5.2.11 クローン病および潰瘍性大腸炎(炎症性腸疾患)
5.2.11 クローン病および潰瘍性大腸炎(炎症性腸疾患)
クローン病および潰瘍性大腸炎は下部消化管における自己免疫由来の慢性炎症疾患である。潰瘍性大腸炎が結腸および小腸下部を優先的に冒すのに対して、クローン病は消化管のあらゆる部位を冒す。どちらも組織潰瘍、出血、筋けいれん、下痢、体重減少、そして可能性としては手術を要する腸閉塞等に付随する(1)。最近の疫学研究(2)では英国患者に対する胃腸障害の苦痛についての調査が行われており、これらの疾患がともに広まっていることがわかっている。1970年生まれの者が30歳までに潰瘍性大腸炎を罹患する率は30/10,000である。また、30歳までのクローン病羅漢率は38/10,000である。クローン病と潰瘍性大腸炎はどちらも、うつ、不安、身体化、そして生活の質の低下を含む多くの精神医学的合併症と付随している(3)。
胃腸の病気に大麻が使用されてきた長い歴史について評価が行われている(4)。げっ歯類では、THCが木炭をまぜた餌の消化管内通過を遅延させることが1970年代の多くの研究によって示されている。カンナビジオール(CBD)は、単独ではほとんど効果がないが、THCの効果を補強する作用がある(5)。胃腸管に対するカンナビノイドの効果に関する最も総論的な評価としてはRoger Pertweeのものがある(6)。主な点をまとめると以下の通りである:
哺乳類の腸管神経系はCB1を発現させ、刺激作用が特に収縮性神経伝達物質の放出を阻害することによって胃腸運動を抑制する。
観察されている効果には、胃排出遅延、消化酸の産生低下、腸管運動の遅延、刺激によるアセチルコリン放出の抑制、輪状あるいは縦走の平滑筋の非アドレナリン性非コリン性(NANC)収縮が含まれる。
これらの効果は脳レベルだけでなく胃腸管でも媒介される。
これらの効果はCB1拮抗薬(SR141716A等)によって対抗される。
Holdcroftらは、プラセボ対照二重盲検比較試験によって、家族性地中海熱の患者が一日あたり50 mgのTHCを5回に分けて服用した場合の鎮痛(痛みの軽減)作用(p<0.001)を証明した。通常、この種の痛みを麻薬やその他の鎮痛薬を使って制御するのは非常に困難である。加えて、ラットでは、アナンダミドおよびその他のカンナビノイドアゴニストは、嘔吐および疼痛反応を媒介するセロトニン3型(5-HT3)受容体を抑制する。
最も賞賛に値する最新のデータはKaren Wright (9)によるものである。彼女のグループでは、正常な結腸組織の標本と炎症性腸疾患患者の間で、CB1およびCB2の発現に関する比較を行った。正常な標本では、CB1は結腸上皮、平滑筋、粘膜下筋層間神経叢に出現した。CB2は形質細胞および固有層のマクロファージに出現している。一方、病態では、著しい免疫蛍光が実証された。
大麻抽出物は複数の作用機構を持つことから、炎症性疾患の治療に比類なき適性を有するものと考えられる。外見的には、THCが痛み、攣縮、下痢を軽減するのに対して、CBD成分は免疫調節に役立つ可能性がある。最近証明されたCBDの効果としては、TNF-α(腫瘍壊死因子α)の抑制作用があり(10)、これは炎症性腸疾患の治療に用いられる他の薬で立証されている機構である。
参考文献
1. Knutson D, Greenberg G, Cronau H. Management of Crohn's disease--a practical approach. Am Fam Physician 2003;68(4):707-14.
2. Ehlin AG, Montgomery SM, Ekbom A, Pounder RE, Wakefield AJ. Prevalence of gastrointestinal diseases in two British national birth cohorts. Gut 2003;52(8):1117-21.
3. Guthrie E, Jackson J, Shaffer J, Thompson D, Tomenson B, Creed F. Psychological disorder and severity of inflammatory bowel disease predict health-related quality of life in ulcerative colitis and Crohn's disease. Am J Gastroenterol 2002;97(8):1994-9.
4. Russo EB. Role of cannabis and cannabinoids in pain management. In: Weiner RS, editor. Pain management: A practical guide for clinicians. 6th ed. Boca Raton, FL: CRC Press; 2002. p. 357-375. http://www.montananorml.org/docs/Russo-AAPM_chapter.pdf
5. Anderson PF, Jackson DM, Chesher GB. Interaction of delta-9-tetrahydrocannabinol and cannabidiol on intestinal motility in mice. J Pharm Pharmacol 1974;26(2):136-7.
6. Pertwee RG. Cannabinoids and the gastrointestinal tract. Gut 2001;48(6):859-67.
7. Holdcroft A, Smith M, Jacklin A, Hodgson H, Smith B, Newton M, et al. Pain relief with oral cannabinoids in familial Mediterranean fever. Anaesthesia 1997;52(5):483-6.
8. Fan P. Cannabinoid agonists inhibit the activation of 5-HT3 receptors in rat nodose ganglion. Journal of Neurophysiology 1995;73:907-910.
9. Wright K, Rooney N, Tate J, Feeney M, Robertson D, Welham M, et al. Functional cannabinoid receptor expression in human colonic epithelium. In: 2003 Symposium on the Cannabinoids; 2003; Cornwall, ON, Canada: International Cannabinoid Research Society; 2003. p. 25.
10. Malfait AM, Gallily R, Sumariwalla PF, Malik AS, Andreakos E, Mechoulam R, et al. The nonpsychoactive cannabis constituent cannabidiol is an oral anti-arthritic therapeutic in murine collagen-induced arthritis. Proc Natl Acad Sci U S A 2000;97(17):9561-6.
