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今回、長崎では思案橋のホテルに宿泊しました。

ここは、かつて商人や町民たちが談合したり遊んだりした長崎の遊郭・丸山に「行こうか戻ろうか」と思案した橋があったところです。丸山は、江戸の吉原、京の島原とならんで日本の三大遊郭と言われていました。昭和32年に廃止になるまで320年続いたと言われています。


 今、思案橋近辺はたくさんの飲食店がひしめき合い、夜は観光客や地元のサラリーマンたちで賑わっています。何本もある細い路地には、こぎれいな構えの店や、大丈夫かいな?と思わせるほど古びた看板の店、薄汚れた店に挟まれた場違いのモダン店舗などなどが隙間なく並んでいます。今回初めて一人でうろついてみましたが、大して物騒ではなさそうでした。観光客風の男女や、老夫婦、サラリーマン、大声で話しながら店を探す若者たちが、狭い路地を行き交っています。私もどんな店があるのかと物珍らしさにかられて歩いてみました。まず鮨屋の多さに驚きました。昔は長崎には「鮨屋」はあまりなかったような・・・? 

 不意の来客があれば近所の食堂から皿うどんやちゃんぽんを出前してもらい、同時に魚屋に走って新鮮な魚の刺身を発注する。魚屋は注文を受けた魚を急いでこしらえ、大皿に格好よく盛って、家まで届けてくれる。江戸っ子のように鮨の出前なんて考えたこともなかったし、近辺に鮨屋もありませんでした。ご飯と刺身。これがふつうの長崎人の定番でした。それがどうでしょう? 思案橋付近だけでも何軒もの鮨屋が軒を並べています。寿司割烹の店、握り寿司などと但し書きは色々でも一つの路地に複数件の鮨屋があります。

 

 そぞろ歩きをしていたら、以前聞いたことのある「地元人御用達」の鮨屋を見つけました。間口一間ほどの小さな店です。丁度暖簾が出たばかりだったので覗いてみました。カウンター席が10程しかないこじんまりした店です。白木が清潔で好感が持てました。

「一人ですけどいいですか?」と言うと、3人のスタッフが顔を見合わせ困っています。どうも予約で一杯らしい。店主らしき人が「7時までならいいですよ」と言ってくれました。噂にたがわず混んでますねえ。「じゃあ7時迄」ということで入り込んだ。6時にオープンしたばかりなのに、既に2つの席は埋まっていました。私は早食いなので1時間もあれば充分です。


 店主が「何にしましょう?」というので、「おまかせで・・・」と頼んだ。私は、普段は徹底した菜食ですが、旅に出るとたまには狂食になります。

 通常、懐石料理やお鮨は「間」をおいて一つづつ供されます。それが此処の鮨屋には驚きました。一つめは普通に「はいっ! どうぞ」。 どれどれ・・と口にいれるや否や~「はいっ!」と、次のが出てきた。何時もなら早食いの私は、次のが出てくるまでに時間をもて余すのです。なのになのにこのスピードは何?? まだ一つ目をモグモグ中~。 大急ぎで飲み込んで2つ目を口にいれたら、直ぐ3つ目が「はいっ!」。2つ目を飲み込もうとしたらもう4つ目が「はいっ!」

 いくら早く切り上げて欲しいからと言ってもこれはないでしょう?早食いを誇る私も付いていけない~~~っ! 6つ目の頃には目の前のハランの葉っぱの上には鮨3つ残。 

  ジェット食い?しながら、店主との会話も弾ませ交流を深めるから私はなお忙しい。

「お客さんはどちらから?」 「名古屋です。出身は長崎ですけど」

「長崎のどちら?」 「稲佐です」

「じゃあ 淵中学?」 「いえ、丸尾中学です」

「一緒たあい!。ワシも丸尾。ここにいるもんは皆丸尾。ワシの師匠も丸尾たい!」 「へえ~え、そうですかあ」


 なんだか店主一人で盛り上がっているご様子。話していくうちに、彼は私の生まれた町内に40年も住んでいたと云うことが判明。ふと入った店で生まれた町の近況を知ることができました。大急ぎで鮨を頬張りながら期限の7時を目指す私の気も知らないで 「ビックリする縁やかね~~」 と無邪気に喜ぶ店主でした。

 

 この界隈の店舗経営者は何だか好ましい~。人の良さが滲み出ています。材質への拘りもうれしくなります。白身の魚など新鮮過ぎて嚙み切るのは容易ではありません。ぷりぷりなんです。のどに詰まらせないよう要注意!

 

 そういえば前日の「天婦羅や」も個性的でした。有機野菜と地魚への拘りがありました。それに普通の天婦羅とは衣が違う!油が違う!素材が違う!

天婦羅が〝素”の味を生かす料理だということを初めて知りました。


 小さな座敷テーブルが2つに、カウンターが10席の小さな店。店主は「○○入道」と呼びたい出で立ちで温和な語り草。丁寧な手さばきが旨さを増す。


店主の心意気に感服して舌鼓をうっていたら、ガラガラっと戸が開いて「こんばんは~」との声。「へい~っ!いらっしゃい!」と店主が答える。「こっちは裏口ですかあ?向こうに玄関がありますう?」とその人は真顔で言う。 「あ~~言っちゃったヨ」と、私はノンアルコールビールをぐぐっとあおった。


 店内に足を踏み入れ、靴を脱ぎながら私はチョコっと後悔しました。こんなに古く、こんなに色褪せた店を選んだことを。


でも「裏口ですかあ?」はないでしょう! マ、確かに開けたガラガラ戸は、貧しい農家の古びた裏木戸のようだし、靴脱ぎ場は、暗くてひなびた温泉場を彷彿とさせるものがありました。

でも「裏口ですかあ?」はないでしょう!

通りに面したどの店もコチラが玄関!この店だけ裏口はないでしょう。

確かメニューだってちゃんと出ていましたよ。裏口にメニューを出します?


 れっきとした「玄関」で「裏口ですかあ?」といわれて店主はどうしたか?

ふつう~~。機嫌よくそのご夫妻を招き入れ、私との天婦羅談義に花を咲かせました。

この店は、また行きたい店ナンバーワンです。「夢風」といいます。