色恋輪廻~桜の花が咲く頃に~

色恋輪廻~桜の花が咲く頃に~

PSO2の自キャラ飛龍を中心に気ままに紡ぐ物語

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※これは朝、目覚めた飛龍の横にもうひとりの飛龍(女)が現れるという
 パラレルストーリーである。(本編とは何ら関係ありません)
 女体化飛龍が主人公のにょた飛龍視点でお送りします。





朝、目が覚めると…
なぜか私のベットになんとも無愛想な男が顔を引きつらせてこちらを見ていた。
『人のベットに潜り込むとは…随分と大胆なものですね』
明らかに不機嫌そうなその男はムッスリと呟く。今なんと?
「人のベット…?これはこちらのセリフだ。貴様は誰だ
 女のベットに潜り込むとは随分と植えているようではないか」

お互いににらみ合いを続けていると部屋のドアがドンッと物凄い音を立てて開くのが聞こえた
「ふ、ふぇ…飛龍!!!へ、へんな、へんなおっさんがいる!!!」
駆け込んできたのは青髪のキツネっ子だったどうやらこの男の知り合いのようだ
飛龍といったか…そこで私は無意識のうちに眉間に皺を寄せていた
「貴様…飛龍というのか」
自分の名前を口に出され不愉快だと言わんばかりに目を細め
『だとしたらなんなんです?貴方には関係のない話でしょう?』
男はベッドから降りるとキツネの青年の近くまで歩み寄るとそっと髪を撫でた
『少し落ち着いたらどうです?』
「飛龍…」
わなわなと唇を震わせる青年はこちらに視線を移した。
そして何かを察したというようにぱっと飛龍から離れる
「飛龍…ま、まさかその女の人と…」
この青年はあらぬ事を考えたらしい。この男の青年に対する視線といい
青年の態度といい、何かあるのは確かだった…なるほど…面白い。
私もベッドから降りると飛龍を後ろから抱きしめた
「飛龍、その子誰?そんな子ほおっておいて昨日の続きをしよう?…いいだろう?」
にっこりと最高の笑顔で飛龍を見上げるとぴくぴくと顔がひきつってるのが見て取れる。
青年は唖然として飛龍と私を交互に見ていた。
完全に浮気現場を目撃してしまった女のような目をしていた。
『ギオ…違う…この女とはさっき初めてあっただけで…』
「つれない…昨日みたいに飛龍と呼べ」
ふふっと笑みを浮かべて二人を見つめた。二人は時が止まったように私を見つめて固まっていた
「そんな見つめるな、照れる」
「え、えぇぇl!!!?ふぇ…飛龍が二人!!!!?しかも女の子!!」
名前を名乗ると途端にギオと呼ばれた青年の目が輝いた。
「よく見るとどことなく似ている気がする!!」
そう言われて飛龍を見上げてみる。確かに腰まで伸びた黒髪や瞳の色がとても似ているし
何より名前が一緒というのはかなり不思議な気分だった。
共通点があるというのは人特有の安心感を与える。先ほどまでに不快感も薄れていた。

そんな和んだ雰囲気が訪れた頃あいつが来た。
「ふぇーいちゃん」
後ろから覗き込むような体勢で声をかけられると反射的に体をビクつかせた
「おうおう、そんな怯えんなって」
「き、貴様がいきなり変なとこから湧いて出るからだろう!!」
そう言って飛龍の後ろに隠れるとギオが大きな声を出す
「あああああぁぁぁぁぁっ!!!さっきのおっさん!!!」
「お、キツネ耳のカワイコちゃんか何もそんな顔して睨まなくたって取って喰いやしねぇよ
 なぁ!ふぇいちゃん!」
「いや、やりかねん…」
へらへらと笑うおっさんを横目に今にも斬りかかりそうな程殺気立った飛龍をなだめるのはなかなか大変だった。
「こいつは妖崎 庵(あやざき いおり)堕落しきったおっさんだ。こんなんでも
 一応私の顔見知りということにしておいてくれ」
私はギオと飛龍に庵を紹介した。

