早いもので,今年も残すところあと半月となりました。
このブログを始めてはや1年になりますが,日々の業務に追われて更新がすっかり滞ってしまっており,お恥ずかしい限りです。
来年こそは,頻繁に…とは言わないまでも,読んで下さる方々に忘れられてしまわない程度のペースで,更新していきたいと考えています。
さて,久々の更新,今回は少し硬派(?)なテーマでお届けします。
現在,会社更生手続中の大手消費者金融会社「武富士」(現商号:TFK株式会社。以下ではわかりやすくするため,「武富士」とします。)の会社更生管財人を務めている,小畑英一弁護士についてです。
小畑英一弁護士については,「武富士の会社更生手続の申立代理人であった以上,利益相反の問題を生じ,公正な職務執行を期待できないのではないか。」との意見が,少なくとも弁護士の一部からは出されていました。
正直,小畑英一弁護士の職務執行が公正か不公正かなどということは,部外者である私には判らないので,軽々しく「小畑英一弁護士の職務執行は不公正である。」と断じることはできません。
ただ,小畑英一弁護士の武富士創業者一家らに対する訴訟(東京地方裁判所平成23年(ワ)第32498号配当金返還請求事件及びその控訴審)の顛末を見ていると,「実際に不公正かどうかは知らないが,少なくとも,『不公正である。』との疑念を払拭するために,小畑英一弁護士がもうちょっと説明した方がいいだろうなぁ。」と思うところがあります。
というのも,この訴訟,小畑英一弁護士は約129億4000万円を請求したところ,控訴審で「武富士創業者一家らの一部が小畑英一弁護士に連帯して解決金17億5000万円を支払う。」との和解が成立し,平たく言えば「武富士創業者一家らがほぼ逃げ切り。」という結論でした。
そして,控訴審でこのような和解が成立した理由については.小畑英一弁護士が平成25年9月11日に発表した「訴訟の進捗に関するお知らせ」
には「控訴人の請求を棄却した配当金請求権事件に係る原判決の判示内容を尊重し,更生債権者に対する弁済原資の確保の観点を踏まえ,」と記載されており,平たく言えば「第1審で小畑英一弁護士が敗訴して武富士創業者一家らが勝訴したんだから仕方ないよね。」とされています。
そこで,「第1審では,小畑英一弁護士は何を主張立証したのだろう?」と思って第
1
審判決
を見てみると,小畑英一弁護士の主張は「更生会社が顧客から収受してきた制限超過利息は,みなし弁済規定の適用がなく,実体法上無効であったのであり,かつ,少なくとも,平成18年最高裁判決以降は,更生会社と顧客との間の過去の取引について,みなし弁済が成立する余地が事実上存在しないことが明らかになり,かつ,更生会社において,そのことを認識しうる情報が十分に存在したのであるから,平成18年最高裁判決以降の分配可能額の計算に当たっては,『一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行』(会社法431条)に従い,制限超過利息の元本充当によって貸金債権の消滅を認識するとともに,貸金債権が消滅した後の返済額に相当する不当利得返還債務を内容とする負債の計上を行うことが当然に求められていた。それにもかかわらず,更生会社は,平成19年3月期においても,制限超過利息が有効であることを前提として,これを収益計上した会計処理を行っており,このような会計処理は,違法である。」などとされており,結局,「期限の利益喪失約款による任意性欠缺を問題としているのか,18条書面の契約年月日不記載を問題としているのか,よくわからない。」となります。
ただ,第
1
審判決
の「第4 争点に対する判断」を見てみると,「平成18年最高裁判決は,一律に,みなし弁済規定の適用を否定したものではなく,債務者において約定の元本と共に制限利率を超える約定利息を支払わない限り期限の利益を喪失するとの誤解が生じなかったといえるような特段の事情が認められる場合に,みなし弁済規定が適用される余地を残していることが明らかである。そして,上記最高裁判決における『特段の事情』が,当該取引において借主に誤解が生じなかったか否かという個別性の強い事情であることからすると,過去に行われた更生会社と顧客との取引についてみなし弁済規定の適用があるか否かは,個別の取引における具体的な事情に基づいて判断されるべきものであって,具体的な事情を捨象して,これを一律に判断することはできないというべきである。