カンナビノイドの消化器薬理:改訂
カンナビノイドの消化器薬理:改訂
Angela A Coutts1およびAngelo A Izzo2*
消化器薬理分野におけるカンナビノイドに関する最近の研究は、腸内の内在性カンナビノイドおよび内在性バニロイド機構ならびにそれらの病態生理学的調整に焦点をおいている。腸内コリン作動性神経および血管作用性小腸ペプチドを含む粘膜下神経節細胞、(嘔吐に関わる)迷走神経背側核の個々の神経核、および中枢・末梢神経系の迷走神経末端においてCB1受容体の免疫反応性が確認されており、それによって胃食道逆流症および消化管運動が制御されている。動物モデルでは、内在性カンナビノイドによるCB1受容体活性化は流動分泌の誘発と炎症を抑制し、培養結腸直腸がん細胞の増殖を減少させた。また、特定の炎症症状において、内在性カンナビノイドはカンナビノイドCB2およびバニロイドVR1受容体を活性化する。このように、内在性カンナビノイドの代謝作用は多くの消化器疾患に有用な治療標的となり得る。
所在
1 School of Medical Sciences, College of Life Sciences and Medicine, University of Aberdeen, Institute of Medical Sciences, Foresterhill, Aberdeen AB25 2ZD, Scotland
2 Department of Experimental Pharmacology, University of Naples Federico II, via D Montesano 49, 80131 Naples, Italy
* e-mail: aaizzo@unina.it
Current Opinion in Pharmacology 2004, 4:572–579
本概説はMichael ParsonsおよびBrendan Whittle編集による消化器薬理の特集号に掲載されたものです。
2004年10月3日オンライン化
1471-4892/$ – see front matter
# 2004 Elsevier Ltd. All rights reserved.
DOI 10.1016/j.coph.2004.05.007
略語
2-AG 2-アラキドノイルグリセロール
CB1IR CB1受容体免疫反応性
DMNX 迷走神経背側運動核
EFS 電場刺激
FAAH 脂肪酸アミドヒドロラーゼ
NANC 非アドレナリン性非コリン性
VR1 バニロイド受容体
Δ9-THC Δ9-テトラヒドロカンナビノール
序論
数世紀にわたって、さまざまな製剤がインド大麻草(Cannabis sativa)から作られ、消化管を含む広範囲におよぶ疾患を治療するための医薬品として用いられてきた。大麻(マリファナ)の有効成分および合成カンナビノイドは、薬理学的に少なくとも二種類のカンナビノイド受容体(どちらもGタンパク質共役受容体)を介して作用する。CB1受容体が主に神経伝達物質を放出する中枢・末梢神経系ニューロンに存在するのに対して、CB2受容体は免疫機能に付随する[1-4]。これらの受容体に対応する内因性リガンド(アナンダミドおよび2-アラキドノイルグリセロール[2-AG])の発見は、内在性カンナビノイド系の機能が存在することを示している。
アナンダミドおよび2-AGの他にもさらに多くの内在性カンナビノイド(ノラジンエーテル、ビロダミン、N-アラキドノイルドーパミン)が単離されているが、マウスの排便率を下げることがわかっているノラジンエーテル[3]を除き、消化管におけるこれらの役割については研究が行われていない。CB1およびCB2受容体結合部位に対するカンナビノイドの相対的親和性を特定するために、放射性リガンド結合実験が用いられている[2]。最も一般的に用いられているカンナビノイドおよび内在性カンナビノイドのKi値は表1の通りである。カンナビノイド拮抗薬も同様にCB1およびCB2受容体結合部位に対する選択性を示しており(表1)、カンナビノイド受容体介在性の外来性アゴニストに対する機能的反応の確認と単独で使用した際の内在性カンナビノイド緊張の進行の有無の確認の両方に広く用いられている。アナンダミドおよび2-AGの作用は、担体取り込み処理後に、ミクロソーム内での脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)による加水分解を通じて停止する。したがって、取り込み阻害薬またはFAAH阻害薬によって、内在性カンナビノイドの作用を増強することが可能である[3]。
この記事は、当分野における最近の発見について概要を提供し、本誌で発表された初期の概説[3]を改定することを目的としている。
腸内におけるカンナビノイド受容体の所在
消化管におけるカンナビノイド受容体の存在は、解剖学的および機能的証拠によって証明されている。初期の研究では、ラットにCB1受容体が存在することがオートラジオグラフィーによって示されており、また、ブタの消化管の横断面の神経叢におけるCB1受容体の免疫反応性(CB1IR)が免疫組織化学的検査によって確認されている[5]。最近の研究[6–12,13*,14,15]では、様々な種でCB1IRとコリン作動性神経との共存が確認されており(表2)、これらは腸内のニューロンの大部分を占めている。モルモットの筋層間神経叢、感覚細胞、介在ニューロンおよび運動ニューロン細胞体、神経線維でCB1受容体が発現している[7]。また、粘膜下神経叢では、CB1IRと血管作用性小腸ペプチド(非コリン性)およびニューロペプチドY(コリン性)分泌促進性ニューロンが共存している。このような分布は、運動および分泌過程におけるSR141716A感受性CB1受容体の活性化による抑制効果を確信させるものである。生体内では、侵害刺激[12,13*,16,17,18**,19*]、食糧不足[20]、または臨床的に診断された結腸直腸がん[21**]によって、CB1受容体(またはmRNA)の発現量、FAAHの発現量・活性量、または内在性カンナビノイド量が大きく増加した(表3)。
表1
消化管内で測定された主要カンナビノイド受容体リガンドならびにCB1・CB2特異的結合部位からの[3H]CP55 940、[3H]WIN55 212、[3H]HU-243の生体外置換で得られたそれらのKi値(nM)。a
リガンド
化学的性質
CB1のKi値
CB2のKi値
非選択的カンナビノイド受容体アゴニスト
アナンダミド
エイコサノイド誘導体、内因性リガンド
543 (61–89)b
581–1940 (279–1930)b
2-AG
エイコサノイド誘導体、内因性リガンド
58–472
145–1400
HU-210
ジベンゾピレン誘導体、合成物
0.06–0.73
0.17–0.22
CP55 940
ピラン環を持たないΔ9-THC類似体、合成物
0.58–5
0.69–2.55
Δ9-THC
ジベンゾピレン誘導体、植物由来
35.3–80.3
3.9–75.3
WIN55 212-2
アミノアルキルインドール、合成物
1.89–123
0.28–16
選択的CB1受容体アゴニスト
ACEA
エイコサノイド、合成物
1.4b
>2000
ノラジンエーテル
脂質エーテル、内因性リガンド
21.2
>3000
メタアナンダミド
エイコサノイド、合成物
1.4b
815
選択的CB2受容体アゴニスト
JWH-015
アミノアルキルインドール、合成物
383
13.8
選択的CB1受容体拮抗薬
SR141716A
ジアリルピラゾ-ル、合成物
1.8–12.3
702–13200
AM281
ジアリルピラゾ-ル、合成物
12
4200
選択的CB2受容体拮抗薬
SR144528
ジアリルピラゾ-ル、合成物
437
0.60
a データはHowlett他2002年[2]からの抜粋。腸運動を抑制する一部のカンナビノイド受容体アゴニスト(アナンダミド、WIN55 212-2、カンナビノール、Δ9-THC、およびCP55,94)の効力については他にも多く示されている[22]。
b FAAH阻害薬フッ化フェニルメチルスルホニル使用。
胃液分泌
