この日は朗読パフォーマンスと琴と尺八のコラボというイベントの手伝いを頼まれていた。


前夜からの雪は予想外にも10センチ以上積もる結果となった。遅れてはなるまいと少し早めに家を出た。何せ会場にはまだ行ったこともなかったので。

この日の最初の開演場所は柴田町の農家レストラン「食のギャラリー花菜」さん。待ち合わせの9時少し前に到着することができたが、やはり雪の影響か、みんな遅れているようだった。店内はアットホームな雰囲気で心地よい。とりあえずその限られたスペースをどう使うかを考えていた。自分の今回の役割は舞台の飾り付けを含む全体的配置、視覚効果。もちろん主催者である朗読パフォーマー・椎名さんの感覚的イメージに沿った上で、しかも音響効果も考慮しなければならない。それらのバランスを見ながら、場合によっては何かを見切りながらやっていくしかない。まともな打ち合わせがなかったので現場合わせとなる。ものを造る時もあまり設計図など書かず現物合わせがほとんどなので似たようなものか。

関係者が続々と到着、出演者は音合わせや衣装の準備を始めた。そんな中、他のスタッフと共に会場設営に着手。演奏者の場所、椎名さんの立ち位置を考慮しながらその空間を形作る。

この手の作業は初めてだが、できうる限りのことはした。
STONE SCULPTURE-朗読花菜1

そして少しずつお客さんも来店してきた。この会場では完全予約制でお昼が付く。昼食を食べ終えて落ち着いたところで開演。

STONE SCULPTURE-朗読花菜2

今回、琴の奏者は3人。そのなかでも十七弦と呼ばれる一回り大きな琴を奏でるのが、奥の師範の女性。自分と同年代なので驚いた。そして手前の尺八の奏者。何とも贅沢な組み合わせだ。間近で聞くのは初めて。だが本番では自分は舞台裏の暗幕の中で視覚効果の小道具を動かす役目。暗闇でじっと待機。本来装飾だけのはずだったが、なんとかギミックを加味することができた。仕掛けがあればより世界に入り込みやすい。
STONE SCULPTURE-朗読花菜3

生の楽器の音色は目が覚めるような印象。音の波動をその場で受ける感覚は、「聴く」という表現ではなまぬるい。奥底に響いていく。


2作品を無事終えることができた。舞台裏にいたので全体の印象がどうだったかはよく分からない。うまくいったほうではないかと思う。やりきれなかった部分は次に生かせる。


すぐさま後片付けに入り、移動の準備をする。次の会場は丸森町の齋理屋敷。夜の部開演までの時間はそれほど余裕があるわけではない。まして雪道なので余計時間がかかる。



STONE SCULPTURE-朗読齋理3
齋理屋敷ではある程度舞台設置に自由がきくかと思われたが、空間配置がなかなか難しく、また残り少ない時間に追われて、多少見切った部分がでた。それでも制約の中でなんとかまとめようと試みた。


STONE SCULPTURE-朗読齋理1
この天候、そしてこの時間すでに道路はツルツル、なかなかお客の入りがおもわしくなかったが、それでも町長夫妻をはじめ地元の方々が足を運んでくれた。「この雪も椎名の演出の一つです。」と、司会進行役。

「花咲き山」の演目にふさわしく、齋理屋敷のらんまにも花が咲く。椎名さんは「ことばのたねや」、こうしてこつこつ種をまいて、お客さんの意識にもきっと花咲くことだろう。
STONE SCULPTURE-朗読齋理2
琴の演奏が特に抜きん出ており、単独の演奏を聴いてみたいという衝動に駆られた。同世代の女性師範というのも、自分にとってよい刺激となった。今回自分は全くの素人、いささか申し訳ないような気持ちになったが、やれることはやったのでよしとしよう。彫刻という分野はなにも素材を彫り刻むことだけが仕事ではない。特に現代においては。見方を変えれば素材ではなく空間を彫っているといえる。空間創造。鑑賞者からどのように見えるか、どう見せるかということが重要になってくる。その意味で言えば今回の件もあながち全く異分野とはいえない。自分を含めいろいろな立場の方々が今回関わったが、それぞれがスキルは違えど能力を出し切ってひとつのカタチを表現できたように思う。なんのご縁か関わらせていただいたが、充実した一日だった。椎名さん、演奏者の皆さん、お疲れ様でした。


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