紹介…といっても私自身この男と初めて会ったのもつい先日の事で、任務の帰りに一休みしようと腰掛けたベンチの後ろでうめき声をあげて倒れている男を見つけたのが不運の始まりだった。
私もその場で放っておけばいいものを何故かその時はこの男に声をかけてしまった。
具合でも悪いのかと思いきやただの酔っ払いだとわかった時には自分の浅はかさを心底憎んだ
今思い出してもなんとまぁに愉快なことか…
それからと言うものの付きまとうように私の後を追ってやってきた。

「ふぇいちゃん、何をそんな難しい顔してるのかな?」
響くような低音で囁くように声をかけてきたと思ったらすぐに腕の中に収められた。
「やっ…やめろ…貴様は馴れ馴れしく人に触りすぎだ!」
慌ててその腕から逃げ出すとニヤニヤと嬉しそうにこちらを見る庵の姿が嫌でも目に入った
くそ…悔しいことに庵の声は悪くない。どうせそうやって女をたぶらかして来た遊人に違いない。ふんっ…っとそっぽ向くと飛龍とギオの手を取り朝食の準備をする、と歩きだす。

くくっと喉を鳴らして笑う庵の声が聞こえたが気がつかない振りをしてその場を後にした。

ロックベアから少女を救い出し帰還した飛龍は療養を兼ねながら船内を見て回った。
ナベリウスのようにどこか見知った場所がないかを探すためだ。
いろんな場所を散策してみて気がついたが、景色や場所、店については昔から知っていたかのように飛龍の記憶は残っていた。
けれどそこに見知った顔はおらずさらに困惑するばかりであった…

「すみませんが…そこをどいていただけませんか?」
眉間に皺を寄せながら怪訝な顔をした飛龍は散策中、道の真ん中で立ち尽くす人影に声をかけた。その声に振り向いた青年は両手を振り回して慌てて頭を下げた
「す、すみません!!」
こちらの様子を伺うように向けられた目と目が合う。右目にはしなやかな光沢を帯びた眼帯がつけられていた。真っ赤な瞳の中に自分自身が映りこんでいるのがわかる。
額に見える長い角はデューマンの証だろう。髪色は少し珍しい青色をしている。青というより藍色に近いだろうか…少し癖のある跳ねた髪からはピンっと立った耳が見えておりぴくぴくと揺れていた。猫…かとも思ったが背中にはえるしっぽを見る限りでは恐らく狐の類であろう。
飛龍は吸い込まれるように無意識で青年の髪へと手を伸ばしていた。

突然の行動に青年の瞳が一瞬小さくなるのを感じ、しまった…と言わんばかりに手を引っ込めるそれに変わり、飛龍は突如強い頭痛に襲われた
「…ッ!!…ぅ……ぐッ…」
頭痛に襲われると同時に視界がじりじりと歪んだ。一体何が起きたのだろうか…
頭が割れる…飛龍は頭を抱えてその場に膝をついた。
居合わせただけの青年は慌てて飛龍に駆け寄り支えるようにして顔を覗き込む。
再び青年との視線が絡む。ズキッ…まただ…
目の前で心配そうに見つめてくる青年と目が合うと激しい頭痛に襲われた。
反射的にぐっと目を閉じる。
「あの…大丈夫ですか?」
自分に呼びかける声にゆっくりと目をあける。
「…っ…!?」
開かれた飛龍の目は別のどこかを見ているようだった。確かに視線は青年を見ているようにも見えたが、その視線は彼に向けられたものではないように感じた。