カンナビノイドにはCB1介在性の抗潰瘍作用があり、それが抗分泌作用とも関係している可能性がある。Adamiら[8]は、カンナビノイドアゴニストWIN55 212-2およびHU-210によるCB1活性化が、ペンタガストリンや2-デオキシ-D-グルコース等のコリン作動性分泌促進物質によって誘発される酸分泌を減少させることを示した。ただし、壁細胞においてH2受容体を活性化するヒスタミンが誘発するものについてはこれに該当しない。アトロピン処置はそうではないが、両側頚部迷走神経切除および神経節遮断はHU-210の抑制効果を著しく減少させる(ただし消滅はしない)。これらのデータは、胃粘膜へと通じる迷走神経遠心路におけるCB1受容体支配部位の存在を示唆している。
表2
消化管におけるカンナビノイドCB1受容体の所在
動物種・腸の領域
技法
発見
参照
ブタ;全領域
IHC
コリン作動性細胞におけるCB1の存在;P物質と共存するものはあるが、一酸化窒素作動性ニューロンあるいはVIP陽性ニューロンとは共存しない
[5]
モルモットの粘膜下層
IHC
VIPまたはNPY分泌促進性ニューロンとの共存および血管周囲組織におけるVR1との共存
[6]
モルモットおよびラットのMPLMP
IHC
コリン作動性Dogiel I 型およびII 型神経細胞および線維におけるCB1の存在
[7]
ラットの胃
IHC
筋肉および粘膜を神経支配するコリン作動性細胞におけるCB1の存在
[8]
ラットの胃・十二指腸
IHC
両組織の迷走神経求心系におけるCB1の存在;コレシストキニンとの共存
[9]
ラットの下神経節
IHC/ RT–PCR
絶食による神経節細胞におけるCB1発現増加
[9]
ラットの胃
RT–PCR
CB1およびCB2 mRNAの存在
[10]
マウス;全領域
IHC, RT–PCR
胃および結腸ニューロンでの最大発現
[11]
マウスの小腸±酢酸
IHC
筋層間のコリン作動性ニューロンならびに筋層間および粘膜下線維におけるCB1の存在;一部はP物質(筋層間)と共存
[12]
マウスの小腸±コレラ毒素
IHC, RT–PCR
コリン作動性筋層間および粘膜下ニューロンにおけるCB1の存在
[13*]
マウスの結腸MPLMP
IHC
コリン作動性筋層間および粘膜下ニューロンにおけるCB1の存在;一酸化窒素作動性ニューロンでの共存はない
[14]
マウスの結腸
IHC
一酸化窒素作動性ニューロンを除く、筋層間のコリン作動性ニューロンにおけるCB1の存在
[15]
IHC:免疫組織化学的検査、MPLMP:筋層間神経叢縦走筋標本、NPY:ニューロペプチドY、RT–PCR:カンナビノイドmRNAに対する逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法、VIP:血管作用性小腸ペプチド。
表3
実験研究または臨床症状における腸管内在性カンナビノイド量、受容体の発現、およびFAAHの活性・発現
実験・臨床症状
動物種・腸の領域
内在性カンナビノイド量
カンナビノイドの発現;FAAHの発現・活性
参照
クロトン油誘発小腸炎
マウス、小腸
内在性カンナビノイド量に変化なし;PEA量の減少
CB1の発現増加、FAAHの活性増加
[16,17]
クロトン油誘発下痢
マウス、小腸
アナンダミド量の増加(2-AGは増加せず)
CB1 mRNAの発現増加;FAAHの活性に変化なし
[13*]
結腸直腸がん・腺腫性ポリープ
ヒト、結腸
アナンダミドおよび2-AG量の増加
CB1、CB2、FAAHの発現に変化なし
[21**]
酢酸誘発イレウス
マウス、小腸
アナンダミド量の増加(2-AGは増加せず)
CB1の発現増加;FAAHの活性に変化なし
[12]
トキシンA誘発炎症
ラット、回腸
アナンダミドおよび2-AG量の増加
未測定
[19*]
DNBまたはデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎
マウス、結腸
未測定
CB1発現細胞数の増加
[18**]
食糧不足
ラット、小腸
アナンダミド量の増加
未測定
[20]
DNB:ジニトロベンゼン、PEA:パルミトイルエタノールアミド。
腸分泌
最近、内因性アナンダミドがCB1活性化を通じて、コレラ毒素処置を行ったマウスの分泌を抑制することが発見された[13*]。マウス小腸の液体貯留を増加させた経口コレラ毒素はアナンダミド量の増加と付随しており、カンナビノイドCB1 mRNAの発現を増加させた。以下の薬理学的実験によって、内在性カンナビノイド情報伝達の過剰刺激と抗分泌性との結びつきが強まっている:カンナビノイド拮抗薬SR141716Aは液体貯留をさらに増加させた;アナンダミド再取り込み阻害薬VDM11は液体貯留を減少させた;カンナビノイドアゴニストCP55 940または選択的CB1アゴニストACEAはCB1拮抗薬感受様式で分泌を抑制させた。
拡散チャンバー(Ussing chamber)上の筋条片組織の電解液運動をモニタリングする研究によって、粘膜下ニューロンおよび粘膜下層の外因性一次求心性神経に位置するCB1受容体が分泌過程の制御に関与していることが明らかになっている[6]。実際、カンナビノイド受容体アゴニストWIN55 212-2は、上皮に直接作用して分泌を誘発するフォルスコリンあるいはカルバコール対する反応に影響を与えることなく、主に粘膜下分泌促進性ニューロンからのアセチルコリン放出の媒介による電場刺激(EFS)分泌と、モルモットの回腸内の外因性一次求心性神経からの神経伝達物質放出によるカプサイシン誘発分泌の両方を減少させた[6]。さらに、外因性神経を除去した組織ではWIN55 212-2のEFSに対する抑制効果が失われており、外因性神経がCB1受容体のEFSに対する感受性の原因となっていることを示唆している。
下部食道括約筋
下部食道括約筋におけるCB1受容体の活性化は、胃食道逆流疾患にとって有益となり得る[22]。機能学的研究では、カンナビノイドアゴニストWIN55 212-2およびΔ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)が(CB1活性化を通して)イヌ[23]およびフェレット[24]の下部食道括約筋弛緩を抑制することが示されており、少なくともイヌにおいては胃食道逆流の抑制と付随している[23]。カンナビノイドアゴニストは中枢・末梢神経系レベルでの迷走神経活性化の調節を通じて作用する。これはCB1受容体染色が迷走神経背側核(最後野、孤束核、および下神経節)内の細胞体に存在することの発見によって確認されている[24]。
胃腸運動
カンナビノイドアゴニストは接合部前CB1受容体に作用し、ヒトの回腸や結腸[25*,26]を含む様々な消化管の平滑筋収縮および蠕動を減少させる[3]。CB1活性化が筋収縮を減少させる仕組みには腸管神経からのアセチルコリン放出の減少が含まれるが、これまでに非アドレナリン性非コリン性(NANC)興奮性シナプス伝達の抑制やアデノシン放出およびアパミン感受性カリウムチャネルの調整等の仕組みも提唱されている[3,27,28]。最近の報告は、CB1活性化が(ATPまたは関連プリンの媒介により)NANC抑制性シナプス伝達のアパミン成分を減少させる可能性があることを示唆している[15]。実際、WIN55 212-2は、マウスの結腸では、一過性のアトロピン感受性興奮性接合部電位および高速の(アパミン感受性)抑制性接合部電位を著しく減少させる。ただし、低速の(一酸化窒素依存性)抑制性接合部電位はこれに該当しない。WIN55 212-2の作用は、それ自身が興奮性接合部電位(高速または低速の抑制性接合部電位は該当しない)を増加させる効果を持つCB1拮抗薬SR141716Aによって対抗される[15]。
これらの生体外での結果と一致するように、JWH-133(CB2選択的)を除く、アナンダミド、カンナビノール、WIN55 212- 2、CP55 940、ACEA(CB2選択的)等のいくつかのカンナビノイドアゴニストは、ラットおよびマウスの胃および腸の運動を抑制している。こうした効果は、運動を増加するCB1拮抗薬SR141716Aによって抑制されるが(最新情報についても参照)、CB2 拮抗薬SR144528では抑制されない[3,22]。自律神経節の遮断および脳室内へのカンナビノイド投与によって、カンナビノイドアゴニストの抑制効果の少なくとも一部には腸内CB1受容体が関与していることが示されている[3,29]。
