「ヘルニア」というと、よく椎間板ヘルニアの事だと思われる方が多いようですが、実は他にも様々なヘルニアがあります。
ヘルニアとは、身体の中の臓器などが、本来の位置から脱出した(とびだしている)状態のことをいい、ヘルニアは椎間板以外にも様々な部位で発症する事があります。
その中でも、犬や猫によくみられるヘルニアには次のような物があります。
例えば、
・臍ヘルニア(でべそ)
・鼠径ヘルニア(後ろありの付け根からの脱腸)
・会陰ヘルニア(肛門の横からの脱腸、未去勢オスに多い)
・横隔膜ヘルニア(横隔膜に穴があき、腸などの臓器が肺の方へ入り込む状態)
などがあります。
では椎間板ヘルニアとはどういう状態のこと現しているのでしょうか。
犬や猫は人と同じように、首から腰にかけて脊椎(背骨)といわれる骨が並んでいます。
その一つ一つの骨を椎体といい、椎体と椎体の間に、椎間板があります。
椎間板は、ゼラチン状の髄核とコラーゲンを含む線維輪から成り立っており、椎体にかかる衝撃を吸収する役割があります。
椎間板ヘルニアになると、この椎間板の一部が上にとびだす事で脊髄を圧迫し、痛み、麻痺などを引き起こしてしまいます。
どの犬種でも起こりうる病気ですが、ミニチュアダックスフンド、ビーグル、シーズー、ペキニーズなどの軟骨異栄養性といわれる犬種で多くみられます。
※ 軟骨異栄養性・・・遺伝的に若齢で髄核の変性、石灰化を起こしやすく、椎体にかかる衝撃を吸収出来難くなります。
例えば、下の図の赤丸のどこかで椎間板ヘルニアが発症した場合には次のような症状がみられ、重症度によって1~5まで分類されいます。(軽症:1→5:重傷)
グレード1:背中の痛み
グレード2:後ろ足に軽度の麻痺はあるが、自力で立って歩く事が出来ます
グレード3:後ろ足の麻痺により歩く事が出来なくなります
グレード4:後ろ足が完全に麻痺し、足の皮膚をつねっても痛みを感じなくなります。また自力での排尿が出来なくなります
グレード5:後ろ足が完全に麻痺し、足の皮膚をつねっても痛みを感じなくなります。さらには骨の痛みまで感じなくなります。また自力での排尿が出来なくなります。
グレード1では、あまり動きたがらない、段差を嫌がるなどの症状が多くみられます。
治療には、保存療法(内科的)と外科的治療があります。
保存療法では、ケージレスト(安静)、痛み止め、減量などにより、椎間板物質の更なる突出を予防し、また脊髄の浮腫や炎症を軽減します。
外科的治療では、いくつかの手術方法がありますが、どれも原因である椎間板物質の除去や、脊髄にかかった圧の除去が目的となります。
グレードが軽い場合は、保存療法でも高い改善率が得られますが、原因が取り除かれている訳ではないので、再発する可能性もあります。
そのため、どのグレードであっても、外科的治療の方が改善率が高く再発率も少なくなります。しかし、すでに脊髄のダメージが大きすぎたり、手術時期が遅れてしまうことで十分な改善がみられないこともあります。
~進行性脊髄軟化症~
また、グレード4~5で重度の脊髄損傷を起こした犬の5~10%では、脊髄が出血、虚血を起こし、脊髄全体が壊死、軟化していく「脊髄軟化症」を起こす事があります。
脊髄軟化症は、発症部位から上行性(頭側)、下行性(尾側)に広がります。
下行性では、後ろ足の反射の低下、肛門括約筋の弛緩、尿道括約筋の弛緩などがみられます。そのため無意識に便や尿が出てしまいます。
上行性では、前足の麻痺、呼吸停止、心停止となり、命を落としてしまいます。
症状の進行が見られるまで、診断する事が出来ませんでしたが、今では精度の高いMRI検査などにより、発症前に脊髄軟化症の可能性がある事をある程度予測する事ができます。
しかし、現時点では脊髄軟化症を改善する方法、さらには進行を抑制する方法さえありません。そのため発症するとほぼ間違いなく2~10日で亡くなってしまう恐ろしい病気です。
椎間板ヘルニアは、保存療法、外科的治療のいずれにせよ、出来る限り早期に治療を開始する事が重要です。
症状が軽いからといって、安心は出来ません。
上記のような症状が認められた場合には、
1日でも、いえ1時間でも早く動物病院へ連れて行って上げて下さい。
アイリス動物病院
中村