先月知人から硯の注文を受けていた。
今週会う機会があるかもしれないので、それにあわせて制作していた。
・小さめのサイズ
・墨はすらない
・とにかくいっぱい墨汁が入る
・でも筆をしごく場所は必要
・なるべく安く
今まで制作していたものとはまったくことなるものになりそうだ。
最後の「なるべく安く」が一番難しい注文だ。
手元にちょうどいいサイズの石があったので、このところそれを少しずつ暇を見つけては加工していた。
最初から形のイメージがあったわけではない。制作が進むにつれ形が変わっていった。
だんだんのめりこんでいく。もう自分の意思とは無関係。注文とも無関係。
この石の存在がそうさせたのかもしれない。
ある段階でもう、これは今回の注文とは別のものだと感じた。採算を考える必要がなくなった。
流れのような、触手のような、2つの動きが交じり合う、融合するような、なんかそんな感じ。
実用性を考えて筆を置けるようにと、最初の段階で楕円のフォルムに突起をつけていた。
墨をおろすことはできません。
が、硯としてはふざけた形ながら、実は自分が今まで造った中では一番実用的かも。
値段をつけると馬鹿みたいな金額になるので、単に硯としてではなく、
硯+ヒーリング+作品というすごく特殊な位置づけの存在ということにしよう。
でも自分が造るものはすべてそうだともいえるか。
研究のためのプロトタイプってとこでしょうか。
自動車だって販売してるのは数百万だけど、開発には数十億かかってるし。
あぁ、注文の硯別に造らないと…。