マウスでは、免疫組織化学的および薬理学的証拠によって、生体内結腸運動の調整における内在性カンナビノイドおよび筋層間CB1受容体の役割が支持されている[14]。カンナビノイドアゴニストであるカンナビノール、アナンダミド、WIN 55 212-2、ACEAは、SR141716A感受様式で結腸運動を減少させた。局所的な内在性カンナビノイド緊張が結腸推進を制御しているという仮説は、以下の発見によって強まっている:通常、マウスの結腸には大量の内在性カンナビノイドが存在している;結腸推進に対する刺激作用は、SR141716AによるCB1受容体の選択的遮断後に発生した;結腸推進に対する抑制効果は、VDM11による内在性カンナビノイド再取り込みの抑制後に発生した。
最後に、神経からアナンダミドとともに共放出される脂肪酸パルミトイルエタノールアミドがCB1またはCB2受容体の活性化とは独立した仕組みを通じてマウスの消化管通過を減少させることが、生理状態およびクロトン油誘発性炎症の実験モデルの両方において観測されている[17]。
病態生理状態における運動性
実験モデルによって、CB1およびCB2受容体はどちらも炎症刺激誘発性腸運動の増加を制限できる。以前の研究では、経口クロトン油に付随する通過の増加を減少させることで過剰発現するCB1受容体(CB2受容体は該当しない)の重要性が示されていた[16]。これに対して、最近の報告は、内毒素炎症薬処置されたラットではCB1介在性の消化管通過の減少が見られず、CB2介在性の刺激通過の抑制がこれに代わることを示している[30**]。実際、CB2アゴニストJWH-133(CB1アゴニストACEAは該当しない)はリポ多糖誘発性の腸管通過の増加を減少させた。この効果は選択的CB2受容体拮抗薬AM-630によって対抗されている。インドメタシンがJWH-133の抑制効果を無効にするのに対して、血小板活性化因子受容体拮抗薬PCA 4248および誘導型一酸化窒素合成酵素阻害薬SATUはどちらも効果を及ぼさない。これらの結果は、CB2アゴニストがシクロオキシゲナーゼ代謝物を通じて作用し、誘導型一酸化窒素合成酵素や血小板活性化因子とは独立していることを示している。
Mascoloら[12]は、腹膜刺激による実験的麻痺性イレウスの誘発に腸内在性カンナビノイド系が関与している証拠を示した。CB1受容体拮抗薬SR141716Aが腹腔内酢酸に付随するマウスの消化管運動の減少を回復させるのに対して、細胞への再取り込み阻害薬VDM11はこれを悪化させる。実験的麻痺性イレウスは、腸管内のアナンダミド(2-AGは該当せず)量の増加ならびにコリン作動性神経およびサブスタンスP含有神経におけるCB1受容体の数と密度の増加によって特徴づけられている。CB1受容体活性化が興奮性シナプス伝達を減少させることから[3]、腹膜炎誘発性イレウスに続いて発生する腸内コリン作動性神経およびサブスタンスP含有神経に対するCB1受容体の過敏性は、その後の運動遅延とともに、両方の神経伝達物質放出を減少させるものと仮定されている。
嘔吐
カンナビノイド(ナビロン、Δ9-THC、レボナントラドール)はヒトの制吐薬として有効である[31]。CB1受容体ならびにFAAHは、迷走神経背側核および迷走神経背側運動核(DMNX)等の嘔吐に関与する脳の部位で発見されている[32]。CB1活性化は、ヒメコミミトガリネズミのシスプラチンおよび5-ヒドロキシトリプトファン誘発性嘔吐、フェレットのオピオイドまたはシスプラチン誘発性嘔吐、ラットのリチウム誘発性拒絶反応(吐き気を反映している可能性あり)を防止した(表4)[25*,26,32-41]。CB1拮抗薬SR141716Aを単独投与した場合に吐き気または嘔吐を引き起こすか、または催吐刺激が増強されることから、内在性カンナビノイドが関与している可能性を示唆している。しかしながら、トガリネズミで嘔吐を誘発する内在性カンナビノイド2-AG(アナンダミドは該当せず)の強い作用は、推定されている内在性カンナビノイド系の制吐作用とは相反するものである(表4)[36]。
フェレットを使ったカンナビノイドアゴニスト作用部位の調査では、脳幹表面に局所投与されたΔ9-THCの効果と胃内の高張食塩によって誘発される嘔吐との比較、そしてさらに重要なDMNXおよび孤束核内側部におけるシスプラチン誘発性Fos発現の測定が行われている[25*]。カンナビノイドの制吐作用は、最後野および迷走神経核の中枢または迷走神経遠心枝の末梢神経系迷走神経性胃機能に関連する経路におけるCB1受容体の媒介によるものである。最後野の化学センサは血液脳関門の外側に位置しているので、この関門を通過しないカンナビノイドは向精神性の副作用のない制吐作用を有している可能性がある。
表4
全身性に投与されたカンナビノイド受容体アゴニストの抗嘔吐および制吐作用a
動物種
催吐刺激
調査対象カンナビノイドアゴニスト
コメント
参照
フェレット
モルヒネ-6-グルクロニド
Δ9-THC、
メタアナンダミド、
WIN55 212-2
CB1受容体およびFAAHは脳幹の最後野、孤束核、およびDMNXからなる迷走神経背側核に局在する。CB1拮抗薬AM521は単独投与された場合に、モルヒネ-6-グルクロニド誘発性の嘔吐を増強する。
[32]
シスプラチン高張食塩
Δ9-THCb
DMNXおよび孤束核の内側部におけるシスプラチン誘発性のFos発現は、閂の吻側のΔ9-THCによって減少する
[25*]
モルヒネ
WIN55 212-2
50%有効量は吐き気に対しては0.05 mg/kg、嘔吐に対しては0.03 mg/kg
[26]
ヒメコミミトガリネズミ
シスプラチン
CP55 940
CP55 940の制吐作用は(Δ9-THCあるいはWIN55 212-2とは異なり)運動抑制用量で発生する
[33]
シスプラチン
WIN55 212-2
WIN55 212-2は、その鎮静作用に対して、比較的少量で嘔吐の頻度を減少させる
[34]
SR141716A
CP55 940、Δ9-THC、
WIN55 212-2
CB1受容体拮抗薬SR141716Aの嘔吐誘発作用は、催吐回路における内在性カンナビノイドの重要な役割を示唆している
[35]
2-AG
CP55 940、Δ9-THC、
WIN55 212-2
2-AGの作用はCB1受容体拮抗薬SR141716Aおよびインドメタシンによって遮断される;外来性2-AGに対する催吐反応は、嘔吐に関与する脳部位において、より効果的にCB1受容体アゴニストを置換することによって制吐緊張を減少させるであろうと仮定されている。2-AGの催吐効果は、その歩行運動抑制用量に対して比較的少量で発生する。
[36]
5-HT、2‐メチルセロトニン、
セロトニン
Δ9-THC
Δ9-THCは、おそらく中枢および末梢機序が関与する機構を通じて、セロトニン介在性の嘔吐を防止する
[37]
ジャコウネズミ
リチウム誘発性予期嘔吐
および吐き気
Δ9-THC
Δ9-THCは、通常の活動を抑制しない用量で、予期性の吐き気を抑制する
[38]
シスプラチン
Δ9-THC
単独では効果のないΔ9-THCおよび 5-HT3拮抗薬オンダンセトロンの複合投与による前処置の結果、嘔吐および吐き気は完全に抑制された。マリファナの非向精神性成分カンナビジオールは、少量(5 mg/kg)では嘔吐を抑制し、大量(40 mg/kg)ではそれを増強させた。
[39]
ラット
リチウム誘発性条件付き拒絶反応
Δ9-THC、HU-210
SR141716Aは拒絶反応を増強させており、これは吐き気の調節における内在性カンナビノイドの役割を示唆している
[40]
リチウム誘発性条件探求
Δ9-THC、HU-210
CB1受容体拮抗薬SR141716Aはリチウム誘発性条件探求を増強した。マリファナの非向精神性成分カンナビジオールは条件探求を抑制した。
[41]
a 条件付き拒絶反応は吐き気の感覚を反映している。
b 高張食塩によって嘔吐が勧誘された際に脳幹表面に投与。
5-HT:5-ヒドロキシトリプタミン。
小腸炎
腸内CB1受容体の発現増加や内在性カンナビノイド量増加によって明らかとなったように、カンナビノイド情報伝達の増強が小腸炎の後に観察されている(表3)。Massaら[18**]は、CB1受容体の遺伝手術を受けたマウスでは大腸内ジニトロベンゼンまたは経口デキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎への感受性が高いのに対して、アナンダミド量が高いと予想される[42]FAAH欠損マウスでは小腸炎への著しい保護作用が示されている。さらに、カンナビノイドアゴニストHU-210は小腸炎を抑制したが、一方でCB1受容体拮抗薬SR141716Aはそれを悪化させた。これとは対照的に、Crociら[43]は、SR141716Aがラットおよびマウスのインドメタシン誘発小腸炎を防止することを示している。
