まぁ、ここ最近の政治は、国も地方もオカシな議論ばかりで、いちいち反応することにも疲れてしまう現状だが、ここにきて、またぞろ妙ちくりんな議論が出てきた:




<東日本大震災>債権放棄で法人減税 被災者二重ローン対策
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110601-00000008-mai-pol



”政府・民主党は31日、東日本大震災の被災者の「二重ローン」対策として、被災者の住宅ローン債権を放棄した金融機関に対し、法人税を軽減する方針を固めた。金融機関と個人が話し合いで債務を減免する「私的整理」をやりやすくすることで被災者の生活再建を後押しする。全国銀行協会などに対し、個人向け債権放棄の手続きなどを定めた「私的整理ガイドライン」の作成も求める。今後金融庁や国税庁との調整を経て正式決定する。

 対象は住宅ローンを抱える被災者や個人事業者で、収入などの面から債務を免除すれば生活再建が進む可能性があると判断した場合に適用する。私的整理に応じて金融機関が債権を放棄すれば、放棄額の一定割合を法人税の課税対象額から差し引く

 金融機関にとっては債権放棄にかかるコストが減るため、放棄がしやすくなる。

 従来、金融機関が自己破産などの「法的整理」を経ずに個人向けの債権を放棄した場合、顧客への利益供与とみなされ、税制優遇措置を受けられなかった。

 法人向けではすでに同様の制度があり、政府・与党は適用対象範囲を個人に広げることで、被災者支援の拡充を図る。”


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金融機関は法人であり、その課税は当然、法人税法の原則が適用される。そして、法人税法の原則とは、「一般に公正妥当と認められた会計原則」に基づいて計算された利益に対して課税される、というのが大々原理である。



一般に公正妥当と認められた会計原則とは、英語で言えば:



Generally Accepted Accounting Principle, GAAP



といい、会計の世界ではGAAPというテクニカル・タームで一般に通用する用語である。ちなみに、ギャップと発音するが、服屋さんではない。



金融機関であろうが、一般企業であろうが(そして、個人であろうが、だが)、貸したカネは回収するのが当たり前であって、返さなくてもいいよ、というのは余程の特殊事情が存在しなければあり得ない。ましてや、カネ貸しが根幹業務である銀行であれば、なおさらのことだ。



法的整理であろうが、私的整理であろうが、貸したカネを回収できない、というのは貸倒損失であって、会計原則上も損金処理しなければならないし、GAAP上、計算利益を減少させるのは当然の事。



しかしながら、法人税法上、全額が損金算入できない、というのはGAAPからの乖離であって、要は税務署(国)の目線では、法的整理でない限りは『本当は回収できるのに、しなかったんじゃないの?』という疑いの眼で債権放棄を見ている、ということを意味する



上で引用した記事は、さも、被災者支援策であるかのような書きぶりだが、全額損金算入できない、ということは、被災者に対して、「お前、もっと本当は返せるだろう?」と言っているようなものであって、いったい何処が被災者支援なんだか、寒々しく聞こえる。



別にマスゴミなどと呼ばずとも、大新聞も(そして、それは日経新聞ですら同じだが)、こと経済問題となるとカラッキシ無理解であることは再三指摘してきた通りだが、こういう記事は頂けないし、



そもそも、誤った発想に基づく、いかにも恩着せがましい政策を許容することは出来ない。


仮に、この制度が出来たところで、銀行はそんなに簡単に債権放棄しないとも予想される。