琴吹さんが、ぼくの制服をつかんでいた手をはなす。床にしゃがむのを見て、ハッとする。

「琴吹さんっ」テディベア

 流人くんも目を見張った。

 琴吹さんはナイフを拾い上げると、本棚が立ち並ぶ暗がりへ向かって、思いきり投げつけた。ナイフが棚にあたる音が響き、それが床に落ちる音がして、静かになった。

 琴吹さんがぼくの腕に顔を押しつけて、ぎゅっとしがみつく。

「……この前言ったこと、本当だよ。井上が好き……。あたしは、井上の側にいる」

 それはなんて神聖な、甘い言葉だったろう。

 心が震える。

 茶髪を掻きあげた忠利は両手を広げ、わははと楽しそうな声を立てる。
「それにしてもあの子、お前の結界を越えて来たんだよなあ。――いや信じられねえ。俺でも死ぬ覚悟がないと生身では入れないぞ」
「あの娘は白狐(びゃっこ)について入ったようだ。呪詛を受けたまま私の結界に入ってきたから気づいたのだが……しかしこの場は穢れてはいなかった。――いや、むしろ清浄化されていた。やはり『山査子の花』を持っているのは、あの娘に違いない」
「ふうん。なかなか可愛い感じの子だったよなっ。俺、髪の長い子好きだし。急に楽しみになってきた」くまのぬいぐるみ
 そう明るい声をあげながら、忠利はもう一度快活に笑った。

 

「ううん……」

 ぎこちなく首を振ったあと、「あーっ!」と叫んだ。

「大変だわ! 心葉くんのお母さんたちに、召し上がってくださいって言っちゃった!」

ぼくらは慌てて部屋を飛び出て、階段を駆け下りた。結婚式 ベア 

 リビングのドアを開けたとき、ぼくらが見たのは、食べかけのシュークリームを手に、なんとも言えない複雑な顔をしているお父さんとお母さん、それに「しょっぱいよぉ」と泣いている舞花だった。

「……」

「そんなに落ち込まないでください」

「……ごめんなさい」

「拓海の写真を見たけど、不気味なほど流人に似ているわ。親子だから当然だけど、それにしても、まるで拓海本人が墓から這い出してきたみたいにそっくりよ。テディベア

 性格も、父親から受け継いだみたいね。未成年のくせに、キャバクラや風俗のスカウトマンをしていて、だらしがなくて、いい加減で、あちこちの女の家を渡り歩いて生活していたらしいわ。女がらみの修羅場がたえなくて、なのに本人は、反省の色もなくけろっとしているなんて、あたしたちの知ってる櫻井流人そのものじゃない。父子そろって、ろくでなしね」

 流人くんを嫌っている麻貴先輩は、容赦がない。


 しばらく歩いても竹林が終わる気配はなかった。屋敷後ろに聳える山裾まで続いているのかもしれない。塀をひたすら辿らずに良かったと安堵していた、その時――
「穢れを持って入ったのは、お前か」
 落ち着きのある声。だが厳しい。全てのものを萎縮させる厳然たる声音がさつきを直撃した。あまりにも唐突なことだった。声を失ったまま、さつきの身体は凍りつく。くまのぬいぐるみ
 目前には長身の男が立っていた。つい一瞬前までは誰もいなかったはずのその場所に。音も立てず忽然と。

 お母さんは 「おやつはなににしましょう。午前中に材料を仕入れてこなくちゃ。ねぇ、お夕飯も食べて行かれるでしょう? お母さん腕を振るうから、ちゃんと天野さんを誘ってね、お兄ちゃん」と、張り切っている。

「夕飯は……無理だと思う。それにおやつも気を遣わなくていいから」

「あら? どうして?」テディベア専門店

「しょ、小食なんだ。お昼とか、紙くらいの量しか食べないし、胃が普通の人より小さいみたい」

 紙を食べて生きているのは本当だから、まるきり嘘というわけじゃない。

「まあ……それであんなに痩せてるのね」

 お母さんが残念そうにつぶやく。


 

テディベア

目を瞠った。名刺に書かれている文字には聞き覚えがある。

 さつきは学校で、一応、茶道部に所属している。「一応」というのは、この茶道部自体が帰宅部で、ほとんど活動といえる活動をしていないからだ。部長の柚木だけは元気に盛り立てようと頑張っているが、他の部員は月に一度顔を出すか出さないかくらいの低出席率だ。さつきも当然その中の一人。
 だがそんなさつきでも、この「安倍流」に関しては少しだけ耳にしたことがあった。

 忘れることができるのなら、それでいい。けど、こんなにあざやかに、目に、耳に、皮膚に、遠子先輩の記憶が残っているのに、忘れることなんてできるのか? 胸がこんなに疼いてたまらないのに。

 芥川くんが、ぼくの肩に静かに手を置く。

「そんなに辛そうな顔をするくらいなら、天野先輩に会ってきたらどうだ。井上にとって天野先輩は、大事な人だったんじゃないのか? 天野先輩は、いつも井上を気にかけていた。井上のことを大切にしていた。

「ななせは照れ屋でぶっきらぼうだけど、すごくイイコだから、ななせのことよろしくね。ななせの好きな色とか、食べ物とか、ななせの気に入りそうなデートスポットとか、ななせがうっとりしちゃうようなシチュエーションとか、なんでも開いて」

 きっと森さんは、すごく面倒見の良い人なのだ。けど、面と向かってあれこれ言われると、ひたすら恥ずかしい。

「も、森ちゃんっ! ちょっと来て!」ぬいぐるみ 通販

 琴吹さんが、森さんの腕を両手で抱え込み、教室の隅のほうへ引っ張っていく。

「わわっ、なに、ななせ」

「いいから、来てっ」


くまのぬいぐるみ