京都市某区深泥丘界隈

京都市某区深泥丘界隈

綾辻行人原作『深泥丘奇談』の舞台、京都市某区深泥丘界隈を紹介します。内容は筆者個人の恣意的な感想に過ぎず、原作者や出版社とは関係ありません。

 花房観音先生は、兵庫県生まれで、京都女子大学文学部在籍後、バスガイド等様々な職業を経て、2010年「花祀り」で第1回団鬼六賞大賞を受賞し、小説家としてデビューされました。京都を舞台とした官能小説やホラー小説を得意とされています。

 

 今回ご紹介する、『偽りの森』は、前回ご紹介した谷崎潤一郎の『細雪』をモチーフに、現代の京都下鴨を舞台に書いた作品です。

 

 京都の旧家雪岡家は、老舗料亭「賀茂の家」を営んでいましたが、経営が傾き店を売却します。残された下鴨の邸宅に四姉妹は住み続けますが、一見裕福で幸せそうな家族は、それぞれが表の顔とは裏腹な秘密を持ち、お互いに愛と憎を同居させた感情を抱えています。一番頼りになるべき存在の家族が、時には一番の敵になることを、いけず文化のメッカである京都の旧家という最も相応しい舞台設定で、見事に抉り出されています。

 

 『細雪』の四姉妹と同様に、雪岡家の四姉妹も、前回もご紹介した「平安神宮神苑」の八重紅枝垂桜を見ることを、毎年恒例の行事にしています。冒頭とラストに平安神宮が登場します。華やかな四姉妹の表の顔です。一方の作品の題名のもととなった、このブログでも何度かご紹介している下鴨「糺の森」の暗闇が対照的に描かれています。四姉妹の裏の顔です。

 

 

 糺の森の南東に、老舗料亭「下鴨茶寮」があります。花房先生は、幻冬舎公式ウェブマガジンのインタビューの中で、「担当さんから「『細雪』を京都を舞台で書きませんか」と声をかけていただいて、谷崎→下鴨とつながりました。同じ頃、有名料亭の下鴨茶寮が後継者がいなくて、小山薫堂さんが社長になられたというニュースを見て、老舗料亭が、そうして経営者を代えて残っていくんだな、それが京都だと感心もしました。そこから谷崎『細雪』の四人姉妹→下鴨→料亭という形が出来上がりました。」と述べられています。

 

 小山社長は、『カノッサの屈辱』や『料理の鉄人』といった人気TV番組や、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督の『おくりびと』 の脚本を手掛けられた方で、現在京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)副学長でもあります。最先端の文化人が、京都の老舗料亭の伝統を守っていくというのも、古いだけではない京都のユニークな点ではないかと思います。