レポート4

2008年3月3日7日まで企画部全メンバーでイタリアのフィレンツェへ研修旅行に行かせて頂く事になりました。滞在で得たものをレポートさせて頂きます。
目的
ルネッサンス時代の中心地でユネスコ世界遺産に登録されているフィレンツェで芸術的な建物、絵画、雑貨等に触れ、企画に反映する
日本から飛行機で約12時間のフライトでミラノに到着し、その後トランジットし目的地フィレンツェを目指した。ミラノに到着した時には現地は夜を向かえており、フィレンツェ行きの飛行機から眺めた街並みは、まるでオレンジ色の飴玉を散りばめたようで、とても美しく芸術的だった。フィレンツェ空港に到着後、HOTELまでの道をバスで走り、歴史を感じさせる街並に日本との違いを強く感じた。それもそのはず、13世紀から16世紀にかけての繁栄の中で残された歴史的建造物が現在も変わらぬよう大切に保存され、フィレンツェ歴史地区を形作っていた。
滞在期間中スケジュール
1日目 22時にフィレンツェ空港に到着、その後ホテルへ
2日目 ウフィツィ美術館、シニョーリア広場、ヴェッキオ宮殿、
ヴェッキオ橋、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂
3日目 サンタ・マリア・ノヴェッラ教会、サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局
サン・ジョヴァンニ礼拝堂、伝統工芸店
4日目 ピッティ宮殿、伝統工芸品店

1日目
HOTELに到着したのが夜11時を過ぎていた為、特に行動はなし。
2日目
朝からSIERALEONE、WENDINEチーム合同でHOTEL から徒歩でウフィッツィ美術館に向かった。
まずは市内を流れるアルノ川の畔に立つ建物や所々にある彫刻に目を奪われた。建物の色彩がとても美しく、落ち着いたイエローやグリーン、そしてオレンジベージュ等。企画をする時のカラー展開参考として、とてもためになるモノだった。彫刻の立体的なフォルムから受ける印象は、とても重厚で歴史を感じるもので、まるで街全体が屋根のない博物館と思わせるほど。そして目的地のウフィッツィ美術館に到着すると更なる感動が待っていた。コの字型に建設された美術館は近代式の美術館としてはヨーロッパ最古と言われており、ジョルジョ・ヴァザーリの設計で1560年に着工し、1580年に完成した。もともとはフィレンチェ共和国政府の政庁舎だった。したがってウフィッツィ(オフィス)という名が付けられている。中に入ると全長500m程の廊下に面し、幾つもの部屋があった。約2500点の絵画や彫刻が展示されていたが、中でもやはりサンドロ・ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』『プリマヴェーラ』やレオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』。ミケランジェロの『聖家族』等には長い時間見入ってしまった。手にしていたガイドブックと照らし合わせ、まるで謎解きをしているような感覚だった。展示されている絵画はどれも構図や色彩が深く、世界的に評価されているのが納得できた。そして何よりもルネッサンス時代に描写された絵画達のカラーの印象を強く感じた。グロテスクに感じる絵画はブラウン、レッド、グリーンの中でも黒に近いぐらい暗いカラーを使い、描写をよりリアルに表現していた。逆に心が躍るような美しい絵画には鮮やかなカラーや淡いカラーを使っていることが多かった。これらは人が色から受ける印象を上手く考え、描写されたのだと感じることが出来た。服飾をやっていると展開する色の難しさに頭を悩ませる事があるが、それらの歴史的絵画はとても参考になった。また10m間隔で廊下天井に連なるように描かれた画は刺繍やプリントの参考になるものだった。次に訪れた、かつて政治の中心地だったシニョーリア広場では美しい彫刻に目を奪われた。ミケランジェロ制作の『ダビデ像』を初めとし『海神の噴水』、『ペルセウス像』などは今にも動き出しそうなくらい迫力があり、妥協のないモノ作りの姿勢に考えさせられた。また隣接しているヴェッキオ宮殿入口の上にある紋章やモチーフは企画に存分に生かせる作りだった。そして入口に立つ衛兵はルネッサンス時代から変わらぬ鮮やかなレッドを基調とした服を纏っており、さらに空間を演出していた。マジマジと観察していると現在の洋服に多く反映されている衣装だった。歴史の一部として残っている洋服に再度感動を覚えた。
