ラウラの目覚め
ラウラは深い眠りについていた。
もう、起き上がることが出来ないほど深い眠り。
暗い顔をした彼女の両親は彼女を見つめながら涙を流している。
彼等は食事をろくに取らず、彼女の側を離れようとしない。
もう、3日もその状態が続いている。
どうしてラウラはもう動くことが出来ないのだろう。
可憐な顔立ち、肩まで伸びた金色の髪、小柄な体、見た目は何も変わらないのに。
あまりにも眠りが深いから、中々目が覚めないだけなのではないか。
目を覚まして、私達に笑いかけて欲しい。
そんな両親の思いも虚しく、彼女はずっと眠ったままであり、体も冷たくなっていた。
トントン。
誰かがドアをノックした。
しかし、ラウラの母アレクサンドラはラウラを見つめたまま動かなかったので、ラウラの父ティビがドアを開けに行く。
ティビがドアを開けると、そこにはフェリックスとアンドレイがいた。
「今晩は。ラウラはまだベッドに?」
「ああ、彼女はまだベッドの上で『寝ている』よ。」
「彼女に会わせてくれないか。」
「いいとも。」
ティビはフェリックスとアンドレイを家の中に入れ、ラウラが寝ているベッドへ案内した。
そこにはラウラと彼女を見つめたまま動かないアレクサンドラがいた。
アレクサンドラもティビも随分とやつれている。
フェリックスがティビに話しかけた。
「二人とも夕食は取ったのか?」
「いいや、今日は何も食べていない。」
「食事はきちんと取るべきだ。後でシャワルマでも買ってくる。」
「ああ…。」
ティビの返事には力がなかった。
しかし、一人娘を失ったのだから、そうなるのは無理もない。
彼等のためにも、ラウラを復活させる必要がある。
アンドレイはラウラの側へ行き、赤い液体が入った小さな瓶を取り出した。
しかし、アレクサンドラはそんなアンドレイの動きにも全く反応せず、じっとラウラを見つめている。
この瓶の中に入っている赤い液体が何なのかを今説明しても意味がないと思ったアンドレイは、そのままラウラの口の中に赤い液体を流し込んだ。
その様子を見たティビがアンドレイに話しかけた。
「それは一体何だ?」
アンドレイは返事をせず、じっとラウラを見つめ、彼女の手を握った。
すると、彼女の手がぴくりと反応した。
その反応を確認したアンドレイはラウラに囁いた。
「ラウラ、愛している。目を覚まして。」
すると、ラウラはゆっくりと目を開けた。
それを見た彼女の両親は信じられないといった顔をした。
そして、彼女の両親は歓喜の悲鳴をあげて泣き出した。
今、ラウラの瞳にはアンドレイが映っている。
しかし、ラウラは状況がよく分かっていない。
ラウラがアンドレイに話しかけた。
「アンドレイ…。何をしているの?」
「ラウラ、目を覚ましてくれて嬉しいよ。薬が効いたみたいだね。」
「薬…?」
ラウラはアンドレイが小さな瓶を持っていることに気付いた。
彼女は、その瓶の中に入っていたのが薬で、アンドレイがそれを私に飲ませたのだろうと思った。
そして、言った。
「ああ、そう、そうなのね。これはあなたがやったのね。」
「ん? どうかした?」
「苦い、苦過ぎるわ。こんな苦いものを飲まされたのは生まれて初めてよ。あなた、私に何か恨みでもあるの?」
「…。」
「口をゆすぎたい…。お母さん…。」
ラウラがアレクサンドラを見上げると、アレクサンドラはラウラの体を起こしてバスルームへ連れて行き、口をゆすがせた。
ティビは未だに信じられないといった顔をしている。
そして、フェリックスに切り出した。
「フェリックス、本当にありがとう。君は最高の友人だ。それにしても、あの薬は一体どこで手に入れたんだ?」
「ん? ああ、あれね。後でゆっくり話すよ。とりあえず、夕飯でも食べようか。シャワルマでも買ってくるよ。5人分で良いね?」
フェリックスは嬉しそうな顔をしながらそう言い、シャワルマを買いに出かけた。
その後、ラウラとアレクサンドラがバスルームから戻ってきた。
ラウラは不気味な笑みを浮かべながらアンドレイに話しかけた。
「アンドレイ、何回口をゆすいだと思う?」
「さあ? 10回くらいかな?」
「もっと沢山よ。ねえ、どうして私にそんな苦いものを飲ませることが出来るの?」
「…。」
「まあ、いいわ。もう、苦味は消えたから。」
ラウラはそう言うと、アンドレイに口づけした。
「ね、キスしても苦味を感じないでしょう?」
「そんなに苦かったの?」
「私ね、夢の中でも苦味を感じたの。暗いところを歩いている夢だったけど、急に凄い苦味を感じて目が覚めてしまったわ。」
あの薬、死人が目を覚ますほど苦いのか…。
しかし、おかげでラウラは復活した。
再びラウラと過ごせる日々がやってきたのだ。
「ラウラ。」
「ん?」
「愛している。」
「知っているわよ、そんなこと。私も愛している。」
アンドレイとラウラは抱き合い、何度もお互いの唇を重ねた。
その様子を見たティビが二人に言った。
「二人とも、未成年なのだからほどほどにしておきなさい。」
しかしまあ、今日ぐらいは良いだろう。
そう思ったティビはあまり強く言わず、二人を放置し、キッチンへ向かった。