McVeyら[19*]は、アナンダミドおよび2-AGがバニロイド受容体(VR1)を通じて腸管内の一次感覚神経を刺激してサブスタンスPを放出させ、その結果として、ラットの回腸炎を引き起こすことを示しており、内在性カンナビノイドがトキシンAの炎症作用を媒介している可能性を示した。したがって、内在性カンナビノイドは、腸管粘膜における(CB1活性化を通じた)保護的役割と(おそらく高濃度では、VR1活性化を通じた)有害的役割の両方を持つ可能性がある。
最後に、カンナビノイドによるCB2受容体活性化は、腸管内の免疫恒常性維持に大きな影響を及ぼすことが認められているヒトの結腸上皮細胞の腫瘍壊死因子α誘発インターロイキン8放出に対して、抑制効果を発揮する[44]。これらの研究は生体内での腸管炎症におけるCB2受容体の役割を調査するための道を開いた。
がん
カンナビノイドは、吐き気、嘔吐、痛みを防止し、食欲を増進させることによって、がん患者に対する対症効果を発揮する。加えて、これらの成分は、培養または動物モデルにおける腫瘍細胞の増殖を抑制する[45]。Ligresti ら[21**]は、結腸直腸腺腫性ポリープおよび癌腫の粘膜が、CB1・CB2受容体またはFAAH発現の違いによらず、アナンダミドおよび2-AGを大量に含んでいることを示した。さらに、アナンダミド、2-AG、HU-210、ならびにアナンダミド不活性化阻害薬は、 DLD-1 細胞(CB1およびCB2受容体の両方を発現させるが、CB1受容体はCaco-2細胞よりも少ない量で発現する)と比較して、Caco-2細胞(CB1受容体を発現させる)の細胞増殖を優先的に抑制する。こうしたデータは、結腸直腸がん細胞株の減少においては、CB2受容体よりもCB1受容体の方が重要性が高いことを示唆している。これと一致して、SW 480結腸がん細胞株に関する研究においても、アナンダミドによるCB1活性化が、転移に関する最も重要な腫瘍細胞の移動を抑制することをJosephら[46]が報告している。
内在性バニロイドとしてのアナンダミド
現在、アナンダミドがVR1(TRP1 受容体としても知られる)におけるアゴニストであることを示す確かな証拠が存在している。VR1免疫反応が、ブタおよびモルモットのコリン作動性腸管神経で確認されている[47-50]。後者では、三次神経叢のコリン作動性VR1陽性線維が、カルレチニン、サブスタンスP、シナプシン1を同時発現させた。これらの発見は、モルモットの筋層間神経叢運動ニューロンからのVR1媒介性アセチルコリン放出を支持するものである[51]。これとは対照的に、VR1免疫反応は、CB1 mRNAが発現するラットの標本では線維に限定されており[49-50]、また、ヒトの結腸またはヒルシュスプルング病患者の外因性肥大性神経束によって増加した[52]。しかし、Barthoら[53]は、摘出されたヒトのS状結腸におけるカプサイシン感受性受容体のアナンダミド活性化を示す証拠を発見できなかった[53]。
トキシンAを原因とする回腸炎は、カンナビノイドによるVR1活性化に依存する[19*]。Beggら[54]がアナンダミドによるVR1活性化が高濃度で優勢となることを発見したのに対して、Mangら[51]はカンナビノイド活性化のpEC50値がVR1活性化の値よりも低いことを発見した。また、アナンダミドによるVR1活性化が、カプサゼピン(VR1拮抗薬)感受機構によって、モルモットの筋層間神経叢からのエチレンジアミン誘発性γ-アミノ酪酸放出を増加させることを示す証拠が存在している[54]。
最後に、内在性カンナビノイドが非カンナビノイド非バニロイド機構を通じて作用することを示す、生体外での証拠が存在する。Mangら[51]は、アナンダミドが、非カンナビノイド非バニロイド受容体の活性化を通じて電気的に引き起こされたモルモットの回腸でのアセチルコリン放出を抑制することを示した。また、2-AGは、モルモットの遠位大腸の縦走平滑筋をテトロドトキシン感受様式で収縮した[55]。こうした反応は、CB1アゴニストWIN55 212-2あるいはVR1アゴニストAM 404によって模倣することができず、CB1あるいはバニロイド受容体の拮抗薬では抑制できなかった。2-AGに対する反応はリポキシゲナーゼ阻害薬ノルジヒドログアヤレチン酸によって部分的に減少することから、ロイコトリエンが2-AGの神経収縮作用に寄与している可能性がある[55]。
結論
最新の画像処理技術によって示されるように、外来性または内在性カンナビノイド受容体の作用機構は、平滑筋および分泌促進細胞の興奮性コリン作動性(ただしNANCでもある可能性あり)神経支配に優勢に付随しており、これらの弛緩、抗分泌、抗潰瘍特性を媒介している。さらに、胃腸運動および嘔吐に付随する末梢神経系の迷走神経末端および中枢域におけるCB1受容体の発現は、これら二つの過程におけるカンナビノイドの作用と相関する。これらの作用は、鎮痛、食欲促進、抗増殖作用とともに、がん治療の可能性を高めるものである。したがって、内在性カンナビノイドの再取り込みまたは代謝を通じて、羅患状況に付随する内在性カンナビノイドおよび内在性バニロイド作用の調節を行うことは、従来の治療法では治りにくい胃腸障害に対して向精神カンナビノイド薬の全身性投与を行う際に好ましいことになるであろう。そのような推定上の治療が末梢循環に限定されるものなのか、あるいは中枢系への副作用があるかどうかについては、今後の発見を待たなければならない。
最新情報
最新の研究では、マウスの生体内における、CB1受容体拮抗薬SR141716A(リモナバン)の胃腸管系運動促進作用に対する急速な耐性が明らかになっている[56]。体重減少や禁煙を促すためのSR141716Aを使った臨床実践の導入が提案されていることからも、こうした情報は重要である。
謝辞
筆頭著者は本研究への支援について、SESIRCA(Regione Campania)およびCofinanziamento Murstに感謝いたします。
参考・推奨文献
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コレラ毒素誘起性水分泌は、CB1受容体に作用する内因性アナンダミドの放出に依存する腸管神経路に関与している。
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この研究は、内在性カンナビノイドが、がん性、特に前がん性の結腸組織で過剰産生され、培養中の結腸直腸がん細胞の増殖に対して抑制作用を及ぼすことを報告している。
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Δ9-THCが、迷走神経背側核の分離核のCB1受容体活性化によって、シスプラチン誘発性嘔吐を抑制することが、Fos免疫組織化学実験ならびに薬理学的実験によって明らかになっている。
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Angela A Coutts1およびAngelo A Izzo2*
消化器薬理分野におけるカンナビノイドに関する最近の研究は、腸内の内在性カンナビノイドおよび内在性バニロイド機構ならびにそれらの病態生理学的調整に焦点をおいている。腸内コリン作動性神経および血管作用性小腸ペプチドを含む粘膜下神経節細胞、(嘔吐に関わる)迷走神経背側核の個々の神経核、および中枢・末梢神経系の迷走神経末端においてCB1受容体の免疫反応性が確認されており、それによって胃食道逆流症および消化管運動が制御されている。動物モデルでは、内在性カンナビノイドによるCB1受容体活性化は流動分泌の誘発と炎症を抑制し、培養結腸直腸がん細胞の増殖を減少させた。また、特定の炎症症状において、内在性カンナビノイドはカンナビノイドCB2およびバニロイドVR1受容体を活性化する。このように、内在性カンナビノイドの代謝作用は多くの消化器疾患に有用な治療標的となり得る。
所在
1 School of Medical Sciences, College of Life Sciences and Medicine, University of Aberdeen, Institute of Medical Sciences, Foresterhill, Aberdeen AB25 2ZD, Scotland