飛龍は瓦礫に覆われた薄暗い場所に居た。マザーシップとは違うどこか別の場所であることは間違いない。ただその地に立つのは初めてではないような気がした。
そしてその瓦礫の中に飛龍はただ一人で立っていた。
ただ何もないその場所で誰かを待っているような、そんな気がした…誰かを待っている?
…誰を?ここは一体どこなのだろうか…瓦礫の隙間から外が見えるようがそこから見た限りではこの周りには何もないように見受けられた。
何者かの気配を感じて飛龍が後ろを振り向こうとした時、大きな音とともに頬に激しい痛みが走るのを感じた。
「しっかりしてください!」
目の前には赤い瞳の青年がいた。
先程までの薄暗い空間はなく青年が困惑の表情を向けているだけだった。
ひと呼吸ついたあと、飛龍は頬に感じた痛みについて思い出したかのように口を開いた。
「…は…ッ……いきなりなにを…っ…」
「ご、ごめんなさい…僕…その…君の…様子がおかしかったから…」
相手の頬を打ち付けた手のひらにわずかな痛みを感じた青年は眉を下げて語尾を小さくした。
飛龍はじっと青年を見つめていた。先程までの頭痛はなくなっていたが何かスッキリとしない感覚に襲われていた。
そんな飛龍に青年は泳がせていた瞳をおくった。少しやつれているように感じるもののその瞳はしっかりとした意志の光を宿していた。似ている…紅と碧のオッドアイ…ちくりと胸の奥が痛むのを感じた。
「……っ…ろん」
「…ん…どうかしましたか?」
小さな声で何かを呟く青年に飛龍は首をかしげ顔を覗き込んだ。
飛龍が動くとちりちりっと小さな音が聞こえるのを感じ、青年はぱっと顔をあげ飛龍の耳元へと視線を移した。間違いない、それは青年にとってよく見知ったピアスだった。
金色に輝く3連ピアス…飛龍の耳で揺れるたびぶつかり合い小さな音色を奏でている。
その音は青年にとってはとても懐かしく久しい音色だった。何年ぶりだろうか…この音色を聞くのは…青年はそっと目を閉じた。
「会いたかった…」
そのピアスは青年が探していた者の持ち物に間違いなかった。何度もそのピアスを身につけているのを見たのだ。それを見誤ることなど有り得ない。青年の手は震えていた。
その震えを誤魔化すかのように握り締めていた両手を背に隠す。
そんな青年を見つめていた飛龍は戸惑いを隠せなかった。
つい最近まで怪我により眠りについていた飛龍は目覚める以前の記憶の一部を失っていたからだ…残念ながら目の前にいる青年についての記憶はない。
この青年は自分が何者なのかを知っているのだろうか?
「…貴方は…私を知っているのですか?」
飛龍の言葉に青年ははっとした。
「う、ううん…ごめんなさい。とっても僕の知り合いに似ていたものだから…」
そう言いながら首を振った青年は苦笑いを浮かべていた。恐らくとても大切な人なのであろう。
先程までの彼の温かみを帯びた表情は先ほどと比べ曇ってしまっていた。

「ぁ…あの…僕、ギオって言います。ちょっと…実は…人探しをしていて…
 その…ぱ…っ…お、お兄さんはアークスですよね?」
ギオと名乗った青年は飛龍の腰に携えた刀を指差して首をかしげた。
「ギオ…」
相手の名前を口にすると先ほどの違和感が飛龍を襲った。記憶がないせいかずっと妙な違和感を感じていた。
「えぇ…一応アークスです。といってもこのとおりちょっと手負いでしてね…
 力になれるかわかりませんが…人探しをしている貴方が私になにか御用ですか?」
ギオは躊躇っていた。うっすらと開いた唇からは小さな声が聞こえた。
「僕も…アークスをしています…ただ、僕には今、相棒というか…ペアを組んでいる方がいないんです…お兄さんも見たところ一人みたいなので…僕に力を貸していただけないでしょうか?」
突然の申し出に眉を顰めた。幼すぎる…ということはないが幼い顔立ちをしたギオと名乗る青年に同行するとなると必然的にこちらの旅にも付き合わせるという大きな重荷を背負わせることになってしまう。
過去の記憶をなくしている以上、自分の記憶を思い出す為の手がかりを探さないわけには行かない。それにアークスだというが、ただの気の迷いというもの知れない…そう言い聞かせようとするがギオは真っ直ぐこちらを見ていた。その真剣な眼差しと背中に背負われていた手入れの行き届いた武器を見つめた。けして遊びではないらしい…飛龍は小さく溜息を漏らす。
「…貴方に人探しという目的があるように、私にもやらなければならないことがあります。
 それはけして楽な道のりではないということを伝えておきましょう。
 それでも付いてくると言うなら私は止めません。ただし、自分の身は自分で守ること。
 いいですね?貴方もアークスならそれくらいはして見せてくださいよ?
 その背中の武器が飾り物でないことを証明して見せてください。」
そう言って立ち上がると飛龍はふっと笑みを浮かべて歩き出した。
そのイタズラな笑みにギオは一瞬見とれるも、ぱっと瞳を輝かせて自らも立ち上がり
はい!と力強く頷くと飛龍の後ろを歩き始めた。
「飛龍…私の名前です」
「ふぇ…い…ろん…?」
飛龍は小さく頷くと「なんですか?ギオ」と小さな声名前を呟いた。ギオは自分の顔が熱くなっていくのをはっきりと感じた。
そしてしばらくの間、ギオは何度も何度も。心の中で飛龍の名前を呼び続けた。

