて拍手喝采暫し止まざりし。


▲桐油屋セイ(十八)主人が遊廓へ移転すると聞いて第一着に機先を制したつもりが遊廓の某ハイカラ男を手に入れ、相携えて長生橋畔の夕涼に朋輩連を羨ます。


▲銀行小路の萬安は名詮自称に反した営業振り、今日この頃の不景気に二十五円の家賃では頗る困難とやらで、元の長盛座前へ移転し小発展するという。

(旧漢字、旧仮名遣いは現代語に変換)




・・・・・・・これは面白いです。遊廓時代の屋号や娼妓名を知る事ができます。日誌調に出来事が綴られているところから遊廓時代の「生きた日常」が伝わって来るのです。郷土資料や県史市史などに書かれている遊廓のくだり、或いは遊廓建築の写真を眺めていても遊廓の「日常」は伝わって来ません。

分娩院(ブンベンイン)の読み方を、ブンブン院と思い込んでいる娼妓のエピソードなど、こうした些細な笑い話にリアリティが宿っています。