風は強く、目の前の雲がスピードを上げて流されていく。
 南へ行くなんて簡単に言っちゃったけれど、思ったよりも大変だ。僕の翼は小さいし、第一僕は、鳥は鳥でも渡り鳥ではない。
 どこかで休もう、そう思ったけれど、この辺りの雲たちはみなせっかちで、僕の声なんか聞いてくれなそうだ。太陽もすっかりと顔を隠してしまった。夜の中を飛ぶのは、少し骨が折れる。なんせ、僕は鳥目だ。
 仕方ない。
 地上へとゆっくり下降してゆく。
 木が何本か立っている場所を見つけ、その中の一本の枝に腰を下ろした。
 なんだか疲れたな。ずっと高いところを飛んでいたから喉が渇いた。鳴いてみようかと思ったけれど、喉の奥に何かが張り付いたみたいに、上手く声が出なかった。
 水が飲みたかったけれど、これ以上動くのは億劫だった。お腹が空いたけれど、探しに行くくらいなら我慢したほうがマシだった。
 なんだか柔らかい毛玉を間違えて飲み込んだときみたいに、胸の奥が詰まっていた。
 このまま眠ってしまおう。そう思って目を瞑っても、まぶたの裏に浮かぶのは、なんだか悲しい記憶ばかりだった。
 空を見上げてみた。
 葉と葉のあいだから、黒い夜の闇が覗いて見えた。
 ああ、そうか。
 僕、寂しいんだなあ。と、ようやく僕は気づいた。
 喉に張り付いていたものは、渇きじゃなくて孤独なんだ。