今の日本には、ワクチンに関してさまざまな情報があります。百花繚乱といいたいところですが、玉石混淆といわざる終えないところがあります。ただ、多くの人は「玉」と「石」とを区別できないですし、まさが自分が「玉」と思っていたものが「石」だったということは、信じたくもない人もいると思います。

 「そんな中、ワクチンと予防接種の全て--見直されるその威力という」本が出されました。
 その中で、気になった表現をいくつか・・・
 この世に完全なワクチンは存在しません。招来も如何に医学が進展しようとも、感染症の予防に有効で副作用ゼロというワクチンは開発されないでしょう。(p.2)(長い中略)ワクチンのコンセプトは「弱い病気を起こさせて、それに似た恐ろしい病気を予防する材料」だからです。(p.6)
 まさに正論なのです。ワクチンは副作用が心配という親御さんもいますが、まさに「この世に完全なワクチンは存在しない」というのは、正しいです。ただ、当たり前すぎて、多くの医者はスルーしてしまっていたのかもしれません。そして、マスコミ・保護者の中に「絶対安全なワクチンの存在」という幻想ができて、現行のワクチンに不安・不満が生じたのかもしれません。
 現行のワクチン接種に疑問を持つ人たちが書いた本の中には、「この菌(破傷風菌)は嫌気性菌で、空気に触れるとすぐ死んでしまいます。従って、水田や溝の泥や古釘などにしかいません。また、刺し傷でも空気に触れる浅さなら、破傷風になるというはずはありませんので、無理までして(ワクチンを)接種する必要性はないでしょう」という記述があります。(p.53)
 出典元がかかれていなかったので、あえて孫引きをしてしまいますが、こんなことを書いたのは誰でしょう・・・。本書でも書かれているとおり、「破傷風菌は嫌気性菌」以外は医学的には正しくありません。破傷風菌 は多くの場合空気にも強い芽胞 という存在で土壌にいます。

 同時接種でのコメントなど、多少いただけないところもありますが、それを凌駕する内容・面白さです。日本がワクチン後進国になってしまった理由やエイズ裁判がワクチン行政の微妙な影響を与えたことや、それらの対応として日本版ACIPの必要性を、きちんと書いてあります。BSEに関する「ウシ通知」なる名称ははじめて知りました。

 しかし、いったい誰を対象にした本なのでしょう?
 保護者向けに、できるだけ平易に、という意図は伝わりますが、文字が多すぎ、そして高すぎますorz(4725円)。
 もう少し安くて、薄くて、それでいて科学的に、いろいろな意見に反論できる本があればいいと思います。

ワクチンと予防接種の全て―見直されるその威力/大谷 明
¥4,725
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