暮れのせいか、なんだか乳腺科の前の待合はものすごく混んでいた。

 

検査室で血液を採取してからゆっくりと乳腺科に向かい、呼ばれたのはゆうに2時間以上待ったあと。

 

「よろしくお願いいたします」と言ったわたしは、先ほどの検査結果のことしか考えていなかった。

「いかがでしたか? 大丈夫ですか?」

頭の中にはフェソロデックスとイブランスのことしか、ない。

 

主治医がちょっと間をおいて話し始める。

「PETのこと、忘れてるでしょ?」

 

あ、そうか。

検査、受けたんだっけ。

昨年のPET検査の画像の、首のところに黒い丸いものがいくつか散っているのを思い浮かべていた。

 

主治医が、よく見えるようにモニターをこちらに向けてくれた。

「よくなったところと、悪くなったところがあるのよ」

 

あれ?

この人がこういう女性っぽい言葉遣いをするときは要注意なんだけど。

 

モニターに映っている画像の首のあたりは、いくつもの黒い筋が浮かんでいた。

丸がいくつか、じゃない。

線が何本も何本も、黒くつながっている。

今までは写ることもなかったリンパに転移したという、明らかな証拠だ。

 

「増えちゃったね」

 

しばらく、息ができず、言葉が出なかった。

 

 

 

 

結局、フェソロデックスとイブランスの組み合わせは効果がなかったということで、7クールで中止。

次はTS-1という経口の抗がん剤を使うことになった。

 

今日から始めると暮れにかかってしまい、、病院がお休みに入ってしまうので、新しいお薬は新年からだそうだ。

 

 

 

 

1年以上も問題なく使っていらっしゃる人もいるのに、なんでわたしには効果がなかったのだろうと悔しい気持ちもある。

泣くつもりはないのに、知らないうちに涙が次から次へと溢れてきた。

 

「申し訳ありません。おばさんが泣いて、みっともないですよねー」

そう言うと主治医は、

「ぜーんぜん。気にしないで。でも大丈夫? そっちの方が心配だよ」と気遣ってくれた。

 

照れ笑いをしながら、それでもやっぱり涙が出て。

 

診察室を辞したあとも、そのまますぐに会計をしたり調剤薬局に行くのが無理そうだったので、病院のロビーでしばらく休んで心を整えてから動き始めた。

 

前を見なくちゃ。

歩き出さなくちゃ。

 

いち、に。

いち、に。

 

頭を空っぽにして、歩くことだけに集中した。

 

「なんで?」と考えだしたら、また、涙があふれてしまいそうだったから。

 

 

 

 

再発したとわかった3年前も、一度消えたがんが再び頸部リンパに顔を出した時も涙なんか出なかったのに、どうして今日はあんなに泣けてしまったのだろう?

 

予想もしていなくて、不意打ちだったからかな?

 

とにかく、これからは前へ。前へ。