いつも馴染みにしているショッピングモールにあるシネマモールは、場所が場所であるだけに、上映作品の多くがファミリー向けかじゃり用のアニメとぎ半数。
残り半分のうち。その半分を日本映画のティーン向けラブコメ。
だから大人の鑑賞に耐え得る洋画なんてのは、いくつかしか公開されない。

だから、この作品T34も仕方なしに、ちょっと遠いもっと大きな専門のシネマコンプレックスまで足を運びました。
そもそもが、ロシア映画が普通の映画館で公開される事自体珍しい。
ポスターに全露NO.1メガヒットとあるように、配球会社に自信があったんだろうね。
それでも昨今のアメリカ映画に多少壁壁としてたから、こういう映画の公開は素直に嬉しい。


感想を端的に言うと、映画はロシア映画でも内容はハリウッド映画でした、というところ。

戦車の砲弾の飛び交う様をVFXでスローに描くやり方は、マトリックス以来のアメリカ映画の手法だし、そこにロシアらしさは無い。
物語そのものも第二次世界大戦のソビエト対ナチスドイツという西側からすれば真新しさははあるものの、ストーリーそのものは複雑さの無い単純明快な戦争映画です。

ただしこの映画、戦車対戦車を描くという点が真新しい、というか、こんなにも戦車をメインに据えた映画は無かったのでは、というくらい戦車が主役の映画です。
ソビエト製T34とドイツ製パンサー(字幕表示はパンターとドイツ語読み)の対決という発想が面白い。
まさに血脇胸躍ります。
男の子は戦車好きだしね。
今は知らねど、昔僕らは子供の頃は戦車のプラモデルを良く作ったものです。
あのどんな悪路でも走るキャタピラと砲弾すら跳ね返す分厚い鉄の塊。
あの姿に憧れなかった男の子はいないでしょう。
だからその戦車を見てるだけで楽しい!

物語は、第二次世界大戦の対独露戦。
ドイツ軍捕虜となった戦車隊の4人がドイツの捕虜収容所を戦車で脱走、チェコを目指すというもの。
その戦闘シーンのクライマックスも戦車戦なら、オープニングの1台の戦車でドイツ軍中隊の戦車隊をやっつける、なんていうのも実物。
冒頭にも述べたように、細かな理屈は要らない。

少しだけ、この映画が本国ロシアで大ヒットとなった要因を考えてみたい。
どの国でも母国愛というものがあります。
取り分け、ロシアの愛国主義は根強いものがあると聞きます。
そのロシアにおいて、対ナチスに対する戦勝というのは、ソビエトとしての誇りでありました。
ベルリンを陥落させたのもソビエトでしたからね。
であるからして、戦後ソビエトはナチスとの戦勝戦映画をたくさん作りました。
ソビエト社会主義連邦共和国の高揚という意味合いもありました。
そんな映画を見て育った世代にとっては、強いソビエトは誇りでありました。
ところが、ゴルバチョフのペレストロイカのよって、ソビエトは解体、ソビエトという社会主義国は崩壊。多くの衛星国や連邦を形作っていた国々(バルト3国やベラルーシ、ウクライナなど)を失い、ロシアという中進国が残りました。
世界でアメリカに唯一対抗し得る大国であったロシアの凋落に国民は大いなる挫折を味わいました。
そこへ登場したのがウラジミール・プーチン。
この元KGB長官だったという経歴の大統領は長期政権を挽き、強権を発動。
チェチェンを弾圧しウクライナ領でクリミア半島も強引にロシア領に組み入れました。
こうした強引な政策は西側諸国からパッシングを浴びましたが、実はロシア国内では強いロシア、西側諸国に媚びない政権として国民の支持を得ました。
余談だけど、安倍首相がプーチンと会談する度に北方領土返還(二島返還にしても)への希望を持つ方々。
特にメディア関係者なら、その辺のロシア国内の事情を考えれば、ロシアが日本に領土返還する気なんてあり得ないと分かるはず。
プーチンにとって強いロシアである事が国民支持の基盤であるわけで、日本への譲渡や妥協は国民への裏切りになりかねない。
私たちはその辺の国際情勢を見極めながら、ニュースを見ていかねばなりません。

強いロシア、誇り高きロシア!
映画T34の戦車にはそれがあります。
であるからしてのロシアでの大ヒットでは無いか、と僕は推察します。
国家としての気概と国民としての誇り。
それが行き過ぎる事の不安はるあれど、ともすると自虐的になる事を肯定す?ような姿勢のある日本と対局にあると言えましょう。

映画の話題に戻るけど、砲弾の飛び交う様にVFXはあれど、実際の戦車をふんだんに使っているからこその迫力と重量感がこの映画にはあります。
ブラッド・ピットの戦車映画「フューリー」よりは遥かに面白い。
ロシア映画はソビエト時代から物量にかけては定評があります。
この映画もやたら人と物が溢れてる。
これは映画に絶対必要。
日本では望めないものですね。

戦車映画に限って言えば、「バルジ大作戦」以来の傑作と呼んで良いかも。
あくむで男の子としての感想だけど。

最後に戦車のウンチクをもう少しだけ。
作家の司馬遼太郎氏のエッセイによれば、氏は戦争中戦車隊への配属だったそうです。
氏はそれを冷静に振り返り、日本陸軍というのは外国の兵器を真似て作るとき、少しだけ性能の劣るように作ると書きます。
当時の日本の国情に合わせ兵費削減ではあるのだけど、砲弾は敵の戦車の鉄板を貫く事はできず、自らは敵の砲弾には無防備という情けない戦車だったそうな。
なるほど、日本に戦車映画が出来ないわけだわ。

山田洋次監督の。「馬鹿が戦車でやって来るなんて喜劇はあったけどね。