久しぶりに、「サルでも分かる経済教室」をやりたいと思います。これを何度か書こうと思いながら、なかなか書く機会がなかったので、今回は『流動性』という言葉を採り上げます。
流動性、という言葉は経済の議論において幾つか異なる意味で多用される用語で、文脈的には分別は容易ですが、馴染みが無い人にとっては分かりにくい概念かもしれません。
流動性という言葉が出てきたのは、恐らく(未確認。間違ってたらゴメン)ケインズが最初だったのではないでしょうか?著名な「雇用・利子および貨幣の一般理論」において、流動性選好理論として登場してから一般に用いられるようになったのではないかと考えます。
ここでは、利子は貨幣を現在使用しない(すなわち、消費しない)対価として位置づけられるわけですが、もしかするとここら辺から分かりにくいのかもしれません。「流動性」の本質を理解する上で、とても重要なので、たとえ話で説明します。
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夏の猛暑のなか、外回りで汗だくになったあなたは、路上で自動販売機を見つけました。冷たいジュースを買って飲もうと思い、財布の中を見ると、100円玉が二つだけ。ジュースは120円ですから、買えるのですが、ふと見回すと近くに目つきの怪しい男がいます。何か狙っているらしい視線を感じたあなたです。
この状況で、さてあなたは、200円を投入して買ったジュースと、お釣りで出てきた80円のどちらを先に手に取るでしょうか?
あんまり自動販売機の前でこんなことを考える人はいないかもしれませんが、私は結構、毎回自販機の前で考えます(いや、別に毎回、目つきの怪しい男を見ているわけではないのだけれど)。
暑さにやられて咽喉が乾ききっているあなたからすれば、当然、80円の硬貨の価値よりも、120円のジュースの価値の方が高いと考えて、先にジュースを手に取るかもしれません。しかし、一般的にはただ飲むしかないだろうジュースと、他に使い道のある80円の硬貨では80円の方が価値が高いとも言えます。目つきの怪しい男が狙っているのは釣り銭の方だろうと思われます。
モノ(サービスも含みますが)の価値は、それを評価する人によって変わります。ジュースを自動販売機に入れて販売するメーカーの人は、そのジュースの価値を120円と考えて提示している訳ですが、それが自動販売機に入っている間(つまり、売れていない間)、そのジュースの価値は120円とは言えません。あなたが、それを買おうと思って硬貨を投入したとたんに、120円という価値が「現実のもの」として現れます。
もちろん、目つきの怪しい男も猛暑の中で咽喉が乾いているのかもしれません。彼が狙っているのは、あなたが買ったジュースの方かもしれません。このとき、あなたは80円の硬貨、釣り銭よりもジュースを先に手に取るべきだ、ということになります。
結局、肝心なのは、路上と言う市場において、120円のジュースと80円の釣り銭硬貨の、どちらに価値を感じる人が多いか?ということに尽きるのです。