クローン病および潰瘍性大腸炎は下部消化管における自己免疫由来の慢性炎症疾患である。潰瘍性大腸炎が結腸および小腸下部を優先的に冒すのに対して、クローン病は消化管のあらゆる部位を冒す。どちらも組織潰瘍、出血、筋けいれん、下痢、体重減少、そして可能性としては手術を要する腸閉塞等に付随する(1)。最近の疫学研究(2)では英国患者に対する胃腸障害の苦痛についての調査が行われており、これらの疾患がともに広まっていることがわかっている。1970年生まれの者が30歳までに潰瘍性大腸炎を罹患する率は30/10,000である。また、30歳までのクローン病羅漢率は38/10,000である。クローン病と潰瘍性大腸炎はどちらも、うつ、不安、身体化、そして生活の質の低下を含む多くの精神医学的合併症と付随している(3)。
胃腸の病気に大麻が使用されてきた長い歴史について評価が行われている(4)。げっ歯類では、THCが木炭をまぜた餌の消化管内通過を遅延させることが1970年代の多くの研究によって示されている。カンナビジオール(CBD)は、単独ではほとんど効果がないが、THCの効果を補強する作用がある(5)。胃腸管に対するカンナビノイドの効果に関する最も総論的な評価としてはRoger Pertweeのものがある(6)。主な点をまとめると以下の通りである:
哺乳類の腸管神経系はCB1を発現させ、刺激作用が特に収縮性神経伝達物質の放出を阻害することによって胃腸運動を抑制する。
観察されている効果には、胃排出遅延、消化酸の産生低下、腸管運動の遅延、刺激によるアセチルコリン放出の抑制、輪状あるいは縦走の平滑筋の非アドレナリン性非コリン性(NANC)収縮が含まれる。
これらの効果は脳レベルだけでなく胃腸管でも媒介される。
これらの効果はCB1拮抗薬(SR141716A等)によって対抗される。
Holdcroftらは、プラセボ対照二重盲検比較試験によって、家族性地中海熱の患者が一日あたり50 mgのTHCを5回に分けて服用した場合の鎮痛(痛みの軽減)作用(p<0.001)を証明した。通常、この種の痛みを麻薬やその他の鎮痛薬を使って制御するのは非常に困難である。加えて、ラットでは、アナンダミドおよびその他のカンナビノイドアゴニストは、嘔吐および疼痛反応を媒介するセロトニン3型(5-HT3)受容体を抑制する。
最も賞賛に値する最新のデータはKaren Wright (9)によるものである。彼女のグループでは、正常な結腸組織の標本と炎症性腸疾患患者の間で、CB1およびCB2の発現に関する比較を行った。正常な標本では、CB1は結腸上皮、平滑筋、粘膜下筋層間神経叢に出現した。CB2は形質細胞および固有層のマクロファージに出現している。一方、病態では、著しい免疫蛍光が実証された。
大麻抽出物は複数の作用機構を持つことから、炎症性疾患の治療に比類なき適性を有するものと考えられる。外見的には、THCが痛み、攣縮、下痢を軽減するのに対して、CBD成分は免疫調節に役立つ可能性がある。最近証明されたCBDの効果としては、TNF-α(腫瘍壊死因子α)の抑制作用があり(10)、これは炎症性腸疾患の治療に用いられる他の薬で立証されている機構である。
参考文献
1. Knutson D, Greenberg G, Cronau H. Management of Crohn's disease--a practical approach. Am Fam Physician 2003;68(4):707-14.
2. Ehlin AG, Montgomery SM, Ekbom A, Pounder RE, Wakefield AJ. Prevalence of gastrointestinal diseases in two British national birth cohorts. Gut 2003;52(8):1117-21.
3. Guthrie E, Jackson J, Shaffer J, Thompson D, Tomenson B, Creed F. Psychological disorder and severity of inflammatory bowel disease predict health-related quality of life in ulcerative colitis and Crohn's disease. Am J Gastroenterol 2002;97(8):1994-9.
4. Russo EB. Role of cannabis and cannabinoids in pain management. In: Weiner RS, editor. Pain management: A practical guide for clinicians. 6th ed. Boca Raton, FL: CRC Press; 2002. p. 357-375. http://www.montananorml.org/docs/Russo-AAPM_chapter.pdf
5. Anderson PF, Jackson DM, Chesher GB. Interaction of delta-9-tetrahydrocannabinol and cannabidiol on intestinal motility in mice. J Pharm Pharmacol 1974;26(2):136-7.
6. Pertwee RG. Cannabinoids and the gastrointestinal tract. Gut 2001;48(6):859-67.
7. Holdcroft A, Smith M, Jacklin A, Hodgson H, Smith B, Newton M, et al. Pain relief with oral cannabinoids in familial Mediterranean fever. Anaesthesia 1997;52(5):483-6.
8. Fan P. Cannabinoid agonists inhibit the activation of 5-HT3 receptors in rat nodose ganglion. Journal of Neurophysiology 1995;73:907-910.
9. Wright K, Rooney N, Tate J, Feeney M, Robertson D, Welham M, et al. Functional cannabinoid receptor expression in human colonic epithelium. In: 2003 Symposium on the Cannabinoids; 2003; Cornwall, ON, Canada: International Cannabinoid Research Society; 2003. p. 25.
10. Malfait AM, Gallily R, Sumariwalla PF, Malik AS, Andreakos E, Mechoulam R, et al. The nonpsychoactive cannabis constituent cannabidiol is an oral anti-arthritic therapeutic in murine collagen-induced arthritis. Proc Natl Acad Sci U S A 2000;97(17):9561-6.