切り札を奪われた男 | 石田久二公式ブログ

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学生時代こんなことがありました。私は大学相互のあるサークルのような集まりに所属しており、そのサークルのリーダー的存在に別大学のAって男がいました。


ある日、サークルでイベントを開くことになったのですが、なぜかそのイベント当日、Aは参加できないと言うのです。今まで一番頑張ってきたはずのAが。理由を聞いてみると、その日は習い事の稽古があるんだそうです。


その稽古がどの程度大切なのかは知りません。だけど、稽古自体は何も特別なことではなく、週に何度かは通っていたもの。大会が近いわけでもないし、別段、休んだところでどうってことないようには思いました。


ですが、私に対して、その稽古を休めない理由をしつこく何度も言ってくるのです。最初のうちは、「オマエがおらな始まらへんやろ!」と言って、引き留めようとしたのですが、何度もしつこく参加できないと言うので、そのうち飽きてきて「わかった」と返事しました。


そのイベント当日、言っていた通り、Aは来ませんでした。だけど、、、そのイベント自体は大成功でした。その後、当然、打ち上げをします。その時、ふとAがやってきました。一応、打ち上げ会場だけは教えていたのです。最初は来ないと言ってたのですが、突然、現れました。


一応、Aに向かって「おお~!」と言って挨拶はするのですが、すぐにイベントの話で盛り上がります。必然的にAは取り残されます。私はちょっと遠くの大学だったので、最初からメンバーの家に泊めてもらうことになっていました。Aはすぐ近くに住んでいるにもかかわらず、ついてきました。


少人数になって飲み直しなんですが、Aが口を開きました。「オレがいなくてもできたみたいね」、と。私は言いました。「Aがおらんでもなんとかなった」、と。


そこでAがいきなりぶち切れ。と言っても、静かに、しかも悲しげにぶち切れ。


「そんな言い方せんでもいいやん」


つまり、Aはイベントの数日前から、壮大な計画を進行していたのです。イベントに参加しないことを告げることで、「オマエがおらな始まらへんやろ!」と何度も言ってもらう。だけど、意外と私が早くに引き上げたので、今度は当日に「やっぱりオマエがおらんかったから大変やったぞ」と言ってもらうことに作戦変更。


だけど、最終的には大盛り上がりに取り残されるハメとなり、つまり「切り札」を奪われた形になったのです。


いったいAは何をしたかったのか。簡単です。Aは単に「自己重要感」を満たしたかったのです。人は自分が重要であることを認めさせるために、様々な企てをしようとします。それはもちろん私もそう。


ミクシィやフェイスブックの「イイネ」のボタンは、まさに「自己重要感」を満たすためのツール。フェイスブックはそれで躍進したと言われ、ミクシィも即座に導入(パクリ)。再び躍進が始まりました。


つまり人間ってのは「自己重要感」をどうにか満たすことに必死で、そのためには多少の犠牲も厭わない性質がある。Aにしても、本当であればみんなと一緒にイベントと打ち上げを楽しめばよかったはず。だけど、彼は自分で思っているほどリーダーとしての「自己重要感」を満たせてなかった。


そこで最後の手段として「イベント不参加」というカードを引いたのです。だけど、しっかりと打ち上げには参加する。そして最後の最後の望みをかけて、自分の必要性をアピールしようとするのですが、いなくても大盛り上がりで、まるで翼をもがれたように消沈してしまう。


素直じゃない。ひねくれ者。それは本人もわかってるのだろうけど、なんとかして「自己重要感」を満たしたいと思い、強硬手段にでたのだけど、それも打ち砕かれた。


でも、そこに人間としての、大切な何かを見た気がしました。