「神田明神曙之景」


『名所江戸百景』には、なぜか見る者の神経をいらつかせるような作品があります。

例えば、前回の妓楼の窓格子もそうですが、「日暮里諏訪の台」中央の二本の杉の木や、「真間の紅葉手古那の社継はし」の中央の楓の葉のように、遠景の眺望を邪魔する樹木が近景に配されているのです。

その最たるものが今回取り上げる「神田明神曙(あけぼの)之景」です。

神田明神は初日の出の名所で、この絵もそれがテーマになっていますが、朝日そのものが中央の松の木に隠されて見えないのです。

絵の中の神主や巫女さんたちの視線が、朝日が出ていると思われる同じ一点に注がれているのに、その肝心の対象物が隠されているのです