2 Department of Experimental Pharmacology, University of Naples Federico II, via D Montesano 49, 80131 Naples, Italy
* e-mail: aaizzo@unina.it
Current Opinion in Pharmacology 2004, 4:572–579
本概説はMichael ParsonsおよびBrendan Whittle編集による消化器薬理の特集号に掲載されたものです。
2004年10月3日オンライン化
1471-4892/$ – see front matter
# 2004 Elsevier Ltd. All rights reserved.
DOI 10.1016/j.coph.2004.05.007
略語
2-AG 2-アラキドノイルグリセロール
CB1IR CB1受容体免疫反応性
DMNX 迷走神経背側運動核
EFS 電場刺激
FAAH 脂肪酸アミドヒドロラーゼ
NANC 非アドレナリン性非コリン性
VR1 バニロイド受容体
Δ9-THC Δ9-テトラヒドロカンナビノール
序論
数世紀にわたって、さまざまな製剤がインド大麻草(Cannabis sativa)から作られ、消化管を含む広範囲におよぶ疾患を治療するための医薬品として用いられてきた。大麻(マリファナ)の有効成分および合成カンナビノイドは、薬理学的に少なくとも二種類のカンナビノイド受容体(どちらもGタンパク質共役受容体)を介して作用する。CB1受容体が主に神経伝達物質を放出する中枢・末梢神経系ニューロンに存在するのに対して、CB2受容体は免疫機能に付随する[1-4]。これらの受容体に対応する内因性リガンド(アナンダミドおよび2-アラキドノイルグリセロール[2-AG])の発見は、内在性カンナビノイド系の機能が存在することを示している。
アナンダミドおよび2-AGの他にもさらに多くの内在性カンナビノイド(ノラジンエーテル、ビロダミン、N-アラキドノイルドーパミン)が単離されているが、マウスの排便率を下げることがわかっているノラジンエーテル[3]を除き、消化管におけるこれらの役割については研究が行われていない。CB1およびCB2受容体結合部位に対するカンナビノイドの相対的親和性を特定するために、放射性リガンド結合実験が用いられている[2]。最も一般的に用いられているカンナビノイドおよび内在性カンナビノイドのKi値は表1の通りである。カンナビノイド拮抗薬も同様にCB1およびCB2受容体結合部位に対する選択性を示しており(表1)、カンナビノイド受容体介在性の外来性アゴニストに対する機能的反応の確認と単独で使用した際の内在性カンナビノイド緊張の進行の有無の確認の両方に広く用いられている。アナンダミドおよび2-AGの作用は、担体取り込み処理後に、ミクロソーム内での脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)による加水分解を通じて停止する。したがって、取り込み阻害薬またはFAAH阻害薬によって、内在性カンナビノイドの作用を増強することが可能である[3]。
この記事は、当分野における最近の発見について概要を提供し、本誌で発表された初期の概説[3]を改定することを目的としている。
腸内におけるカンナビノイド受容体の所在
消化管におけるカンナビノイド受容体の存在は、解剖学的および機能的証拠によって証明されている。初期の研究では、ラットにCB1受容体が存在することがオートラジオグラフィーによって示されており、また、ブタの消化管の横断面の神経叢におけるCB1受容体の免疫反応性(CB1IR)が免疫組織化学的検査によって確認されている[5]。最近の研究[6–12,13*,14,15]では、様々な種でCB1IRとコリン作動性神経との共存が確認されており(表2)、これらは腸内のニューロンの大部分を占めている。モルモットの筋層間神経叢、感覚細胞、介在ニューロンおよび運動ニューロン細胞体、神経線維でCB1受容体が発現している[7]。また、粘膜下神経叢では、CB1IRと血管作用性小腸ペプチド(非コリン性)およびニューロペプチドY(コリン性)分泌促進性ニューロンが共存している。このような分布は、運動および分泌過程におけるSR141716A感受性CB1受容体の活性化による抑制効果を確信させるものである。生体内では、侵害刺激[12,13*,16,17,18**,19*]、食糧不足[20]、または臨床的に診断された結腸直腸がん[21**]によって、CB1受容体(またはmRNA)の発現量、FAAHの発現量・活性量、または内在性カンナビノイド量が大きく増加した(表3)。
表1
消化管内で測定された主要カンナビノイド受容体リガンドならびにCB1・CB2特異的結合部位からの[3H]CP55 940、[3H]WIN55 212、[3H]HU-243の生体外置換で得られたそれらのKi値(nM)。a
リガンド
化学的性質
CB1のKi値
CB2のKi値
非選択的カンナビノイド受容体アゴニスト
アナンダミド
エイコサノイド誘導体、内因性リガンド
543 (61–89)b
581–1940 (279–1930)b
2-AG
エイコサノイド誘導体、内因性リガンド
58–472
145–1400
HU-210
ジベンゾピレン誘導体、合成物
0.06–0.73
0.17–0.22
CP55 940
ピラン環を持たないΔ9-THC類似体、合成物
0.58–5
0.69–2.55
Δ9-THC
ジベンゾピレン誘導体、植物由来
35.3–80.3
3.9–75.3
WIN55 212-2
アミノアルキルインドール、合成物
1.89–123
0.28–16
選択的CB1受容体アゴニスト
ACEA
エイコサノイド、合成物
1.4b
>2000
ノラジンエーテル
脂質エーテル、内因性リガンド
21.2
>3000
メタアナンダミド
エイコサノイド、合成物
1.4b
815
選択的CB2受容体アゴニスト
JWH-015
アミノアルキルインドール、合成物
383
13.8
選択的CB1受容体拮抗薬
SR141716A
ジアリルピラゾ-ル、合成物
1.8–12.3
702–13200
AM281
ジアリルピラゾ-ル、合成物
12
4200
選択的CB2受容体拮抗薬
SR144528
ジアリルピラゾ-ル、合成物
437
0.60
a データはHowlett他2002年[2]からの抜粋。腸運動を抑制する一部のカンナビノイド受容体アゴニスト(アナンダミド、WIN55 212-2、カンナビノール、Δ9-THC、およびCP55,94)の効力については他にも多く示されている[22]。
b FAAH阻害薬フッ化フェニルメチルスルホニル使用。
胃液分泌
カンナビノイドにはCB1介在性の抗潰瘍作用があり、それが抗分泌作用とも関係している可能性がある。Adamiら[8]は、カンナビノイドアゴニストWIN55 212-2およびHU-210によるCB1活性化が、ペンタガストリンや2-デオキシ-D-グルコース等のコリン作動性分泌促進物質によって誘発される酸分泌を減少させることを示した。ただし、壁細胞においてH2受容体を活性化するヒスタミンが誘発するものについてはこれに該当しない。アトロピン処置はそうではないが、両側頚部迷走神経切除および神経節遮断はHU-210の抑制効果を著しく減少させる(ただし消滅はしない)。これらのデータは、胃粘膜へと通じる迷走神経遠心路におけるCB1受容体支配部位の存在を示唆している。
表2
消化管におけるカンナビノイドCB1受容体の所在
動物種・腸の領域
技法
発見
参照
ブタ;全領域
IHC
コリン作動性細胞におけるCB1の存在;P物質と共存するものはあるが、一酸化窒素作動性ニューロンあるいはVIP陽性ニューロンとは共存しない
[5]
モルモットの粘膜下層
IHC
VIPまたはNPY分泌促進性ニューロンとの共存および血管周囲組織におけるVR1との共存
[6]
モルモットおよびラットのMPLMP
IHC
コリン作動性Dogiel I 型およびII 型神経細胞および線維におけるCB1の存在
