「今日どうする?あたし部活なんだ」
「あたしバイトなんだよねー。アリスはー?」
「あたしはスピコンの原稿仕上げなきゃいけないから・・・・・・」
「じゃーまた明日!」
「バイバーイ!」
・・・・・・
桐生アリス。
都内有数の進学校の3年生。母親がフランス人のハーフだ。制服を着てても街中では外人に間違われる始末。今は父親の仕事の都合で2人はフランスに移住しており、アリスは日本で一人暮らし。毎日勉強三昧で、なんの面白みもなく高校生活を過ごしていた。
-何か刺激が欲しい-
「あ、そういえば今日はenjoy発売日だ!」
enjoy-10代~20代女性のファッション誌。今月は“今最もセクシーな20歳 橘 立稀”の特集。幅広い年齢層に人気で、好感度No.1の俳優だ。目鼻立ちの整った顔や天然パーマの髪、優しい笑顔はやわらかいオーラを出し、世の女性陣に癒しを与えている。
「あれ、引越し・・・?」
マンションの下には2台のトラック。オートロックを解除し中に入るとたくさんのダンボール箱があった。エレベータに乗るとどうやら同じフロアの人のようだ。
「そういえば、隣空室だったな・・・。」
予想は的中。このダンボールの運び先はは隣の部屋だった。アリスの部屋は奥のため、荷物の搬入を待っていた。すると、部屋から白いタオルを頭に巻き、Tシャツにスウェットを着た男が出てきた。
「・・・・た、たち・・・たちばな・・・りつき?!」
あまりの衝撃に驚きを隠せず、アリスは無心になりそのまま自分の部屋へ逃げ入ってしまった。
-落ち着け、あたし・・・・・・。“似てる人間は世界に3人居る”っていうし、橘 立稀な訳ないって!!-
冷静を取り戻そうと必死になっていると、玄関のチャイムが鳴った。恐る恐る指をボタンに近づける。
「は、はい。」
すると、スピーカー越しにハスキーボイスが聞こえてきた。
「隣に越してきた黒崎です。」
そのハスキーボイスは、“黒崎”と名乗った。アリスは一瞬で冷静になった。
-やっぱり、似てる人か-
落ち着きを取り戻したアリスは玄関へ急ぎ、ドアを開けた。そこには、スラッとした男が立っており、ブランドの紙袋を持っていた。
「どうも。隣に越してきた黒崎です。これ、よかったらどうぞ。」
そう言うと、黒崎と名乗る男は紙袋から箱を取り出し、アリスに差し出した。
「あ、こちらこそ。桐生です。」
差し出された箱に手を差し伸べた瞬間、その男はアリスの腕をわし掴み耳元でそっとささやいた。
「俺の本名。バラさないでね。もちろん、ココに住んでることも。」
呆然と立ち尽くすアリスを横目に、その男は自分の部屋へと戻った。
そう・・・この男、橘 立稀こと本名黒崎 光。
数秒たって我に返ったアリス。ドアを閉め、力が抜けたように玄関にペタリと座り込んでしまった。ささやかれた左耳は、赤くなりまだジンジンしていた。