『IR戦略の実務』(日本能率協会マネジメントセンター)について

 

2020年7月20日

 

 本書・『IR戦略の実務』(日本能率協会マネジメントセンター)は、筆者の広報・IR担当とアナリスト双方の経験から、IRに関する基本的な内容について、主な業務、必要な開示情報、投資家・アナリストの考え方、制度開示、関連領域などを整理したものである。また、IRの主な流れをケースで整理し、IR担当初心者でも業務の流れを理解できるようにまとめている。

 IRのセオリーが分からないと、投資家やアナリストと上手くコミュニケーションが取れない。しかし、IRのセオリーを理解しようにも、基本的な内容を事業会社の目線で総合的にまとめた市販ツールがこれまでありそうでなかなかなかった。事業会社のIR担当の立場では、自分の会社のことは詳しくても、一般化するのがなかなか難しい。一方、アナリストは、多くの事業会社を外部から見てはいるものの、事業会社の社内の動きはわかり得ない。このような相互の業務上の限界からIRは一般化しにくいのである。本書は筆者のそれぞれの経験を踏まえて、IRの基本の一般化を試みた。

 IR戦略とは、「IRのセオリーを理解した上でステークホルダーとの適切な対話を図ること」と筆者は考えている。IRのセオリーを理解しなければ、投資家やアナリストとの対話が上手く行かないためである。

 IRのセオリーとは、投資家やアナリストの見方・考え方を理解した上で、上手くコミュニケーションを図ることである。IRのセオリーを知っている人にとっては当たり前の知識や情報でも、事業会社の中ではノウハウがなかなかたまりにくいのが現状なのである。

 IR担当の主な苦悩は、社内でIRの理解やノウハウがないことである。結果としてIR担当者自身にノウハウが付くことになり、何年も同じ部署に居続けることになる。筆者の知人でも、10年間異動していない方もいれば、社内外の板挟みになって体調を崩した方もいる。まさしくIR担当者自身のスキルにIR業務を依存しているのである。しかし、事業会社のジョブローテーションを踏まえれば、1人が10年間異動しない状況は望ましいとは言い難い。本来、経営企画担当や経営陣がIRのセオリーを理解して対話できるスキルを身に付けた方が望ましいし、事業部門でも理解できる人材が増えた方がより円滑なマネジメントコントロールが図れるためである。

 本書がIRのセオリーが普及し、IR担当者個人のスキルに依存しない社会に変わっていく一助になれば幸いである。

 

 

 

 

【著者プロフィール】

高辻成彦(たかつじ・なるひこ)

立命館大学政策科学部卒業、早稲田大学ファイナンスMBA。現職はフィスコ(投資情報支援サービス提供会社)のシニアエコノミスト兼シニアアナリスト。前職はいちよし経済研究所(いちよし証券の調査部門)のシニアアナリスト。ナブテスコ(機械メーカー)の広報・IR担当時には、日本IR協議会のIR優良企業特別賞の所属会社初受賞に貢献。

近著の『IR戦略の実務』(日本能率協会マネジメントセンター)では、上場企業の情報開示の基礎について記述。企業・経済分析の傍ら、情報開示等、ガバナンスの改善活動にも努める。経済ニュースアプリ・NewsPicksでは8万人以上のフォロワー数。