新生活

 

 「…という訳で、父さん、僕はラウラと一緒にしばらくブステナで過ごすよ。」

 

 成り行きで愛の証明をすることになってしまったアンドレイは、フェリックスに電話し、事情を説明していた。

 

「そうか、分かった。もし、私に何か出来ることがあれば、遠慮なく言ってくれ。」
「ありがとう。」
「母さんには私から事情を説明しておくから、心配しなくて良い。上手くやれよ。じゃあな。」
「うん。分かった。バイバイ。」

 

 終話すると、アンドレイはユリアの部屋へ向かった。
 ユリアから様々なことを学べとアナマリアから言われたからである。
 しかし、具体的に何を教われば良いのか現時点では不明だった。


 それにしても、この屋敷は大きい。
 ユリアの部屋に辿り着けるのか不安になるほどである。
 
「確か、この部屋だったような気がするんだけどね。」
 
 そう言うと、アンドレイはユリアの部屋だと思われる部屋のドアをノックした。

 

「はーい。どうぞ入って下さい。」
 
 中から聞こえたのはユリアではなくラウラの声だった。

 

「あれ? ラウラ? 部屋を間違えたかな?」

 

 ラウラは少々乱暴にドアを開けた。

 

「何よ。私に会いに来てくれたんじゃないの?」
「えーと、ユリアの部屋を探しているんだけど。」
「ユリアの部屋は隣よ。あなた、ユリアに会いたくてたまらないんでしょう。彼女は可愛いですからね。」
「え? いや、その…。」
「良いのよ。ユリアに会いに行って。」

 

 そう言うと、ラウラはドアを閉めた。
 気まずい雰囲気になってしまったが、アンドレイは気を取り直し、ユリアの部屋のドアをノックした。
 すると、ユリアがドアを開けてくれた。

 

「アンドレイ、どうしたの?」
「ユリアから様々なことを学べって婆さんから言われたから、会いに来た。」
「ふふ。そう。中に入って。」

 

 ユリアに招かれ、アンドレイはユリアの部屋へ入った。

 

「それで、何から学びたいの?」
「えーと、何からかな?」
「まずはラウラと仲直りする方法を教えましょうか。」
「えっ? もしかして、さっきのやり取り、聞こえていたの?」
「聞こえていたわ。あなた達は面白いわね。いつもそんな感じなの?」
「うん、いつもそんな感じ。」
「仲直りしたいのなら、ラウラにプレゼントを上げなさい。」
「プレゼント? 何を?」
「ドレス。」
「ドレス? どんなドレス?」
「可愛い手作りのドレスよ。私がそのドレスを作るけど、材料を取りに行かないといけないから、手伝ってね。」
「材料?」
「この山には色々な材料があるの。火で燃やすことが出来ない服を作るための材料もあるわ。それを取りに行くの。」
「それって、石綿?」
「あら、石綿のことを知っているの? 確かに石綿で服を作ると、燃えない服が出来るわ。でも、石綿は体に良くないから、使わない。私達が取りに行くのはファイアー・ドレイクの抜け殻よ。」
「ファイアー・ドレイク? 何、それ?」
「ドラゴの時代に作られた大きな蛇で、燃えない皮を持っているの。普段は大人しいんだけど、警戒心が強いので、近づく者を攻撃することがあるわ。だから、私達はファイアー・ドレイクに近づかないようにしながら、抜け殻を探すの。」
「ふーん、そうなの。」
「あら、これから危ないことをするのに、動じないのね。素敵。あなたって本当に可愛い。」
「可愛い?」
「さあ、早速、出かける準備をしましょう。」

 

 ユリアから可愛いと言われ、アンドレイは嬉しくなった。
 しかし、何故、そんな感情がわくのか?
 ラウラが言ったように、本当にユリアに恋しているのか?
 いずれにせよ、アンドレイは、これから楽しい生活を送れるのではないかという期待を抱かずにはいられなかった。


 ラウラとユリア。
 二人の美しいアンデッド。
 アンドレイは、ユリアがアンデッドであることをまだ知らないが、彼の新生活は、美しいアンデッド達が側にいる生活である。