その後シニョーリア広場を後にし、ヴェッキオ橋に向かった。2層式の回廊を持つヴェッキオ橋はフィレンツェで最も古く、美しい橋。イタリア語でポンテ・ヴェッキオと呼ばれ『古い橋』の意味。古来アルノ川の氾濫で何度も崩壊したが、1345年にネーリ・ディ・フィオラヴァンティによって石造りの強固な橋が再建されたという。もともと現在のウフィッツイ美術館とピッティ美術館を結ぶための橋だったが、現在では通路の両側に並ぶ宝石店を訪れる観光客であふれかえっていた。橋上の店一軒一軒が箱のようになっており、まるでジュエリーボックスの蓋を閉じるかのようにして閉店作業が行われる。日本ではシャッターを採用している店舗が多い中、すごく可愛く新鮮に思えた。
そして、2日目最後の目的地サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に向かった。建物の間から少しずつ見えてきた大聖堂に自分が興奮していくのが分かった。これまでに個人的に好きで沢山の近代的な建築や歴史的建造物を見てきたがこれほど感動したことは無かった。特に白大理石を基調とした外装は圧巻だった。ペールグリーンとピンクとのバランスも素晴らしく、この色しか無いと感じる程だった。また、細部にわたって施された彫刻にも妥協が一切無く、奇麗なモチーフや構図が美しく幻想的な佇まいだった。ゴシック建築を代表するこの建物はドゥオーモ(大聖堂)、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、ジョットの鐘楼の三つの建築物で構成されている。石積み建築のドームとしては現在でも世界最大であり、建物の主軸はほぼ東西に通り、西に八角形の洗礼堂、東にラテン十字の平面をもつ大聖堂がならび、両者の正面玄関が正対する。大聖堂は東に至聖所、西に正面玄関をもつ(キリスト教において東はイエス・キリストを象徴する方角であり、教会の祭壇は東に正対しておかれるのが基本形であった)。約140年かけ建設された建造物を前にし、作り手の職人やデザイナー、アーティストの神髄が見られた気がする。また建物の配色、彫刻モチーフ等を今後の企画に反映していきたいと思う。

3日目
HOTELから徒歩で10分程度の距離にあるドメニコ派修道院の教会サンタ・マリア・ノヴェッラに向かった。ここは緑と白の大理石を使ったフィレンツェのロマネスク様式の建築に特有な配色とゴシック様式が採用されている。ここには2つの時代の移り変わりの調和が伺えた。中に入るとすぐに広々とした空間と美しいステンドガラスを目にする事が出来た。中央の天井の高さと左右の天井の高さの差があまりないため、空間に一体感を作り出していた。そして、柱と柱の間隔が奥に行くにつれ狭くなっているため、奥行きが実際よりもより遠く感じる効果が生じていた。中には小さな礼拝堂が幾つもあり、壁から天井にかけフレスコ画や彫刻で彩られていた。また、教会内にあるマザッチョ作の絵画『三位一体』の奥行き感には技法の巧みさに驚いた。次に隣接されている現存する世界最古の薬局に行った。もともと修道僧たちが薬草を栽培して薬剤を調合していたのが始まりだという。店内は独特のポプリの芳香により、ドラマチックに演出されており、フレスコ画や家具、昔の薬局用機材等が商品と伴に並んでいる。また壁には歴代の主の肖像画が並んでいるのも印象的だった。販売されている商品は大切に扱われておりパッケージからも歴史を感じる事が出来た。中でも石鹸は、19世紀の機械を未だに使用し手作りされ、風通しのよい棚に60日間置かれた後、一つ一つ手でラッピングされるという。昔から変わらないモノ作りの姿勢と販売方法。なにより最善のサービスと完備した製品を今もなお全世界に送り続けているのに驚いた。愛され続ける理由というのも分かった気がする。会社やブランドの繁栄として多いに参考となった。
