企業法務、というと必ずしも馴染みがない人が多いのかもしれない。そうした中で、結果として報道された事実、についてのみ、あれやこれや言うこととなるのだろう。
しかし、現実には、特に大企業において、新しい取引、複雑な取引、あるいは大型の取引となれば、契約書の策定・交渉更に実行の段階で外部弁護士の関与は必ずあると言っていいし、その過程で、その取引が【合法・適法】であること、についての弁護士意見書(legal opinion)を取得するのが一般的と言ってよい。
ここで、注意点となるのだが、よくあること、として、相談した弁護士が必ずしもその取引を合法だ、適法だ、と言ってくれないことがある。もちろん、明確に違法だ、ということも少ないのだが、少なくとも疑義がある、として完全に白だ、という意見書を書いてくれないのである。
そうなると、シロの意見書、即ち、clean legal opinionが得られていないと取引担当者はもちろん、取引実行の決断を行う取締役会など会社の機関決定が出来なくなるので、弁護士を変えて、シロの意見書を書いてくれる人に出会うまで弁護士事務所を渡り歩くことがある。
これを称して、オピニオン・ショッピングといい、そうする行為をshop aroundなどと言ったりする。
会社によっては、こうした行為を明確に禁止し、予め指定されている幾つかの弁護士事務所(preferred law firmと言ったりする)だけしか認めないこともある。
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弁護士、といっても、結局は商売なので、clean legal opinionを書かないと弁護士報酬を請求できなくてカネにならないため、何とかシロに見える意見書を書くことがある。もちろん、違法な取引を合法だ、というのは職業倫理に反するので、いってみれば「落とし穴」を用意しておくこととなる。
よくある落とし穴、としては:
1) 提示された取引案についてのみ考察しており、実際の取引が取引案と異なる’要素’をはらんでいればそれは意見書の範囲外だ、というもの。
分かり易い例としては、裏で取引相手にワイロを渡していれば、当然、取引そのものが全体として不適法と言う場合がある。
2) 分析する法律対象を限定しておくもの。
一般的な民法・商法や主な業法(例えば旧・証券取引法、現・金融商品取引法など)の観点からは問題ないが、取引相手が特定の業法に縛られる場合についても、そうした特定業法は考察していませんよ、という場合。
こうした落とし穴を作ってある弁護士意見書は、後で取引が問題となった場合、「先生、あのとき、合法・適法と言ったじゃないですか?」と詰め寄っても、逃げられてしまうことになるので、企業法務の担当者としては、出来る限り、そうした落とし穴が無い様に弁護士と交渉する必要がある。
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さて、では、落とし穴があったりはして、結局は後で違法だったと言うことになった場合であるが、それでも事前に弁護士とは相談した上で、”いちおう、合法だ”という見解を書面で貰っているときに、後の結果論だけで外野が
☆ 取締役としての善管注意義務違反だ!
と非難することが出来るか?となると、かなり難しい。どんなに悪質であろうが、いちおうはライセンスを持っている弁護士が合法だ、と言ったのである。それを信頼して取引に臨んだんです、と言われてしまえば、それ以上、批判しようがない。
明確に、取引の全容を示さずに、弁護士意見書を「詐取した」というような場合でない限り、取締役を違法だとして非難することは困難である。
企業内の法務部門が、本当は怪しいんだけどなぁ。。。とか、あの先生の意見書が危ないだけどなぁ・・・と思っていても、取引を事前に止められるか、というと現実には難しいのである。