映画『ぼくたちの哲学教室』

渋谷ユーロスペース

ヨーロッパでは「道徳教育」ではなく、「哲学」の授業が行われる。哲学が他者を受け入れ、和解を導き、平和への土壌を耕すのだということを、このドキュメント映画ほど豊かに、深く、説得力をもって伝えているものはないだろう。ぜひ、見ていただきたい。

舞台は北アイルランドのベルファストの小学校（男子校）。４～１１歳の４００人が学ぶ。教師が２０人。「労働者階級の住宅街」という表現は日本ではあまり使われないが、プロテスタントとカトリックとの宗教的対立、連合派と独立派との政治的対立（イギリス連邦との）が複雑に絡み合って、武力闘争がしばしば起きている。ヨーロッパの中で最も青少年の自殺率が高いのだそうだ。

校長のケヴィン・マカリーヴィーは根気強く哲学的手法に基づき、他者の意見に耳を傾け、いらだつ心を押さえ、対立から和解へ導こうと努力する。教師たちはそこから学び、学校全体が子ども理解を深めていく。親たちにもくり返しその必要を説く。

　父親から「相手がかかってきたら必ず殴り返せ」と言い聞かされている少年とロールプレイをする場面がある（パンフに収録されている29p）。ケビン校長が息子で、子どもが父親役だ。「殴り返したか」と怒る父に、「親父は殴り返すとどんな気持ち？」と問う。「自慢と……心残りが少し」と答える。その隙間に問いかける。「どんな心残りか教えてよ」「昔一度誤って違う相手を殴ってしまった」「どんな気がした？」「いい気はしない」……（以下省略）。こうした対話から、「殴らないで。先生や仲間と相談して解決したいんだ」というところに落ち着いていく。

「もし、この学校に来ていなかったら、私の息子も”次の自殺者”のリストに加わっていただろう」という母親の言葉がパンフレットに紹介されている。

映画を観て、「読書会」を開きたいものだ。各地で上映会が開かれ、話し合いが広がっていくといいなあ。

哲学によって築く和解、そして平和