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バイオレットクローバー Ⅰ ~エリカ~
ここはどこだろう。
何も見えない、何も聞こえない、真っ暗な闇。
あぁ、そうか、自分は。
――死んだのか。
突然ふっと体が浮き上がる。
遠くに淡い光が見えた。
嫌、嫌だ。そっちへは行きたくない。
何かに引っ張られる感覚。
遠くに見えていた光はやがて大きくなり、さらに明るさを増していく。
あまりの明るさに目が眩む。
そして――。
目をあけると、真っ白な天井が見えた。
すぐ傍から聞こえてくる無機質な音。
ぼーっとする頭。重たい身体。
意識があることに気付き、自分は生きているのだと実感する。
あぁ、どうして――。
これで、全てを終わりにするはずだったのに。
この世界はどこまでも残酷だ、そう思った。
***
幼い頃、蒼也は右眼を失った。
事故だった。
命に別状はなかったものの、その日から「五十嵐 蒼也」という一人の人間としての人生は終わった。
見えないはずのものが、見えるようになってしまったのである。
幽霊、そして"人の寿命"――。
最初に寿命を見たのは、父親だった。
彼の頭上に一瞬だけ、淡く靄がかかっているのが見えたのだ。
最初は何かの見間違いだろうと思った。
しかし日に日に靄は色を濃くし、一週間後、父親は出張先で事故に遭い死んだ。
葬儀に訪れる黒ずくめの中の一人に、またしても蒼也は靄を見た。
そして指をさし、小さく呟いたのだ。
あの人の頭の上に、モヤモヤしたのが見える、と。
数週間後、またしても葬儀が行われた。
そのときのことを、蒼也はあまりよく覚えていないが、棺の中で穏やかに眠る人物の顔だけは鮮明に記憶に残っている。
亡くなったのは、あの葬儀のとき、蒼也が靄が見えると指を指した、叔母であった。
それ以降、蒼也は街に出る度に靄が見えると呟くようになった。
そして呟く度に、人が死ぬのだ。
小さな田舎町で噂が広がるのに、そう時間はかからなかった。
「死神の子だ」と周囲の人間には気味悪がられ、自分たちに関わる者は急激に減っていった。
あくる日の夜、母親は蒼也を連れ、大荷物を持ち、よそ行きの服を着て知らない町の教会を訪れていた。
そして蒼也を教会の前の石段に座らせるとすぐに戻ってくるから、とその場を去って行った。
しかし、母親が蒼也の前に姿を見せることは二度となかった。
間も無くして、蒼也は教会の近くの孤児施設に引き取られたが、そこでもやはり、周りからは少し距離を置かれていた。
あまり喋らない上に、時々何もない壁を凝視していたり、視線を宙に漂わせては何かを追いかけるように見ていたり。
周りには気味が悪いと映っても仕方がない行動ばかりをとっていた。
だって、見えるのだ。
幽霊が。靄が。
関わろうとしなかったのは、周囲の人間だけではなかった。
蒼也自身も、何処か人を避けていた。
気付いていたのだ。
自分は他の子とは少し違うということに。
そして、その幼く小さな胸に刻み込まれたのだ。
自分は他人と関わらない方がいいのだということを。
他の子とは違う、その原因が右眼にあること。
それは数年後、些細なきっかけで気付くこととなる。
ふと右眼が隠れたときに、幽霊や靄は見えなくなったのだ。
必死になって右眼を隠し、周囲の視線に耐える日々。
それでも、「気味が悪い」と、虐められた。
「死神だ」と、石を投げつけられたこともあった。
どれだけ隠しても、自分と関わろうとするものは、誰一人いなかった。
どうして、どうして――。
自分が一体何をしたというのだろうか。
それから数十年が過ぎ、蒼也は高校生になっていた。
右眼を隠す包帯はずっととっていない。
"見てしまう"ことが怖かったから。
しかしある朝、包帯を交換しようと外した瞬間、とてつもなく恐ろしい光景を見てしまった。
悍ましい幽霊の集団、自分に向けられる視線、歪んだ無数の顔――。
…今思い返しても、これ以上に恐ろしいものは見たことがなかった。
背筋から一気に寒気が走り、そのまま施設を飛び出した。
行くあてなどなかった。
ただがむしゃらに走った。
走って走って、気づいたときには、知らない町の、ひと気のない横断歩道に立っていた。
恐らく大型のトラックか何かだろう、遠くからガタガタと近付いてくる音を聞きながら、ふらふらと前へ進んでいく。
これ以上、見たくない。
見たくないなら、隠せばいい。
単純なことだ。
しかし、もうそれだけではダメなのだ。
「死神」と恐れられ、孤独な人生を送るなら。
もういっそ、死んでしまおう。
―――最後に聞いたのは、けたたましく鳴り響くクラクションだった。
これでやっと、苦しまなくてすむ。
怯えなくてすむ…。
……はずだった。
―――あぁ、どうして今、自分は生きているのだろう。
どうして助かってしまったのだろう。
あのまま死んでしまえば良かったのに。
どうせ自分が死んでも、悲しむ人間なんて、いないのだから――…。
絶望に浸りながら、蒼也は静かに眠りに落ちた。
エリカ : 孤独
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第1話やっと全部書けた…!
うーん。意味不明。何が何だかわからない…。
途中までは結構前に書き終わってたんだけど、冬休みの宿題の量がもうほんとクソすぎてなかなか書けずにいたので、無事に書き終われてよかったっす。
自分の書きたいものにぴったりな表現を見つけるのってめちゃくちゃ難しい…。
書きたいものが思うように書けないとものすごく歯がゆいし。(地団駄)
ボキャ貧です。もっと語彙力と文才が欲しいです。
もっといろんな小説を読まねば。
次は朱咲ちゃんを出す!
日 本 語 っ て 難 し い !