多香子いわく、和馬さんの話では、二人のリハーサルはすさまじいものらしい。音楽に対する情熱はふたりとも図りきれないほどのつよさがあるだけに、自分の筋が通るまでお互いに引かないみたい。それが吉と出ることのほうが多いみたいだけど、やっぱりぶつかってリハーサルが中断されることもひっきりなしにあるんだって。そんな中にあたしも混じることになるのかと思うと、正直怖いけど、そこまでPassionもってる二人と多香子と一緒に音楽を創れることは楽しみで仕方ない。


不思議なことに、今週の講義の最中には音楽と情熱に対するディスカッションが長々と繰り広げられて、音楽の神様はあたしの状況をちゃんと見てるんだなぁと思わずにいられなかった。



Joir de Vivre


生きる喜び


音楽の神様は何をあたしに託したかったんだろう。


多香子からもらったCDを聞きながらあたしは天井を眺めた。





♪♪♪ ”着信 麻倉大智” ♪♪♪




心拍数が一気に上がったのを必死に抑えながら電話を取る。




「もしもし?」


「あ、沙希ちゃん!??」


電話に出ると麻倉さんではなくて和馬さんの声だった。がっかりしたような、安心したような。


「ごめんね、俺携帯忘れちゃってさ。大智の携帯かりたんだけど、今ヒマ!??」

「今ですか!??」

「いや、遅いのはわかってるんだけど、最後のリハ中でさ。どうしてもなんかしっくりこなくてよ、第三者の意見が必要だ!って結論に至ったわけ。多香子のやつ、電話に出ないし。」

「あ、多香子なら、今日は選抜オーケストラのリハーサルがあるから。。。」

「そういや、そんなこといってたっけ。おい、大智!多香子はリハーサル中だって。」

「じゃぁ、沙希ちゃんに来てもらえば!?」


電話越しに麻倉さんの声が聞こえた。


「おう、ってなわけで沙希ちゃん、今からこれる!???おれら、スタジオいるんだけど。多香子にも終わったら即効来るようにメールしとくし。一応これからプロジェクト参加してもらうわけだし、来てくれよ。」


あまりに突然だから、あたしも返事が出来ない。


「あ、、、、」


「おっけ。したら駅前のスタジオ FUNKしってるよな!?そこにいるから。ついたら電話してもらっていい!?」


「あ、、、」


「じゃ、出来るだけ早くたのむよ」



そういって、一方的に和馬さんは電話を切った。




時計を見ると夜の9時。土曜日になるまであと3時間。


考えるのはやめよう。


かばんを手に、あたしは寮を飛び出した。


高鳴る鼓動と一緒に、駆け足で向かっている自分がなんとなくうれしかった。




あのあと散々多香子にからかわれたけれど、正直何を言われていたのかうつろにしか覚えていない。戻ってきた和馬さんと一緒に多香子が練習室をさって、あたしはただピアノを弾き続けた。泣きたい気持ち、うれしい気持ち、不安な気持ち、、課題曲なんてそっちのけでただ指が動くままに弾き続けた。こんな今までと違う音がピアノから出てくるのが新鮮だった。



「沙希のピアノの音、前よりずっと正直だよ。きっと麻倉さんも気に入ってくれるよ!」



去り際に多香子がそういった。



まだ数えるほどしかあったことなくて、話したこともない人にこんな風に感じるのがあたしは不思議で仕方なくて、それをどうやって処理していいのかもまだよくわからなかった。ただただピアノに触る指先があたしの心をおちつかせてくれて、それ以外になすすべが無いような気がしてならない。


あなたは不思議な人ですね、朝倉さん。



コンサートまではあと3日。何を着ていこうかなぁなんて考えてる自分も不思議で、こんな自分がいたことにびっくりした。



また新しい世界を見せてもらえるような気がして、興奮しているのがなんとなく自分でもわかっていた。







翌朝目が覚めると、いつもよりも空が青く見えたような気がした。そんなことを言ったらまた多香子にばかにされるんだろうとはわかっていても、まだ胸の高鳴りを収めることが出来なかった。ばかだなぁなんて思いながら、携帯の着信履歴に残っているあなたの名前を見つめたりして、また顔が赤くなった。


ピアノから聞こえてくる音もきょうはいつもよりも軽やかで、スキップしたくなりそうな感じ。


そんな軽い足取りの中、音楽練習室に駆け込むと、迷わずピアノに向かった。何かもわからないまま、そのままただ指の導くままに音を奏でた。出てくる音にいろんな気持ちがこもってるようで、生きてるんだなぁ自分なんて大げさなこと思いながら、楽しくて仕方なかった。


トントン、


ドアをノックする音に指が止まった。


覗き込んだそこには多香子と和馬さんがいた。


「よっ!!!」

「ほらいったじゃん、きっとここにいるって。和馬、ジュースおごってよね。沙希ってば、ずっと電話してたのにでないんだもん。学校中探し回ったよ。」

「さがしまわってねーだろ。」


思わず携帯を確認すると多香子からの着信が3件もあった。ぜんぜん気づかなかった。


「ごめん・・・」

「別にいいよ、みつけたし。ってか、ピアノの弾き方変わったね。前よりすきだな。ねぇ、和馬!?」

「違うかはわからんけど、さっき聞こえてきた音はいい音してたぜ」


そんなこといわれるなんておもってなかったから、なんかあたしはうれしくなった。


「ありがとうございます・・・・」


「あ、さては昨日あの後朝倉さんから電話きたでしょ!!!!!!!」


がぁぁぁぁぁあlっと顔が赤くなっていくのがわかった。


「図星だな。正直なやつ。」

「多香子のばか。」


和馬さんもいるのにそんなこと言うからあたしはますます顔が赤くなったに違いない。


「なに、沙希ちゃんって、大智のこと気に入ってるんだ!?」

「そんなことないですっ!!!!!!!!」


もうあたしはその場から逃げ出したくなった。


「ごめんごめん、あんた泣きそうな顔してるよ。ホント正直なやつ。かわいいねー。」


涙目になりながらあたしは返す言葉も見つからなかった。


「なくなよー。沙希ちゃん。大丈夫。言わないから(苦笑。多香子、ちゃんと責任取れよ。」


そういうと和馬さんはあたしたち二人を残して練習室を出て行った。

それに落ち着いたのか、あたしの目からは本当に涙が出てきた。


こんなに一喜一憂するなんてばかみたい・・・


「大丈夫!??ほんと、小学生じゃないんだからなかなくてもいいじゃん・・・。昨日話せたの!??」

うなずいたあたしに多香子が微笑む。

「よかったじゃん。沙希はホント素直だね。和馬も沙希が朝倉さんのこと気に入ってることなんてとぉぉぉっくに気づいてたよ(笑。あぁみえて、あいつも勘が鋭いから。」


「土曜日、一緒に行こうね!?」


そういった多香子に、あたしはうなずいた。









「待ってるからね・・・」




そういったあなたの声を、あたしは頭の中でリピートしてた。