水曜日、午後6時半。
水曜日、午後6時半。あのドアを開ける。そこにはこれでもかってくらい楽しい場所がある。あの僕の居場所と出逢って溜め息ばかりの毎日が突然輝き始めた。僕を変えたこの人達とずっと一緒に居たいと思った。
僕の居場所は悲しくも誰もが満足している訳ではなかった。誰もが違う思考を持つべきであって、僕が満足しても満足できない奴もいた。でも、僕は立場上、彼らの事情に付き合う暇も義理もない、限界まで僕が楽しむことに精一杯だった。毎週水曜日午後6時半、僕の「普通」は彼らには「過酷」らしく、僕は彼らに「普通」の押し付けを諦めた。
分からない人は何も変わらない。
分かる人は何かが変わっていく。
僕は変わっていく。目の前の景色など気にも止めていなかった。気づけばそのひとつひとつは極彩色に綺麗に染まっていた。
時間が過ぎるのは早いもので僕は居場所との別れが近付いている。その居場所で目に焼き付けた数々の光景を忘れるつもりはない。忘れるはずがない。そんな「普通」な日々をまだ手放せない。「普通」な日々に心からの感謝を込めて。
そんな「普通」のこと、ずっと忘れない。
昇る。
この時期の夜、昼は邪魔だった長袖は役不足になってしまう。先程の日溜まりには既に影が降り、薄手の長袖の上に重ね着をする。最近、日は大分短くなった。太陽を頭の上に認めると休む間も無く落ちていく。
ある誘惑のあと、帰路を辿る。太陽は真下に位置していると感覚的に悟る時間帯。いつもと変わらず普通列車しか停まらない駅を降りる。十三夜の月明かりは街灯とネオンランプに溶け込む。光の下、煙草を一本喫する。いつもと違う風味は、私の性格の現れである。漂う一本の煙は月へ向かい、昇る。
今日もひとつ、溜め息をつく。
軽い水滴は微かに色付き月へ、昇る。
―了―
ある誘惑のあと、帰路を辿る。太陽は真下に位置していると感覚的に悟る時間帯。いつもと変わらず普通列車しか停まらない駅を降りる。十三夜の月明かりは街灯とネオンランプに溶け込む。光の下、煙草を一本喫する。いつもと違う風味は、私の性格の現れである。漂う一本の煙は月へ向かい、昇る。
今日もひとつ、溜め息をつく。
軽い水滴は微かに色付き月へ、昇る。
―了―
Autumn has come.
最近まで滞在していた熱気はとっくに南に帰り、知らぬ間に冷えた空気を肌に少し感じるようになった朝。自分の体温を布団に残してしまったことを名残惜しみながらもフローリングに立つと裸足の足は一枚だけ履くものを欲した。窓を開けて寝るのは暑かった夏の名残か。開け放たれた窓から、柔らかい陽射しと冷たい風が入ってきていた。秋が来た。
秋になっても相変わらず朝は忙しい。忙しくも甲斐甲斐しく珈琲豆を挽く音は最早生活に溶け込んだ。香りを充分に吸い込めるようになると珈琲は完成する。今朝の一杯はパプアニューギニア ウリア。爽やかでまろやかな香味と深い甘み、柔らかい酸味、バランスがとれている。少し冷えた朝も温かい珈琲にまたひとつのアクセントを加えた。訪れた季節はマグカップの中で存在を主張していた。
毎年、知らない間に訪れて、いつの間にか去っていくこの季節。この時期の空気は妙に心を高ぶらせる。吸い込むと肺が少し冷たくなるのを感じた。自転車を漕ぎ出す。いつもより高く青い空は駆け出す私を見下ろしていた。
―了―
秋になっても相変わらず朝は忙しい。忙しくも甲斐甲斐しく珈琲豆を挽く音は最早生活に溶け込んだ。香りを充分に吸い込めるようになると珈琲は完成する。今朝の一杯はパプアニューギニア ウリア。爽やかでまろやかな香味と深い甘み、柔らかい酸味、バランスがとれている。少し冷えた朝も温かい珈琲にまたひとつのアクセントを加えた。訪れた季節はマグカップの中で存在を主張していた。
毎年、知らない間に訪れて、いつの間にか去っていくこの季節。この時期の空気は妙に心を高ぶらせる。吸い込むと肺が少し冷たくなるのを感じた。自転車を漕ぎ出す。いつもより高く青い空は駆け出す私を見下ろしていた。
―了―
