赤い液体の説明


 フェリックスは5人分のシャワルマを買い、ラウラの家に戻ろうとしていた。
 ラウラとまた一緒に食事が出来るのは嬉しいことだ。
 しかし、食事が終わったら、彼はアンデッドの薬のことを彼女達に説明しなければいけない。
 彼女の両親は彼女がアンデッドになったということをまだ知らず、彼女が生き返ったと思っている。
 そして、彼等はまだ、彼女がアンデッドになったことの危険性も知らない。
 どのように説明すれば良いだろうか。
 
 フェリックスは歩きながら薬の説明の仕方について考えてみたが、考えがまとまらないうちにラウラの家に着いてしまった。
 そして、キッチンへ行き、アンドレイ、そしてラウラの家族と一緒に食事を始めた。
 
 ラウラの両親は3日間ろくに食事を取っていなかった。
 しかし、ラウラが復活したことによって食欲を取り戻したようであり、シャワルマを勢いよく食べている。
 一方、ラウラはシャワルマを食べようとしない。
 その様子を見たアンドレイはラウラに話しかけた。
 
「お腹空いてないの?」
「うん…。」
 
 そういえば、アンデッドは何を食べるのだろう?
 食事は必要ないのだろうか。
 いや待て、分からないのは食事のことだけではない。
 分からないことだらけだ。
 
 結局、ラウラだけシャワルマを食べなかった。
 
 食事が終わると、フェリックスが切り出した。
 
「そろそろ、ラウラが飲んだ薬のことについて話そうと思う。先ほどラウラが飲んだ赤い液体は、ブステナの魔女に調合してもらった薬で、アンデッドの薬と呼ばれるものだ。」
 
 アンデッドの薬?
 魔女?
 話の内容がよく分からないティビはフェリックスに質問した。
 
「人を生き返らせる薬を作れる女性がそこにいるということか?」
「ラウラは生き返った訳ではない。彼女の体は今も死んでいる。あの薬を飲んだ人間はアンデッドになり、生命活動が停止したまま動けるようになる。」
「そんなことが可能なのか?」
 
 ティビはフェリックスが言ったことを一瞬疑った。
 しかし、死んだはずのラウラがこうして動いているのだから、彼が言ったことは本当なのだろう。
 
「アンデッドになると歳を取らず、体がある限り動き続ける。そして、生前より強い力を持つ。」
 
 そう言うと、フェリックスは硬貨を取り出し、ラウラに差し出した。
 
「ラウラ、試しにこの硬貨を指で曲げてみてくれないか。」
 
 硬貨を渡されたラウラは、いとも簡単に指で硬貨を曲げてしまった。
 彼女の両親はその様子を見て驚いた。
 
「ラウラ、今の君は超人だ。決して人を思いっきり叩いてはいけないよ。うちのアンドレイまで復活させるような事態になってしまったら困るからね。」
 
 ラウラはアンドレイをちらっと見ると、アンドレイは少しびくっとした。
 
 続いて、フェリックスは薬の副作用について説明し始めた。
 
「質の悪いアンデッドの薬には副作用があるが、今回ラウラが飲んだ薬は質が良い。薬の質は材料で決まるのだが、故人と親しい関係にあった者の血が含まれている薬には副作用がない。今回はアンドレイの血を使ったので問題ない。」
 
 ティビがフェリックスに質問した。
 
「どんな副作用だ?」
「…3年以内に人を食べる魔物になるという副作用。」

 


 
 それを聞いてラウラの両親は驚いたが、ラウラは驚かなかった。
 そして、ラウラが口を開いた。
 
「私にぞっこんなアンドレイの血が使われているから大丈夫ね。」
「その通り。今回は何も心配する必要がない。ティビ、アレクサンドラ、君達はこれからもずっと一緒にラウラと過ごせる。」
 
 それを聞いたラウラの両親は安堵した。
 しかし、副作用のことも含め、今話した内容が事実かどうかをフェリックスは確認していない。
 彼はブステナで教えてもらったことをそのままラウラ達に伝えただけである。
 
 フェリックスはそのまま話を続けた。
 
「薬をラウラに飲ませた後、一度ラウラをブステナに連れて行くことになっている。早速だが、明日、ラウラと一緒にブステナに行ってみてはどうだろう。その際、専門家に薬のことを色々と尋ねてみると良い。」
「ああ、そうするよ。その方に会って、お礼を言わなければならない。」
「私は仕事の関係で一緒に行けないが、アンドレイが道案内をする。アンドレイ、道は覚えているね?」
 
 アンドレイはうなずいた。
 
「では、アンドレイ、そろそろ私達は帰ろうか。」
「父さん、今日はずっとラウラと一緒にいたい。」
「お前は未成年だぞ。」
 
 すると、ティビが口を開いた。
 
「フェリックス、まあ、いいじゃないか。アンドレイ、今日は泊まっていきなさい。寝床は居間に用意する。」
 
 フェリックスはやれやれといった顔をしながら承諾し、独りで家に帰っていった。