[7]
ラットの胃
IHC
筋肉および粘膜を神経支配するコリン作動性細胞におけるCB1の存在
[8]
ラットの胃・十二指腸
IHC
両組織の迷走神経求心系におけるCB1の存在;コレシストキニンとの共存
[9]
ラットの下神経節
IHC/ RT–PCR
絶食による神経節細胞におけるCB1発現増加
[9]
ラットの胃
RT–PCR
CB1およびCB2 mRNAの存在
[10]
マウス;全領域
IHC, RT–PCR
胃および結腸ニューロンでの最大発現
[11]
マウスの小腸±酢酸
IHC
筋層間のコリン作動性ニューロンならびに筋層間および粘膜下線維におけるCB1の存在;一部はP物質(筋層間)と共存
[12]
マウスの小腸±コレラ毒素
IHC, RT–PCR
コリン作動性筋層間および粘膜下ニューロンにおけるCB1の存在
[13*]
マウスの結腸MPLMP
IHC
コリン作動性筋層間および粘膜下ニューロンにおけるCB1の存在;一酸化窒素作動性ニューロンでの共存はない
[14]
マウスの結腸
IHC
一酸化窒素作動性ニューロンを除く、筋層間のコリン作動性ニューロンにおけるCB1の存在
[15]
IHC:免疫組織化学的検査、MPLMP:筋層間神経叢縦走筋標本、NPY:ニューロペプチドY、RT–PCR:カンナビノイドmRNAに対する逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法、VIP:血管作用性小腸ペプチド。
表3
実験研究または臨床症状における腸管内在性カンナビノイド量、受容体の発現、およびFAAHの活性・発現
実験・臨床症状
動物種・腸の領域
内在性カンナビノイド量
カンナビノイドの発現;FAAHの発現・活性
参照
クロトン油誘発小腸炎
マウス、小腸
内在性カンナビノイド量に変化なし;PEA量の減少
CB1の発現増加、FAAHの活性増加
[16,17]
クロトン油誘発下痢
マウス、小腸
アナンダミド量の増加(2-AGは増加せず)
CB1 mRNAの発現増加;FAAHの活性に変化なし
[13*]
結腸直腸がん・腺腫性ポリープ
ヒト、結腸
アナンダミドおよび2-AG量の増加
CB1、CB2、FAAHの発現に変化なし
[21**]
酢酸誘発イレウス
マウス、小腸
アナンダミド量の増加(2-AGは増加せず)
CB1の発現増加;FAAHの活性に変化なし
[12]
トキシンA誘発炎症
ラット、回腸
アナンダミドおよび2-AG量の増加
未測定
[19*]
DNBまたはデキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎
マウス、結腸
未測定
CB1発現細胞数の増加
[18**]
食糧不足
ラット、小腸
アナンダミド量の増加
未測定
[20]
DNB:ジニトロベンゼン、PEA:パルミトイルエタノールアミド。
腸分泌
最近、内因性アナンダミドがCB1活性化を通じて、コレラ毒素処置を行ったマウスの分泌を抑制することが発見された[13*]。マウス小腸の液体貯留を増加させた経口コレラ毒素はアナンダミド量の増加と付随しており、カンナビノイドCB1 mRNAの発現を増加させた。以下の薬理学的実験によって、内在性カンナビノイド情報伝達の過剰刺激と抗分泌性との結びつきが強まっている:カンナビノイド拮抗薬SR141716Aは液体貯留をさらに増加させた;アナンダミド再取り込み阻害薬VDM11は液体貯留を減少させた;カンナビノイドアゴニストCP55 940または選択的CB1アゴニストACEAはCB1拮抗薬感受様式で分泌を抑制させた。
拡散チャンバー(Ussing chamber)上の筋条片組織の電解液運動をモニタリングする研究によって、粘膜下ニューロンおよび粘膜下層の外因性一次求心性神経に位置するCB1受容体が分泌過程の制御に関与していることが明らかになっている[6]。実際、カンナビノイド受容体アゴニストWIN55 212-2は、上皮に直接作用して分泌を誘発するフォルスコリンあるいはカルバコール対する反応に影響を与えることなく、主に粘膜下分泌促進性ニューロンからのアセチルコリン放出の媒介による電場刺激(EFS)分泌と、モルモットの回腸内の外因性一次求心性神経からの神経伝達物質放出によるカプサイシン誘発分泌の両方を減少させた[6]。さらに、外因性神経を除去した組織ではWIN55 212-2のEFSに対する抑制効果が失われており、外因性神経がCB1受容体のEFSに対する感受性の原因となっていることを示唆している。
下部食道括約筋
下部食道括約筋におけるCB1受容体の活性化は、胃食道逆流疾患にとって有益となり得る[22]。機能学的研究では、カンナビノイドアゴニストWIN55 212-2およびΔ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)が(CB1活性化を通して)イヌ[23]およびフェレット[24]の下部食道括約筋弛緩を抑制することが示されており、少なくともイヌにおいては胃食道逆流の抑制と付随している[23]。カンナビノイドアゴニストは中枢・末梢神経系レベルでの迷走神経活性化の調節を通じて作用する。これはCB1受容体染色が迷走神経背側核(最後野、孤束核、および下神経節)内の細胞体に存在することの発見によって確認されている[24]。
胃腸運動
カンナビノイドアゴニストは接合部前CB1受容体に作用し、ヒトの回腸や結腸[25*,26]を含む様々な消化管の平滑筋収縮および蠕動を減少させる[3]。CB1活性化が筋収縮を減少させる仕組みには腸管神経からのアセチルコリン放出の減少が含まれるが、これまでに非アドレナリン性非コリン性(NANC)興奮性シナプス伝達の抑制やアデノシン放出およびアパミン感受性カリウムチャネルの調整等の仕組みも提唱されている[3,27,28]。最近の報告は、CB1活性化が(ATPまたは関連プリンの媒介により)NANC抑制性シナプス伝達のアパミン成分を減少させる可能性があることを示唆している[15]。実際、WIN55 212-2は、マウスの結腸では、一過性のアトロピン感受性興奮性接合部電位および高速の(アパミン感受性)抑制性接合部電位を著しく減少させる。ただし、低速の(一酸化窒素依存性)抑制性接合部電位はこれに該当しない。WIN55 212-2の作用は、それ自身が興奮性接合部電位(高速または低速の抑制性接合部電位は該当しない)を増加させる効果を持つCB1拮抗薬SR141716Aによって対抗される[15]。
これらの生体外での結果と一致するように、JWH-133(CB2選択的)を除く、アナンダミド、カンナビノール、WIN55 212- 2、CP55 940、ACEA(CB2選択的)等のいくつかのカンナビノイドアゴニストは、ラットおよびマウスの胃および腸の運動を抑制している。こうした効果は、運動を増加するCB1拮抗薬SR141716Aによって抑制されるが(最新情報についても参照)、CB2 拮抗薬SR144528では抑制されない[3,22]。自律神経節の遮断および脳室内へのカンナビノイド投与によって、カンナビノイドアゴニストの抑制効果の少なくとも一部には腸内CB1受容体が関与していることが示されている[3,29]。
マウスでは、免疫組織化学的および薬理学的証拠によって、生体内結腸運動の調整における内在性カンナビノイドおよび筋層間CB1受容体の役割が支持されている[14]。カンナビノイドアゴニストであるカンナビノール、アナンダミド、WIN 55 212-2、ACEAは、SR141716A感受様式で結腸運動を減少させた。局所的な内在性カンナビノイド緊張が結腸推進を制御しているという仮説は、以下の発見によって強まっている:通常、マウスの結腸には大量の内在性カンナビノイドが存在している;結腸推進に対する刺激作用は、SR141716AによるCB1受容体の選択的遮断後に発生した;結腸推進に対する抑制効果は、VDM11による内在性カンナビノイド再取り込みの抑制後に発生した。
最後に、神経からアナンダミドとともに共放出される脂肪酸パルミトイルエタノールアミドがCB1またはCB2受容体の活性化とは独立した仕組みを通じてマウスの消化管通過を減少させることが、生理状態およびクロトン油誘発性炎症の実験モデルの両方において観測されている[17]。
