世の中が連休の日に短編小説の上下巻とつきあった。着飾って身分をあらわしていた時代のイギリス人の恋や欲が、会話の透き間からのぞく。夜会服に着替えるとすぐ淑女にかわるが、175年も前のロンドンは煤煙の街とも記されている。下宿屋はディナーがついて見知らぬ人でもしゃれた会話でつきあわなければならない。それだけの話題を持つのが、当時の遺産や資産もちの下宿人たちだったのだろう。現代につづく「現状不満型」はそのころもいたし、紳士の身なりをした飲んだくれもいた。もちろん雄弁家もいれば、何があってもどこ吹く風といった陽気な男もいるが、慎重すぎる男もいる。てきぱき決める女もいる。だれもが軽蔑され、無視されるのを恐れて礼儀ただしくふるまう。失望をあたえるような落ち度があってはならない。人々はそういう気持ちでパーティでの時間を過ごしたのである。酒と貧困と、川にむかっての身投げの絶望物語もある。しかし貧しくても飢えても人は生きようともがく。読者は心配する。小説は些細なことをひろいあげて書かれる。その中に、命の守り方、しつけ、秘密と約束について、教養の価値なども織り込まれる。それらを示しているのが、どこにでもいる大人たち。キザにも映るが厚みのある人間性に魅力も感じていた。