突然ですが。
国語の教科書にも載っている
百人一首のこの歌。
どんな情景が浮かびますか?
天の原
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
出でし月かも
安倍仲麿
【現代語訳】はこんな感じです。
天を仰いで
はるか遠くを眺めれば、
月が昇っている。
あの月は奈良の春日にある、
三笠山に昇っていたのと
同じ月なのだなあ。
どうでしょう?
絵にするとこんな感じですか?
この歌、本来は
とても感動する歌なのですが
歌を聞いただけでは
あまり感動できないですよね。
それは、
歌の背景を
あまりよく知らないから
なんです。
この歌の読み人 安倍仲麿は、
十七歳で遣唐使に選ばれました。
遣唐使って、
なかなか危険な船旅なんですよね。
そこで出発前に
奈良の春日にある三笠山へ
旅の安全祈願に行きました。
安倍仲麿は
空で輝く月を見上げて、
異国の地を思い、
希望に胸を躍らせていました。
それからしばらく経ち、
何回も
「日本へ帰ってこないか」
という誘いはあったのに、
その度に皇帝に
引き止められてしまう。
帰りたい 帰れない。
やっと
帰国することになった時には
唐に来てから
36年が経っていました。
今度こそ、日本に戻れる。
家族や友人に会いたい。
そう願いながら空を仰ぐと、
月が昇っている。
今ここで見える月は
十七歳のときに見たあの月と
同じ月なんだ。
風向きの関係で、
日本から唐へ渡るよりも
唐から日本へ帰るほうが危険で、
難破の可能性が高い。
でもその
危険な道中への不安よりも
日本へ帰れるという
希望の方がはるかに大きく
胸が躍る。
月を見上げた
十七歳のときと同じように。
天の原
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
出でし月かも
安倍仲麿
どうですか?
背景を知っていると
歌の解釈が
全くちがったものに
なりますよね。
これと同じような現象って
日常的に起こっています。
聞こえてくる言葉だけを
拾ってしまって
誤解していることや、
相手が
本当に伝えたいことを
正しく受け取れてないことが
あります。
相手の言うことに
腹が立ったり
傷ついたりしてしまったら、
「何か事情があるのかな?」
と、背景に目を向けると
違った解釈が生まれることも
あります。
余談ですが。
安倍仲麿は
このあと日本へ帰る途中、
海が荒れてしまい
結局、唐に戻ることになります。
三笠山の月を見ることなく、
最期まで皇帝に仕えた
人生でした。