夏生乃吸血姫綺譚

夏生乃吸血姫綺譚

日々徒然なるままに。

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私は短い夢を見た。過去に一度視ている夢。一度体感している場面。一度しか味わえない…なんて、戦好きのような考えに心情。月のない夜、竹林の奥深く。
夕(わたし)と鬼(シズル)が対峙している。片手に刀を持ちジリジリと間合いを詰める私に、己の爪と牙を武器に逃げ道を探る鬼。優勢なのは私の方と、傍目にも分かる事。



『話をして…。』


女の鬼は悲痛な表情をして私に懇願している。一手で終わらせるつもりだった夕(わたし)の動きが止まる。その様子は、言葉にすれば相手の声に怯んだように見えるかもしれない。けど其れで占めたと私の間合いに入っていれば、私の一手を誘発する…死を早める事になっていたはず。
夕(わたし)は鬼(シズル)がそんな表情をする事、話をして…とは何を指しているのか、兄弟子たちに加わり鬼狩りの任に就いてから、初めて見る。
屍流は話しはするけど、精神は人間から屍流に成り果て、好戦的。この屍流は…人間だった自分を、まだ保っているんだろうか?それなら、コレは初期症状。直に自我を喪失する。それなら手加減はいらない。



『話して、』



屍流が繰り返す。陽動…逃げる機会を作る為か、仲間を呼び寄せる為。
そう判断して刀を構え直した夕(わたし)に、再び屍流が口を開く。


『貴女はなぜ…人間でも鬼でもないの?』






「…………はっ、」


イヤな夢。どっち付かずの夕(わたし)の願い。それが叶わなかった現実(いま)。何度も何度も繰り返し突き付けられるそれから、逃げる術を私は知らない。だって、それはもう夢ではなく今の吸血姫(わたし)なんだから。
この世に人間以外の生物がいないなんて、人間の勝手な想像…。私の決まり文句になりつつある持論。的はずれじゃない、現に吸血姫(わたし)が存在している。でも、この夢の後じゃ…。


「……。…ただの皮肉だわ。」


レッズの夢の次にイヤな夢。本当に起こった出来事なのか…私の妄想なのか。今はもう分からない。