時代劇専門亞チャンネルオリジナル時代劇の劇場公開を観てきました。

これ、出演者の舞台挨拶付きのプレミア試写会に応募したけど落選しました。

このパターン、何度か応募して、その都度当選してたけど、毎回野球や仕事に追われて一度も行ったことが無かった。

今回は行けるかな、と思ってたら、そんな時に限って落選。

人生そんなものです。


因みに「鬼平犯科帳」の新作スペシャルのエキストラ応募というのもあったから、当然応募したけど、これ当たったらええのになぁ。

太秦でも松竹撮影所でも喜び勇んで行くんやけどな。

絶対当たらない自信はあるけど。


そんな事で、ちゃんとお金を払って映画館での鑑賞です。


何でも原作者の池波正太郎誕生100周年なんだそうです。

池波正太郎と言えば、「鬼平犯科帳」や「剣客商売」と並んで「仕掛人藤枝梅安」も代表作の一つに数えられます。

その映像化作品になります。


僕が池波正太郎氏の小説に出会ったのは、叔父が亡くなった時、その病床の傍に「剣客商売」の文庫本を見た時が始まりです。

その本を形見分けとして頂戴し「剣客商売」の全巻を読み、そこから池波文学を読み漁りました。

「鬼平犯科帳」は無論のこと「雲霧仁左衛門」や「真田太平記」等々、相当数の小説を読みました。

やがて、その後は藤沢周平や山本周五郎といった時代小説へとのめり込んで行くことになります。


であるからして、僕がスカパーの時代劇専門チャンネルに加入してるのは当然の訳なのです。


24時間放送の専門チャンネルは、それ故にコンテンツ不足となりがちなのは自明の理。

であるから、Netflixにしたってに時代劇専門チャンネルでも、オリジナル作品が生まれる土壌がある訳です。


Netflixでも優れたオリジナル作品が有りますが、この時代劇専門チャンネルオリジナル作品もまた作品の出来が良い。

下手な映画より、よほど出来が良いし面白い。

間違いなく、昨年公開された司馬遼太郎原作の「峠」より遥かに上だ。


前置きが長くなりましたが、あと一つだけ。

僕が原作である仕掛人藤枝梅安を読まなかった理由は、TV朝日の荒唐無稽な仕掛人シリーズによるところが大きい。

当時のTV朝日は、暴れん坊将軍を放送してるような局てすからね。

ドラマで勝てないからニュースステーションをやったテレビ局の作る時代劇ですから、当時の作品としての姿勢そのもののレベルが低い。

元々の原作である「仕掛人梅安」を本格的に作ったのは、時代劇作りには定評のあるフジテレビでした。

そのフジテレビ版藤枝梅安を演じたのは、小林桂樹であり、渡辺謙でした。

中でも渡辺謙の「仕掛人梅安」は傑作だったと思います。

今回、それを豊川悦司氏が演じます。

20世紀少年でのオッチョ役は、もう一つだったけど。


ようやくに作品について語ります。

この映画には映像に拘り、脚本に拘り、何より制作者が本物の時代劇を作ろうとする熱意があります。

こういう時代劇を作り続けてほしい。

一つ一つの描写が美しい。

大川を渡る船と江戸の街並み、そして遠くに富士を置く風景、それが江戸の美しさを見せてくれます。

特に映画の持つ闇を表現するかのような夜の蝋燭の灯りの暗さと光の持つ柔らかさかそこにある。

その意欲を何よりも買う。

いくらフジテレビがバックにあるとはいえ、CSというマイナーな放送局が、これだけ贅沢な役者やセットを使って映像化させたことに喝采を叫びたい。

映画よりも映画らしい。


物語を少しだけ。

仕掛人藤枝梅安は、腕の良い針医者を生業にしているが、それは表の顔。

裏の顔は、金で人を殺める裏の家業仕掛人である。

ただ、殺しを生業にしてる以上、自分なりの掟を持つ。殺すのは人の為にならない奴、また起こり(殺しの発注者)に嘘がない事。

それが破られた時は、金にならない殺しも厭わない。


ある日梅安は、料理屋の女将殺しの、依頼を受けます。

しかしその殺しのカラクリと女将の素性に深い闇が覗くのです。

映画は、それを淡々と描いてゆきます。

そして僕たち観客は、その闇を息を呑んで見ることになるのです。


丁寧に丁寧に作られた映画です。

エンドクレジットの後に、第二部の予告編がチラリと覗きます。

それは彦さんの話へと続きます。


さて、これだけ褒めて褒めて、面白く見たけど、それだけでは面白くない。

しいてあげればの欠点というか、物足りなさを言うならば、この映画の持つピーンと張り詰めた空気感を生み出している緊張感が重い。

ほんの少しのユーモアが欲しい。

黒澤明が何故にあれほど海外(特にアメリカ)で評価が高いのか、それは黒沢映画の持つユーモアなりペーソスなりが、映画に潤いを与えているからまた思う。

そうして考えると、豊川悦司の梅安、片岡愛之助の彦さん、共に上手く演じていますが、それが上手すぎて逆に硬さにでとあると思う。


でもね、あいかわらず天海祐希は良い女優だし菅野美穂は艶っぽい。

面白かったねぇ。