久は祖父次郎の言葉を思い返し、自分を見つめなおしていた。実は久は書くことは続けていたが、書く学校でも課題でも小説だけは無意識に避けてきていた。小説ではなく脚本などを書いていた。本丸を攻めないことで、何かに気が付きたかったのかもしれない。
久は小説を書くことを決めた。それからすぐに、護りたい人とまだ言葉のわからない子の由久に伝えた。
「僕は小説作家になることにした」
「やっぱりね」
「ありがとう。そうだよね」
「執筆時期は静かな場所にいることにする」
「静かな場所って?」
「もう一つ家を借りる。たぶん長野あたり」
「別荘みたいだね」
「そういうことだね」
「書き終わったら戻ってくるから」
「あ、別荘は持っているの?」
「これから借りてくる。いや買えたら買いたい」
こうして久はフリーライターの仕事をしながら、小説作家として別荘に籠る生活を始めた。できる限り久は別荘にいることにした。パソコンがあればできるライターとしての仕事は行い、どうしても打ち合わせが必要な場合は新幹線で東京へ出た。それでも自宅には寄らず、すぐさま別荘に戻った。そう、久は自分のモードを大切にした。小説作家モード、フリーライターモード、家族モードこの3つを切り替えるのは繊細な久には難しかったのだ。久にできるのはせいぜい2つまでだった。