そして、薬局を後にして向かったのはロマネスク建築を代表する建物で神の持つ完全性を表現しようとしたサン・ジョヴァンニ礼拝堂。キリストが死から8日後の夜明けに復活し、民衆が救われたということから8角形の建造物だった。外壁は緑と白の大理石が象嵌細工で使用され、幾何学模様をよりはっきり表現し形を浮きあがらせていた。内部に入ると天井一面に描かれたモザイク画に目を奪われた。後日知った話だが、モザイク画はキリストの栄光と旧約、新約聖書の有名な場面で構成されている。そして、天井近くに均等に並んだ窓には大理石を組み合わせた幾何学模様で飾られていた。窓から入る光にモザイク画が照らされて、荘厳な眺めだった。また、ロレンツォ・ギベルティによる東側の扉『天国への門』は特に印象深かった。旧約聖書を題材とした一つの物語が10枚の彫刻によって表現されており、扉を開けると本当に異次元が待っているかのような完成度だった。その後は、市内至る所に点在する伝統工芸店を巡った。フィレンツェでは有名なマーブル紙が置いてあるショップやシーリングワックスショップ、老舗の薬局や書店等。その中で共通に感じたのはパッケージデザインの美しさ。あまり目にした事がないので新鮮に感じたのも事実だが、芸術性に富んだ商品が多かった。パッケージに描かれている柄やロゴ等も本当に参考となった。
4日目
最終日はフィレンツェの発展、そしてルネッサンスの文化を育てる上で大きな役割を果たした「メディチ家」が住んでいたピッティ宮殿に向かった。「メディチ家」とはルネッサンス時代のフィレンツェで実質的な支配者として君臨し、後にトスカーナ大公国の君主となった一族で、その財力でボッティチェッリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなどの多数の芸術家を支援した。2日目に行ったヴェッキオ橋を通じ、ウフィッツィ美術館とピッティ宮殿を回廊で結んだのも彼らの働きによるものだった。宮殿に行ってみると高い城壁に囲まれ閉鎖的な印象を受けた。中に入る事は叶わなかったが、次回訪れるチャンスがあった場合、是非足を運んでみたい場所だった。
その後、フィレンツェにあるプロダクトを記憶に残し、ブランド作りに反映させたいという理由から街中の雑貨屋、伝統工芸品店、書店、市場、薬局、洋服店等をじっくりと時間をかけ徒歩でリサーチしてまわった。結果として、今後の企画に生かせる物達に出会うことも出来、フィレンツェの市場観察も同時に行えた。日本と比較すると無駄なモノがなく必要なモノだけが残っている印象だった。それらはどれもクオリティーが高く観光客だけではなく、地域の人達を満足させている掛け替えのないモノなのだと思った。特に商品パッケージのフォント、柄、構図が素晴らしいと感じることが多かった。商品を包む包装紙にも感激した。どれも記憶に訴えかけるような仕組みが施されていた。これらは企画をする上で、参考になり多いに役立つ知識となった。
総評
今回、イタリアのフィレンツェに研修旅行として行かせて頂いた。ルネッサンス時代の偉人達が築きあげた多彩な魅力に触れる事が出来、大変収穫のある旅となった。直径2.5kmほどの街がまるで屋根のない博物館かと思うほど、歴史的建造物や芸術作品が溢れていた。500年以上の月日をかけ築き続けた街、そして絵画や彫刻。それらがしっかりと現在の職人達に受け継がれており、技術は今も変わらず息づいていた。また、伝統品に今の感覚を取り入れ、進化を繰り返しているのも見事だった。日本ではモノのカタチやビジュアルに対して、美しさや見た目を評価することも重要だが、その役目は主ではなくなって来ている気がする。むしろ、企業や組織が新たな価値を生み出す為に、いかにデザインを活用しているかがポイントになる。日本にある「グッドデザイン賞」の場合、その一つの表現として「新領域デザイン」というジャンルで、イノベーションや環境への取り組み、社会イベントに対して、カタチはなくとも「デザイン賞」を与えるという試みを行っている。ここでは技術ではなく、社会や文化的な視点が重要になっている。フィレンツェに行った事で500年もの時間をかけ、それらがしっかりと作り上げられている気がした。そして、街を歩くと日本とは違う色彩や柄、細部にわたる建造物や彫刻のディティールに出会い、企画をする上で十分に参考になった。また、街に点在する無数のショップで記憶に訴えかけてくるような仕組みや手法に驚かされ、多いに私自身刺激を受けた。創作していく上で、昔から私の心にある「単に色が美しいのではなく、普段なら手の届かないものに、手が届くようにすることがよいデザインの条件」ということを再度認識した。ブランド作りをしていく上で創造性を多いに奮い立たせ、ロングセラーとして生き続けられる仕組みをしっかりと研究していこうと思う。常に自分の柔軟なフィルターを通し、時代に応じた半歩先のデザイン提供できるよう考えていこう。そして愛され続ける理由と仕組みを研究し続けようと心に決めた。
今回はこのような貴重な経験をさせて頂き、誠にありがとうございました。