飛龍が目を覚ましてからもう一週間が経った。
初めは自分の名前すら覚えていなかったがどうやら全ての記憶を失ったわけではないらしい。
助けてもらった恩人宅から出てしばらく歩いた先に見えてきた地は見覚えのある場所だった。

惑星ナベリウス。深い木々に覆われた森の中、飛龍は歩を進めた。獣道のようなものも出来てはいたがけして足場のいいところではない。しかしながらここではよく訓練のために足を運んだ。
よく知り得た土地…それだけで心強かったが少し休んでいた時間が長すぎたようだ…
体の動きがまだ鈍く感じた。

森にはいってしばらくしたところで飛龍は腰を下ろす。
腰を下ろすと言っても体を休めようというわけではない。身を隠す、といったほうが正しいか…
この惑星ナベリウスは不思議な気候の変化がみられる惑星だがこの森林地帯に関しては比較的戦いやすいところであった。
そんな森の中で飛龍は少し先に大きな生物の背中を確認した。ロックベアだ。
ロックベアは動作的にも比較的ゆったりとしているため攻撃を見極めやすい。
あの巨大な体で飛び込んでくるのしかかりは出来れば受けたくない、病み上がりの体には尚更だ。
その為飛龍は不要な戦闘を避け先に進むことにした。今の体の状況からしてもここに長居はできない。その場から離れようとしたその時だった。
グオオオオォォォォッ…!!!突然ロックベアが雄叫びを上げて暴れ始めた。地響きがする。
その声に飛龍は振り返る。ロックベアは飛龍には気づいていないようだった。
何があったのだろうか…飛龍は目を凝らす。
雄叫びを上げたロックベアが暴れ砂埃がまっていて視界が悪い。
はっきりとは確認できないが人の大きさほどの影が見えた。影は微動だにしなかった。
「ちっ…面倒ですね…」砂埃が消えてなくなる前に飛龍走り出していた。

