そうなんです!
現在、INSPiのニューアルバムを制作しているんです!

今日はリハーサルの後、レコーディングのミックスダウンという行程をして来ました。
つまりは先日クラシックホールで録ったメンバーの声をステレオで聴いて一番心地良い状態に調整をする行程です。
とは言え今回はクラシックホールでの一発録りという方法で録ったため、いつものようにあれこれと技を駆使出来るわけではないのですが・・・。

そもそも、なぜ今回この一発録りという方法を採用したのか。
それは昨年リリースした10周年アルバムのレコーディングにさかのぼります。

10周年アルバムではゲストにコーラスの大大先輩であるボニージャックスの皆さんを迎えました。

僕はここ数年、レコーディングの際はエンジニアの仕事も担当しているので、このボニージャックスさんの歌を録音する時も、色々と録音方法の提案をさせてもらったのですが、始めは近年のどのアーティストもスタンダードな方法として採用している、一人一人の前にマイクを置いて、一人一人の声を別々の音として録る方法を試してみました。

しかし、なんだかしっくりと来ない。
なんだか、ボニージャックスさんのハーモニーという感じがしなかったのです。

するとボニージャックスさんから提案が。

今度はボニージャックスさんが昔からずっと採用して来た方法、ボニージャックスのメンバーの皆さんの前にひとつだけマイクを置き、皆さんの声を全て一本のマイクのみで録るという方法で録ってみようということになりました。

この方法、レコーディングの機械がまだまだ発展途上だった時代ではこう録る以外になかったのですが、今は随分と技術が進み、一度この方法で録ってしまうと後でやり直しがきかないこともあって、最近ではあまり採用されなくなってしまった方法なんです。
けれど、この方法でボニージャックスさんが歌った時、スピーカーから流れてきた音は先ほどとは全く違う、神々しさすら感じるほどの素晴らしいハーモニーだったのです。

僕はその理由を考えてみました。

ひとつは、近年のスタンダードな方法でハーモニー録ると、その声は機械上で混ざり合うことになります。
しかし、マイク一本で録ると、メンバーの目の前で混ざった音が一本のマイクで録音されることになるのです。
その違いは思った以上に大きいのではないか。特にアカペラという音楽だと。
それが一つ。

そしてもう一つの理由が、これこそが一発録りに踏み切った理由なのですが、このマイク一本で録る方法を採用すると「ズレも一緒に録音される」のです。

音楽にはグルーブというものが存在します。
その正体は実は「ズレ」なのです。

均等に揃ったものは美しい。
しかし、どこか味気なくもあります。

均等に並んだもののにズレが生じて初めて、そこに良きにしろ悪きにしろ、感情というものがやどるのでしょう。

ハーモニーは人間関係そのもの。
誰かがズレてしまった時、それを助けるために自分もわざとズレたり、またはズレた人が正しい道に戻って来るまでその道を懸命に守ったり。
そういったそれぞれの感情のやりとりが歌の中に見えるからこそ、ハーモニーは面白いのかも知れない。

ならばそれごとレコーディング出来ないだろうか?
ハーモニー上での豊かな会話、それこそがアカペラのグルーブなのではないだろうか?

ボニージャックスの皆さんが気付かせてくれたハーモニーの醍醐味を、新しいINSPiのアルバムとして今、形にしようと頑張っています。