病態生理状態における運動性
実験モデルによって、CB1およびCB2受容体はどちらも炎症刺激誘発性腸運動の増加を制限できる。以前の研究では、経口クロトン油に付随する通過の増加を減少させることで過剰発現するCB1受容体(CB2受容体は該当しない)の重要性が示されていた[16]。これに対して、最近の報告は、内毒素炎症薬処置されたラットではCB1介在性の消化管通過の減少が見られず、CB2介在性の刺激通過の抑制がこれに代わることを示している[30**]。実際、CB2アゴニストJWH-133(CB1アゴニストACEAは該当しない)はリポ多糖誘発性の腸管通過の増加を減少させた。この効果は選択的CB2受容体拮抗薬AM-630によって対抗されている。インドメタシンがJWH-133の抑制効果を無効にするのに対して、血小板活性化因子受容体拮抗薬PCA 4248および誘導型一酸化窒素合成酵素阻害薬SATUはどちらも効果を及ぼさない。これらの結果は、CB2アゴニストがシクロオキシゲナーゼ代謝物を通じて作用し、誘導型一酸化窒素合成酵素や血小板活性化因子とは独立していることを示している。
Mascoloら[12]は、腹膜刺激による実験的麻痺性イレウスの誘発に腸内在性カンナビノイド系が関与している証拠を示した。CB1受容体拮抗薬SR141716Aが腹腔内酢酸に付随するマウスの消化管運動の減少を回復させるのに対して、細胞への再取り込み阻害薬VDM11はこれを悪化させる。実験的麻痺性イレウスは、腸管内のアナンダミド(2-AGは該当せず)量の増加ならびにコリン作動性神経およびサブスタンスP含有神経におけるCB1受容体の数と密度の増加によって特徴づけられている。CB1受容体活性化が興奮性シナプス伝達を減少させることから[3]、腹膜炎誘発性イレウスに続いて発生する腸内コリン作動性神経およびサブスタンスP含有神経に対するCB1受容体の過敏性は、その後の運動遅延とともに、両方の神経伝達物質放出を減少させるものと仮定されている。
嘔吐
カンナビノイド(ナビロン、Δ9-THC、レボナントラドール)はヒトの制吐薬として有効である[31]。CB1受容体ならびにFAAHは、迷走神経背側核および迷走神経背側運動核(DMNX)等の嘔吐に関与する脳の部位で発見されている[32]。CB1活性化は、ヒメコミミトガリネズミのシスプラチンおよび5-ヒドロキシトリプトファン誘発性嘔吐、フェレットのオピオイドまたはシスプラチン誘発性嘔吐、ラットのリチウム誘発性拒絶反応(吐き気を反映している可能性あり)を防止した(表4)[25*,26,32-41]。CB1拮抗薬SR141716Aを単独投与した場合に吐き気または嘔吐を引き起こすか、または催吐刺激が増強されることから、内在性カンナビノイドが関与している可能性を示唆している。しかしながら、トガリネズミで嘔吐を誘発する内在性カンナビノイド2-AG(アナンダミドは該当せず)の強い作用は、推定されている内在性カンナビノイド系の制吐作用とは相反するものである(表4)[36]。
フェレットを使ったカンナビノイドアゴニスト作用部位の調査では、脳幹表面に局所投与されたΔ9-THCの効果と胃内の高張食塩によって誘発される嘔吐との比較、そしてさらに重要なDMNXおよび孤束核内側部におけるシスプラチン誘発性Fos発現の測定が行われている[25*]。カンナビノイドの制吐作用は、最後野および迷走神経核の中枢または迷走神経遠心枝の末梢神経系迷走神経性胃機能に関連する経路におけるCB1受容体の媒介によるものである。最後野の化学センサは血液脳関門の外側に位置しているので、この関門を通過しないカンナビノイドは向精神性の副作用のない制吐作用を有している可能性がある。
表4
全身性に投与されたカンナビノイド受容体アゴニストの抗嘔吐および制吐作用a
動物種
催吐刺激
調査対象カンナビノイドアゴニスト
コメント
参照
フェレット
モルヒネ-6-グルクロニド
Δ9-THC、
メタアナンダミド、
WIN55 212-2
CB1受容体およびFAAHは脳幹の最後野、孤束核、およびDMNXからなる迷走神経背側核に局在する。CB1拮抗薬AM521は単独投与された場合に、モルヒネ-6-グルクロニド誘発性の嘔吐を増強する。
[32]
シスプラチン高張食塩
Δ9-THCb
DMNXおよび孤束核の内側部におけるシスプラチン誘発性のFos発現は、閂の吻側のΔ9-THCによって減少する
[25*]
モルヒネ
WIN55 212-2
50%有効量は吐き気に対しては0.05 mg/kg、嘔吐に対しては0.03 mg/kg
[26]
ヒメコミミトガリネズミ
シスプラチン
CP55 940
CP55 940の制吐作用は(Δ9-THCあるいはWIN55 212-2とは異なり)運動抑制用量で発生する
[33]
シスプラチン
WIN55 212-2
WIN55 212-2は、その鎮静作用に対して、比較的少量で嘔吐の頻度を減少させる
[34]
SR141716A
CP55 940、Δ9-THC、
WIN55 212-2
CB1受容体拮抗薬SR141716Aの嘔吐誘発作用は、催吐回路における内在性カンナビノイドの重要な役割を示唆している
[35]
2-AG
CP55 940、Δ9-THC、
WIN55 212-2
2-AGの作用はCB1受容体拮抗薬SR141716Aおよびインドメタシンによって遮断される;外来性2-AGに対する催吐反応は、嘔吐に関与する脳部位において、より効果的にCB1受容体アゴニストを置換することによって制吐緊張を減少させるであろうと仮定されている。2-AGの催吐効果は、その歩行運動抑制用量に対して比較的少量で発生する。
[36]
5-HT、2‐メチルセロトニン、
セロトニン
Δ9-THC
Δ9-THCは、おそらく中枢および末梢機序が関与する機構を通じて、セロトニン介在性の嘔吐を防止する
[37]
ジャコウネズミ
リチウム誘発性予期嘔吐
および吐き気
Δ9-THC
Δ9-THCは、通常の活動を抑制しない用量で、予期性の吐き気を抑制する
[38]
シスプラチン
Δ9-THC
単独では効果のないΔ9-THCおよび 5-HT3拮抗薬オンダンセトロンの複合投与による前処置の結果、嘔吐および吐き気は完全に抑制された。マリファナの非向精神性成分カンナビジオールは、少量(5 mg/kg)では嘔吐を抑制し、大量(40 mg/kg)ではそれを増強させた。
[39]
ラット
リチウム誘発性条件付き拒絶反応
Δ9-THC、HU-210
SR141716Aは拒絶反応を増強させており、これは吐き気の調節における内在性カンナビノイドの役割を示唆している
[40]
リチウム誘発性条件探求
Δ9-THC、HU-210
CB1受容体拮抗薬SR141716Aはリチウム誘発性条件探求を増強した。マリファナの非向精神性成分カンナビジオールは条件探求を抑制した。
[41]
a 条件付き拒絶反応は吐き気の感覚を反映している。
b 高張食塩によって嘔吐が勧誘された際に脳幹表面に投与。
5-HT:5-ヒドロキシトリプタミン。
小腸炎
腸内CB1受容体の発現増加や内在性カンナビノイド量増加によって明らかとなったように、カンナビノイド情報伝達の増強が小腸炎の後に観察されている(表3)。Massaら[18**]は、CB1受容体の遺伝手術を受けたマウスでは大腸内ジニトロベンゼンまたは経口デキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎への感受性が高いのに対して、アナンダミド量が高いと予想される[42]FAAH欠損マウスでは小腸炎への著しい保護作用が示されている。さらに、カンナビノイドアゴニストHU-210は小腸炎を抑制したが、一方でCB1受容体拮抗薬SR141716Aはそれを悪化させた。これとは対照的に、Crociら[43]は、SR141716Aがラットおよびマウスのインドメタシン誘発小腸炎を防止することを示している。
