はい、RayuTube登録者様1,210人です、順調です。
新カバー・リリースは怪獣の花唄 /バウンディです。

おおΣ(゚□゚;)バウンディ♪
年末の紅白、良かったですね♪


(貼り付け)バウンディは…『まぶた』です。

メロディラインが好きだけど、喫茶店のシチュエーションは何だろう(~_~;)

さて、職場には読書好きな妙齢のご婦人がいて(先輩女性社員)。
松本清張はほぼ読破したとかいう、iuを子ども扱いする偉人(女性)ですが。
彼女はちょくちょく、iuの机の読みかけの文庫本を気にしてくれます。
今朝も、コーヒーを手の平で包んでそこに立ち、文庫本の表紙をチラリめくりに興味深そうでした。
iuは休憩から席に戻ろうと気が付いて、彼女に笑みの相槌をしました。
「iuさん、これは?」
質問ではないのでしょ?もう読んでいて、その上で同意を求めてるんでしょ(いい、小説よね?)って。
「…はい」
iuは文庫本を手に取り、表紙を開いて表題を確認しながら頷きましたよ。
「驚いた、本当に良い物語です♪」

「羊と鋼の森」宮下奈都(著)文春文庫


第13回本屋大賞受賞作

ピアノの調律師の、仕事物語です。
新米調律師、外村(とむら)の成長記。
ジャンルは純文学ですが、構えるところは何もありません。

冒頭で、いきなり体育館が森に変わるので、ちょっとびっくりしました。
最近俗っぽくなって←すぐにホラーを連想するので。
それにしても、いつの間にか森にいた、とても自然な推移でした。
まず、そんな文章が秀逸です。
この物語の文学表現というのは、形容や比喩が巧み、とかではなく。

主人公・外村はまだ経験の浅い言わば見習い調律師です、彼は調律されたピアノの音に、スッと自身が持つ美しい風景を連想します。
その風景は、気がつかなかったけれど知っていた類(たぐい)の、山での体験認識で。
彼はそこに、隠れていた美しさを発見してはたじろぎ、感じ入ってしまう。
読者はそれに付き合わされて、いちいち美しいのでしょうね。
それは、夜の闇であれば、息を潜める獣たちの気配だったり、ざわめく鳥の声、空を圧する星の輝きだったり。
静けさであったなら、今もどこかで発光している樹木の幹だったり、ぽとぽと落ちる実の音だったりします。
それは体験に基づくから、個々が連綿と補完し合って織りなす布のように、際限なく拡がる。
気がつくと読み手は自然の中に立っている、北海道の山中の森にです、錯覚ですが。
でも実体験だから?その美しさに心打たれてしまう、鮮やかな文学世界なのです。

楽器(ピアノ)の調律の難しさ、奥深さも丁寧に語られます、そこもいいですね。
音を合わせるって、基準の音を正確に合わせて(ラの音、440ヘルツなのだそう)後は順次、という訳でもなく。
音色は様々です。明るい音、澄んだ音、華やいだ音とかある、そりゃそうです。
さて、それってどうやって調整、表現していくのでしょう?
それは様々な試行であり。
結局上手く出来ない新米・外村の苦労を通して、調律の難しさ・現場の厳しさを伺い知る事になります。

後は、ピアノという楽器の仕組み、それを人が弾くという事。つまり音楽に向き合う音楽家・ミュージシャンの姿、似て非なる調律師の姿など多角的に語られて、興味深いです。
iuなどは、電子ピアノもいいんじゃない?ローランドとか、と認識していたのですが(それは別の話で)。
クラシカルなピアノと云う楽器。
ハンマーの先のフェルト(羊毛)が、鋼の弦を打ちます、その様々な音色はピアノの中からあふれ出て、例えば森になる、だなんて……
すげぇΣ(゚□゚;)
そもそもこの物語、調律と云うテーマからして素敵なんです。

外村を含めて、調律師が4人登場します。
彼等の人なりは一端が語れる程度ですが、会話の端々から調律に対する考えが伺えます。
皆、実直で繊細、真面目でよい人間ばかりです。
何でもそうかもしれない。物事は何でも奥深くて真摯に向き合わなくてはいけない。真面目に取り組みそれが結果になる(調律で云う音色、美しい調律になります)
人は、真面目が輝きます。

ストーリーです。
ありきたりな、変哲もない高校生だった主人公・外村はある日、体育館のピアノ調律に立ち会います。
ある調律師がピアノを鳴らす度に?感動ではない種類の不思議な感覚に陥ります、彼は心の原風景的な森を、そこに垣間見る…
それがきっかけになって、彼は調律師になりたいと思います。高校を卒業後は、調律師の専門学校を経て、楽器店に就職します。
そこが江藤楽器店、小さな会社です。先輩がいます、調律師は4人。
(あと、事務職女性社員の北川さんがいます、いい味出します)

。面倒見が良い、新人外村の教育係です。
バンドでドラムを叩くのに、公衆電話の緑が嫌いで、精神失調をメトロノームで救われたそうです、変人に近い繊細ぶり。

秋野。少し口先が悪い先輩ですが、経歴はピアニストを目指していたほどの強者。棘はあるのにそれは思いやりです。

板鳥宗一郎(名刺が明かされるのでフルネーム)。年配ですが楽器店のホープ、天才調律師です。
彼がかつての体育館で、外村に啓示を与えた調律をしました。

そして外村。少し天然なヒヨッコです。
彼は先輩に揉まれながら、深遠な調律の世界に挑みます。大丈夫か外村?の日々が続くのですが(笑)
そして。
とても可愛らしい、ピアノを学ぶ双子の姉妹、由仁(ゆに、姉)と和音(かずね、妹)が外村の前に現れます。
彼の成長にこの姉妹が関わっていくことになります、さて、それにしても。
どうなる?どうしたいんだ?新米調律師の苦難は続く(笑)そんな物語です。

結局、誰しも自分の殻を破る瞬間があるものですが、外村も邂逅の瞬間があります。
それは単純に、恋、なんですかね?判り易いハッピーエンドですが(そうなのか、外村?)。
案外そんなものだと教えてくれるのも、この物語の良い点かもしれません。
夢中になる事、それが成長の一番のカギになります。


物語の中でとても印象深いし、多くの読者さんが心に留める(留めた)でしょうから、それは引用しておきましょう。
天才・板鳥が「私が目指す調律」と例えた、小説家・原民喜(はら たみき)の云った目指す形です。


「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」(原文のまま)

この物語は斬新に面白かったです。
お勧めしたいのは、かつての高校生・外村のように平凡で変哲もない青年ですが、万人に当てはまるでしょう。
思いもよらない、歩み始めのきっかけになるのかも、と思います。