 ロックベアを目の前に立ちすくんでいたのは小さな少女だった。
ロックベアは太く大きなその腕を振り上げる。飛龍は立ちすくむ少女を抱き抱えるとロックベアの攻撃を回避する。本来の自分であればこの程度の動きは造作もないはずだが二人分の体重と攻撃を避けた衝撃を受け止めた足には大きな負担がかかっていた。
「くっ…この程度の相手の相手ですら体を支えるのがやっととは…無様ですね…」
ふふっ…と自らを嘲笑うと肩を震わせる少女を安全な場所に隠れさせてロックベアへと向き直る。
「貴方の相手をするつもりはありませんでしたが、そうもいかないようです。
 体力もあまり回復はしていないようですが…貴方を倒すのには今の私でも十分でしょう。」
飛龍は背中に背負った刀をかまえ、気を溜めた。
「貴方も運が悪かったですねぇ…ここが貴方の死に場所ですよ」
興奮状態のロックベアは大きな腕を振り回して飛龍目掛けて突進してくる。その動きを捉えた飛龍相手の脇を抜けると背後から渾身の一撃を食らわした。ジャキイイィィィン…チン…
一瞬抜刀された刀はロックベアに大ダメージを与えていた。ダメージをうけたロックベアは切られた部分を庇うようにして暴れ苦しむように倒れ込んでいった。一撃で仕留めたようだ。
恐らく既にロックベアの体力も残りわずかだったのだろう…その為に興奮状態となっていた可能性が高い…飛龍はそんなことを思いながらも助けた少女のもとへと歩み寄った。
「怪我はありませんか?」
木にもたれた少女はゆっくりと飛龍を見上げると小さな手に握り締めたものをそっと差し出し。
「す、すみません…」
差し出された手のひらを小刻みに震えていた。
「訓練中に通信機の不具合でペアの人とはぐれてしまって…
 その人と合流しようと探し歩いていたんです…なかなか見つからず…この近くまで来たら
 なんとか…通信が繋がって…」
震える声で訳を話そうとする少女から差し出されたアイテムを受け取った。テレパイプか。
「…それで、その相方の人はどちらへ行かれたのですか?」
辺りを見渡して見る者のそれらしき人影は見当たらず少女へと問いかける。
「はい…通信機の調子が戻ったのでお互い帰還しようという話になったんです…
 わたしもテレパイプで帰還しようとしたところ、近くにロックベアがいたのに気づかず…」
少女の話を聞きながらなるほどと理解すると飛龍は腕を組んでいた。
飛龍自身も出来るだけ早くこの森から抜けシップへと帰還したかった。この状況下での戦闘は苦しいものとはなったが悪いことばかりではなかったようだ。テレパイプさえあれば帰還するのは簡単だった。とはいっても先ほどの戦闘で治りつつあった傷口が開いてしまっていた。
体への負荷がかかりすぎたようだ…一先ず体を休ませなければならない。

『自分の身ひとつ守れないようなら戦いになんて行くもんじゃない…』

ふと黒衣の剣士の言葉を思い出した。無意識のうちに眉間に皺を寄せていた。ただ彼の言うこともあながち間違いではない。助けられた命、なにか意味のあってのことだろう…
その意味を探し出すまで死ぬことは許されない。

飛龍は渡されたテレパイプを起動した。
「さて、まずは帰りましょう。安全な場所へ」
そう言って少女を抱き上げると共に帰路へとついた。


体が重い…そう感じる意識はあるものの瞼は開こうとはしてくれなかった。
下半身が自分のものではない気がした、遠くの方で水の流れる音が聞こえていた。
おそらく感覚のない下半身が川の水にでもさらされているのだろう。
どれだけの時間こうしていたのだろう…意識もあやふやで覚えていない。
記憶を失う前は何をしていたのか、それすらたどることもできなかった。

時間が経つにつれて次第に意識を取り戻していく、閉じようとする瞼を無理やり押し開くように
ゆっくりと目を開ける。ここはどこだ…。たくさんの木々の隙間から真っ青に染められた空が
顔をのぞかせていた。

「大変っ!!早くしないと…」
声音はそれほど高くはないが焦ったような女性の声が聞こえた。
「大丈夫かしら…かなり血が出てるみたい…」
かなり小さくではあったがその女性がはっきりとした口調で話すのが聞こえた。
意識は戻りつつあるな…そう感じると体に頬に暖かい物が触れた。
どうやら先ほどの声の主である女性の手が触れたようだった。うっすらと開いた瞳が
彼女のパッチリとした目と合った。
「意識がまだあるわ!」
もうひとり誰かいるのか…彼女は別のどこかに向かって話しかけた。
「どうしてそう、面倒なことが好きなんだ…」
不満そうにしながらも温かみを帯びたその声が次第に近づく。
そして自分の体が地から離れるのを感じた…
「あな…っ…たちは…誰…ですか…?」
久しぶりに発声された喉からは聞き取るのが難しいほどかすれた声がでた。
そんなことも気にしないというように女性の声が聞こえる。
「自己紹介は後でするわ!そんなことより貴方、全身傷だらけよ…
 どこか傷の手当ての出来るところへ移動するから…もう少し頑張って」
「あんたがここで死なれちゃこっちは目覚めが悪いからな」
なぜ私が初対面の相手に悪態つかれなければならないのか…文句のひとつでもいいたいところではあったが、その言葉を最後に私の意識は再び失われていった。