McVeyら[19*]は、アナンダミドおよび2-AGがバニロイド受容体(VR1)を通じて腸管内の一次感覚神経を刺激してサブスタンスPを放出させ、その結果として、ラットの回腸炎を引き起こすことを示しており、内在性カンナビノイドがトキシンAの炎症作用を媒介している可能性を示した。したがって、内在性カンナビノイドは、腸管粘膜における(CB1活性化を通じた)保護的役割と(おそらく高濃度では、VR1活性化を通じた)有害的役割の両方を持つ可能性がある。
最後に、カンナビノイドによるCB2受容体活性化は、腸管内の免疫恒常性維持に大きな影響を及ぼすことが認められているヒトの結腸上皮細胞の腫瘍壊死因子α誘発インターロイキン8放出に対して、抑制効果を発揮する[44]。これらの研究は生体内での腸管炎症におけるCB2受容体の役割を調査するための道を開いた。
がん
カンナビノイドは、吐き気、嘔吐、痛みを防止し、食欲を増進させることによって、がん患者に対する対症効果を発揮する。加えて、これらの成分は、培養または動物モデルにおける腫瘍細胞の増殖を抑制する[45]。Ligresti ら[21**]は、結腸直腸腺腫性ポリープおよび癌腫の粘膜が、CB1・CB2受容体またはFAAH発現の違いによらず、アナンダミドおよび2-AGを大量に含んでいることを示した。さらに、アナンダミド、2-AG、HU-210、ならびにアナンダミド不活性化阻害薬は、 DLD-1 細胞(CB1およびCB2受容体の両方を発現させるが、CB1受容体はCaco-2細胞よりも少ない量で発現する)と比較して、Caco-2細胞(CB1受容体を発現させる)の細胞増殖を優先的に抑制する。こうしたデータは、結腸直腸がん細胞株の減少においては、CB2受容体よりもCB1受容体の方が重要性が高いことを示唆している。これと一致して、SW 480結腸がん細胞株に関する研究においても、アナンダミドによるCB1活性化が、転移に関する最も重要な腫瘍細胞の移動を抑制することをJosephら[46]が報告している。
内在性バニロイドとしてのアナンダミド
現在、アナンダミドがVR1(TRP1 受容体としても知られる)におけるアゴニストであることを示す確かな証拠が存在している。VR1免疫反応が、ブタおよびモルモットのコリン作動性腸管神経で確認されている[47-50]。後者では、三次神経叢のコリン作動性VR1陽性線維が、カルレチニン、サブスタンスP、シナプシン1を同時発現させた。これらの発見は、モルモットの筋層間神経叢運動ニューロンからのVR1媒介性アセチルコリン放出を支持するものである[51]。これとは対照的に、VR1免疫反応は、CB1 mRNAが発現するラットの標本では線維に限定されており[49-50]、また、ヒトの結腸またはヒルシュスプルング病患者の外因性肥大性神経束によって増加した[52]。しかし、Barthoら[53]は、摘出されたヒトのS状結腸におけるカプサイシン感受性受容体のアナンダミド活性化を示す証拠を発見できなかった[53]。
トキシンAを原因とする回腸炎は、カンナビノイドによるVR1活性化に依存する[19*]。Beggら[54]がアナンダミドによるVR1活性化が高濃度で優勢となることを発見したのに対して、Mangら[51]はカンナビノイド活性化のpEC50値がVR1活性化の値よりも低いことを発見した。また、アナンダミドによるVR1活性化が、カプサゼピン(VR1拮抗薬)感受機構によって、モルモットの筋層間神経叢からのエチレンジアミン誘発性γ-アミノ酪酸放出を増加させることを示す証拠が存在している[54]。
最後に、内在性カンナビノイドが非カンナビノイド非バニロイド機構を通じて作用することを示す、生体外での証拠が存在する。Mangら[51]は、アナンダミドが、非カンナビノイド非バニロイド受容体の活性化を通じて電気的に引き起こされたモルモットの回腸でのアセチルコリン放出を抑制することを示した。また、2-AGは、モルモットの遠位大腸の縦走平滑筋をテトロドトキシン感受様式で収縮した[55]。こうした反応は、CB1アゴニストWIN55 212-2あるいはVR1アゴニストAM 404によって模倣することができず、CB1あるいはバニロイド受容体の拮抗薬では抑制できなかった。2-AGに対する反応はリポキシゲナーゼ阻害薬ノルジヒドログアヤレチン酸によって部分的に減少することから、ロイコトリエンが2-AGの神経収縮作用に寄与している可能性がある[55]。
結論
最新の画像処理技術によって示されるように、外来性または内在性カンナビノイド受容体の作用機構は、平滑筋および分泌促進細胞の興奮性コリン作動性(ただしNANCでもある可能性あり)神経支配に優勢に付随しており、これらの弛緩、抗分泌、抗潰瘍特性を媒介している。さらに、胃腸運動および嘔吐に付随する末梢神経系の迷走神経末端および中枢域におけるCB1受容体の発現は、これら二つの過程におけるカンナビノイドの作用と相関する。これらの作用は、鎮痛、食欲促進、抗増殖作用とともに、がん治療の可能性を高めるものである。したがって、内在性カンナビノイドの再取り込みまたは代謝を通じて、羅患状況に付随する内在性カンナビノイドおよび内在性バニロイド作用の調節を行うことは、従来の治療法では治りにくい胃腸障害に対して向精神カンナビノイド薬の全身性投与を行う際に好ましいことになるであろう。そのような推定上の治療が末梢循環に限定されるものなのか、あるいは中枢系への副作用があるかどうかについては、今後の発見を待たなければならない。
最新情報
最新の研究では、マウスの生体内における、CB1受容体拮抗薬SR141716A(リモナバン)の胃腸管系運動促進作用に対する急速な耐性が明らかになっている[56]。体重減少や禁煙を促すためのSR141716Aを使った臨床実践の導入が提案されていることからも、こうした情報は重要である。
謝辞
筆頭著者は本研究への支援について、SESIRCA(Regione Campania)およびCofinanziamento Murstに感謝いたします。
参考・推奨文献
年次概説期間中に発行された特に興味の対象となる論文について、次のように強調している:
* 特に興味の対象となるもの
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アナンダミドが内在性バニロイドであることを示す、腸における最初の生体内での証拠。この研究は、内在性カンナビノイドがカプサイシンVR1を通じて腸管内の一次感覚神経を刺激してサブスタンスPを放出させて腸炎を引き起こすことと、内在性カンナビノイドがトキシンAの炎症作用を媒介する可能性を証明している。
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この研究は、内在性カンナビノイドが、がん性、特に前がん性の結腸組織で過剰産生され、培養中の結腸直腸がん細胞の増殖に対して抑制作用を及ぼすことを報告している。
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Δ9-THCが、迷走神経背側核の分離核のCB1受容体活性化によって、シスプラチン誘発性嘔吐を抑制することが、Fos免疫組織化学実験ならびに薬理学的実験によって明らかになっている。
Simoneau II, Hamza MS, Mata HP, Siegel EM, Vanderah TW, Porreca F, Makriyannis A, Malan TP Jr: The cannabinoid agonist WIN55,212-2 suppresses opioid-induced emesis in ferrets. Anesthesiology 2001, 94:882-887.
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ラットの小腸のCB2受容体が内毒素炎症誘発性の腸運動の増加の抑制を助ける可能性を報告する最初の証拠。脳のカンナビノイド受容体に付随する有害な向精神作用を最小化することによって、CB2受容体は運動機能障害の治療のための新たな分子標的となる。
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