…そうすると,原告が主張するように,平成18年最高裁判決以降の更生会社における会計処理として,過去の取引全部につき,一律に,みなし弁済規定が適用されず,制限超過利息の支払が無効な弁済であることを前提として,制限超過利息の元本充当による貸金債権の消滅を認識するとともに,元本消滅後の返済額に相当する不当利得返還債務を内容とする負債の計上を行うことが当然に求められていたということはできない。」と判示されており,この判示は「18条書面の契約年月日不記載」には該当せず「期限の利益喪失約款による任意性欠缺」のみ該当するので,恐らく,小畑英一弁護士は,第1審では,「期限の利益喪失約款による任意性欠缺」のみを主張立証し,「18条書面の契約年月日不記載」を主張立証しなかったのでしょう。
ところが,武富士は,少なくとも平成18年最高裁判決までは,当時の貸金業法施行規則15条2項に基づいて,18条書面として交付した書面に,契約年月日の記載に代えて契約番号を記載していました(これは,武富士が,とある事件の準備書面
で自ら認めていますし,武富士の依頼を受けた弁護士が武富士に提出した報告書もかかる事実を前提としているものと解釈できます。)。
そして,最
2判平成18年1月13日(平成16年(受)第1518号・最高裁判所民事判例集60巻1号1
頁)
及び最
2判平成18年3月17日(最高裁判所平成17年(テ)第21号・裁判所時報1408号164
頁)
は,「上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。この規定のうち,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。」などと判示します。
とりわけ,最
2判平成18年3月17日(最高裁判所平成17年(テ)第21号・裁判所時報1408号164
頁)
は,「上記内閣府令に該当する施行規則15条2項の規定のうち,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである(最高裁平成16年(受)第1518号第二小法廷同18年1月13日判決・民集60巻1号登載予定参照)。そうすると,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書の交付をもって,18条書面の交付がされたものとみることはできない。」と判示するので,「特段の事情」など問題にすることなく一律に18条書面該当性を否定する趣旨であることが明らかです。
そうすると,武富士による弁済の受領は,18条書面の契約年月日不記載により,「特段の事情」など問題にする余地なく,一律に,みなし弁済成立の余地がなかったはずです。
このように見ると,「小畑英一弁護士としては,『期限の利益喪失約款による任意性欠缺』よりも『18条書面の契約年月日不記載』を主張立証すべきだったのではないか。そうすれば,第1審判決は,その結論が変わるかどうかは不明であるとしても,少なくとも『みなし弁済成立の余地は一律に存在しなかった。』との前提で判決を書いてもらえたのではないか。」との疑問を,私は抱いてしまうのです。
もっとも,訴訟というものは裁判所の心証が分からないまま手探りで進めていくことが少なくなく,判決になって初めて「裁判所はそう考えていたのか!」と判ることも多々ありますし,そもそも,小畑英一弁護士が単純に「武富士は,少なくとも平成18年最高裁判決までは,当時の貸金業法施行規則15条2項に基づいて,18条書面として交付した書面に,契約年月日の記載に代えて契約番号を記載していた。」との事実を知らなかっただけなのかもしれないので,この一事をもって「小畑英一弁護士の職務執行が不公正である!」と叫ぶつもりはありません。
ただ,武富士の会社更生手続の社会的影響(過払債権者の数,過払債権の額など)の大きさに鑑みれば,弁護士,過払債権者などの一部の間に「小畑英一弁護士の職務執行が不公正である。」との疑いを燻らせたまま手続が進んでいくことは会社更生手続に対する国民の信頼の保護という観点から由々しき事態だと思いますし,そのような疑いを払拭するためにも,小畑英一弁護士から,「18条書面の契約年月日不記載」の問題を主張立証したのか,仮にこれを主張立証しなかったとしたらどうしてそのような判断に至ったのかなど,説明していただくのが望ましいだろうと思います。