次に目が覚めたときには少し固めのシーツのかかったベッドの上で寝かされていた。
「やっと気がついたか」
声のする方を反射的に見やり腰に装備されているはずの武器へと手を伸ばした。
しかし、そこに使い古した武器はなく無意識にその場から飛び退く。
体は動くようになったらしいがかなり体力を消耗していた、足元はふらふらと力も入らない。
「そんな警戒しなくても誰もとって食ったりしない、安心しろ」
意識を失う前悪態をついた男はコイツだとすぐに理解した。だがその男には敵意がないのが
見て感じ取れ近くの壁にもたれかかった。
「私は…どれほど眠っていましたか?」
「二週間ってとこだろうな…まぁまだ意識が戻るとは思ってなかったが、
 見た目より案外タフみたいだな」
そう言われて窓ガラスに映り込む自分の姿を確認する。
確かに肌の色は白く真っ黒に染まった髪は長く肩の高さを越えて腰の方まで到達しそうだった。
しかし骨格はしっかりとしている。しばらく寝ていたために筋肉の衰えはあるようだが
自分が男であることはきちんと理解できた。不意に頭に痛みが走る。
「私は…っ…」
そこでこれまでの自らの記憶がないことに気がついた。私の名前は…
「飛龍…あんたの名前だ。悪いがあんたのアークスカードを勝手に見させてもらったよ。
 “フェイロン”って読むんだな。あまり聞かない名だ」
「飛龍…ですか…」
あまりピンと来ないもののなんとか自分の名前を知ることができた。
「どうやら…私の記憶は失われてしまったようですね。以前自分が何をしていたのか
 どこの誰なのか覚えていません。アークスカードを私が持っていたということは
 アークスだった。それだけは間違いないのでしょうがね。貴方は?」
まだ名前を聞いていないと、促すように相手に視線を向ける。
「別に名乗る程のもんじゃない」
落ちてきた少し長めの前髪を左耳にかけるようにかきあげると男は座っていた椅子から腰を上げた。飛龍の前まで近づいて来るともと
もと飛龍がもっていたとみられる持ち物武器を渡された。
「ほら、あんたのだ」
最後に渡されたアークスカードには確かに自分の写真と“飛龍”の文字が記載されていた。
「なにがあったか知らないが…今はどの惑星も安全とは言い難い。
 自分の身ひとつ守れないようなら戦いになんて行くもんじゃない。あいつが助けた命だ
 無駄にすんなよ。」
そう言い残すと、黒い衣装に身を包み背中に大きな剣を背負ったその男は何も言わないまま
部屋を部屋を後にした。


白く輝く長い髪を揺らしながら少女が部屋に飛び込むと飛龍の姿は既に見当たらなかった。
目が覚めたと聞いて飛んできたというのに…
窓の外に目をやると先程までそこに寝ていたはずの飛龍の姿が見えた。慌てて少女は外へと飛び出すと大きく息を吸った。
「こらーっ!!!」
後ろから聞こえてくる大きな声に飛龍は肩をビクつかせ後ろを振り向く。
少女は遠目からでも見て取れるよう両手で大きく手を振ってこちらを見ていた。
その姿に飛龍は思わず笑みを溢した。なるほど、おかしな人だ。それでも何も言わずに送り出してくれたことがありがたく感じた。名も知らない相手だ。
記憶がない以上何が起きるかもわからない。飛龍何も言わずそこから出ることに決めたのもそのためだった。
「ありがとう…」
それは相手に届きはしない言葉だったが飛龍は確かにそう呟いた。


探さなければならない…自分が何者なのか…
とても大事な…何かを失った気がする…思い出さなければならない…
大切な何かを…そして飛龍はその場を後にした。